第177話 『暁』のパメラ

 恋人らしき男の首に腕を絡めたまま豹獣人の女性は此方を見ていて、目が合うとニコリと微笑んだ。

 どういう意図で微笑んだのかわからなくて、つい日本人特有の曖昧な愛想笑いをへらりと浮かべてしまった。



「そろそろ出発するぞ~! 馬車に乗ってくれ~!」



 ギルド職員の号令で寛いでいた全員が馬車へと移動を始めた。



「次に止まるのは昼休憩だからな、滝があるから汗流したきゃ準備しとけよ~」



「滝!?」



「ああ、そういや国境砦の手前に滝があったな。高さは5mくらいだし下で水に当たっても大丈夫だから砦で風呂の順番待ちするのが嫌だったらそこで済ませる奴もいるんだ。抉れてるせいで滝の裏側にも入れるから滝越しに見る景色は面白いぞ」



「裏側!? リカルドは滝に行った事あるの?」



「アイルが加入する前に王都へ向かった時に採取依頼でな。あの滝の近くに生える薬草があるんだ」



「へぇ~」



 滝というワードに思わず足を止めて振り返ると、リカルドが背中を押して馬車へと促しながら説明してくれた。

 滝の裏側なんて絶対入るしかない!!

 豹獣人の事も忘れて期待に胸を膨らませながら馬車に乗り込む。



 時々小物ながら魔物が出たので先頭の馬車に乗っている冒険者が討伐しつつ無事に滝へと到着した。

 滝はカーテンの様に横に広く、所々岩で途切れているが見応えがある。

 水量はそんなに多く無いので水浴びには丁度良さそうだ。



「うわぁ~! 綺麗だねぇ、早速準備しなきゃ!」



 御者達が昼食準備をしている間に私はテントを組み立て水着としても使える下着に着替えた。

 他の冒険者が集まってる所から少し離れた場所で水着の上にローブを羽織って滝が流れ込む川へと入り、滝の切れ目から滝の裏側へ移動する。



「おお~、向こうが見える! おーい、皆は来ないの~?」



 水のカーテン越しに仲間達に手を振ってローブを脱ぎ、滝に突っ込んだ。



「あぶぶぶぶ、あばぁッ」



 お、思ったより水の力が強い…!

 そして水温がかなり低いから水が当たると痛い、だから皆来なかったのか!!

 水圧に押し潰されそうになったが何とか脱出し、ローブを肩に引っ掛けてダッシュで皆の元へ戻る。



「ハァ…ハァ…、酷いよ! 大変な事になるのわかってて教えてくれなかったでしょ!?」



 皆は俯いたり目を逸らせたりして肩を震わせている。



「ふぐ…ッ、い、いや、まさか滝にそのまま突っ込むとは思わなくてな…? 普通はほら、ああやって滝の切れ目で丁度良い水量の所を利用するとか、川で布を濡らして身体を拭くとかするんだ」



 確かに向こうで水浴びしてるパンイチの冒険者達は滝の切れ目の所にしか居ない、滝と言えば修行でど真ん中に立つイメージしか無かったのが敗因か…!



「それよりアイル、その格好で見られて良いの?」



「へ? コレ? 水着だから良いよ?」



 ローブは肩に引っ掛けているだけだから前からは水着が見えている、ビビアナとホセは普通に見ているが、エリアスとリカルドはチラ見はするもののあまり見ない様に気を遣っている様だった。



「お前エドガルドから貰った夜着が下着みたいに見えるから恥ずかしくて見せられねぇって言ってのにその格好は平気って事は…貰ったヤツはもっと「ちがーう! 水着は感覚が別なの!!」



 このスポーツブラとボクサーパンツみたいな色気の無い水着とヒラヒラ甘々なナイトウェアを一緒にしちゃダメでしょ。

 コレより露出高いナイトウェアって下着みたいじゃなくて下着でしょ!

 それかスケスケのベビードールくらいだよ!



「ねぇ、水浴びするなら一緒にどう?」



 少しハスキーな色気のある女性の声が聞こえたと思ったらローブが引かれて肩から落ちた。



「へ? え!?」



 振り返るとチューブトップにホットパンツという格好の豹獣人が居た。

 ヒョイと抱き上げられ滝へと向かう、皆は女性に敵意がないからなのか、突然で驚いているのかポカンと眺めているだけで止めようともしない。



「最初に見た時は小さい女の子が居るけど大丈夫かなぁって心配だったのさ、だけど馬車で面白そうな話してるし、さっきの休憩でも興味深い話してたから気になっちゃって。あ、アタイは見ての通り豹獣人でAランクパーティ『アウローラ』のパメラっての、よろしく」



 私を子供の様に片腕に乗せて縦抱きにしたままパチンとウィンクをした。



「あ…、私は『希望エスペランサ』のアイルよ」



「ははっ、実は名前は聞こえてたから知ってるんだ。普段ムサイ男共に囲まれてるからアイルみたいな可愛い子は新鮮だわ~、ほい、到着」



 滝の手前で川の中に降ろされた、滝の水は直接当たらないけどミスト状の飛沫で気持ちいい。

 ニコニコと人懐こい笑みを浮かべるパメラの姿は恋人とイチャついていたさっきの休憩の時とは別人の様だ。

 ゆらゆらと揺れる尻尾に見惚れていたら冷たい水が顔に掛けられた。



「ひゃっ」



「あはは、尻尾が気になるの? 触りたい?」



「良いの!?」



 マジか!?

 ホセのふわふわ尻尾も良いけどネコ科のスルスルとしているであろう尻尾も魅力的だ。

 思わずコクコクと頷くと、パメラはニヤリと笑った。



「ふふっ、獣人の耳や尻尾は親しい相手にしか触らせないって知ってるよね? 触らせてあげるからぁ…アイルの事も触らせて?」



「へ?」



 流石ネコ科、気付いた時には背後からスルリと手が伸びてきて私を撫で始めた。



「うわぁ、抱き上げた時も思ったけど、赤ちゃんみたいに滑らかな肌してるねぇ! ウチの男共とは比べ物にならないよ、胸も掌サイズで可愛いわぁ、程良い柔らかさと弾力で揉み心地良いし、お尻もプリプリしてて気持ち良い~」



「え!? やっ、何!? やめっ、ひゃぁっ」



 何で撫で回されて胸まで揉まれてるの!?

 まるで初見の玩具をどんな使い方出来るか調べている子供の様に私を弄り回すパメラ。

 逃げ出そうとしたけど抱き締める様に捕まっているせいでジタバタともがく事しか出来ない。



「おい、いい加減にしろ、これ以上コイツを見せ物にするんじゃねぇよ」



 ホセがパメラを引き剥がして助けてくれた、見せ物ってどういう事!?

 ホセが持って来てくれたローブを羽織って冒険者達の方を見るとサッとあさっての方を見る人達とニヤニヤしながらこちらを観察している人達が殆どだった。

 セクスィーボディで露出の高いパメラが居たらそりゃ見ちゃうよね、そのついでに私も見られてたって事か。



「もぉ~、自分が触れないからってアタイの邪魔しないでよね!」



「…………飯が出来たってよ、行くぞ」



 ホセが触った事はある、だけどホセは言い返さずに食事が出来た事を告げて私を皆の元へ回収した。

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