第178話 狼煙

 今日の昼食は道中遭遇した角兎ホーンラビットの肉入りのスープとパンだった、テントで着替えてスープを飲むと川の水で冷えた身体が暖まる。



「はぁ~、冷えた身体に染みるわ~」



「アイルは男の前で肌を晒すのは平気なの?」



 食事をしていたらエリアスが聞いてきた。



「水着の事? パメラも着てたし普通じゃないの?」



「ゴフッ、ゲホゲホッ、ちょっと待てアイル、まさか獣人の感性と同じなのか!?」



 私の返答にリカルドが咽せて咳き込んだ、だけど全裸見られても動じない獣人ホセと一緒にされるのは勘弁して欲しい。

 海のある町に行った時は泳げる時期じゃないかったから誰も泳いでないのが当たり前だと思ってたけど、もしかして夏も…誰も水着で泳いだりしないの!?



「え…、ちょっと待って、夏の暑い時期になったら海や川で遊んだり泳いだりするよね!? その時服着て泳いだら溺れちゃうし、水着で泳ぐよね!?」



「ハァ!? お前今みたいに冒険者が周りに居る時でも無けりゃ水に入るワケねぇだろ、魔物に襲って下さいって言ってる様なモンだぞ? ってか、みすぎとか言うやつと下着と何が違うんだ?」



 ホセに思い切り呆れた目を向けられた、他の3人を見たら当然とばかりに頷いてるし。

 ちょっと待って、もしかして私痴女扱いされてる!?

 さっき注目されてたのもパメラを見てただけじゃなくて、露出趣味な女が水浴びしてるぜ~的な感じに思われていたって事!?



 オーケー、落ち着け私、幸いウルスカから来てる冒険者は殆ど居ないし、その冒険者も私が16歳だって知らない可能性がある。

 て事はワンチャン10歳くらいの子供だからまだ恥じらいなんて無いんだって思って貰えるかもしれない!

 まさか子供に見られる事にありがたみを感じる日が来ようとは…。



「あはは、文化の違いってやつだねぇ。アイルの故郷では肌を晒して水に入るの?」



「うん…、夏には私やパメラみたいな格好で海や川とか専用施設に沢山の人が集まるよ」



「あんな格好で…」



「沢山…」



 リカルドとエリアスがゴクリと唾を飲み込んだ。



「言っておくけど若い女性だけじゃなくて家族連れとかああいう男の集団とかもいるからね?」



「「ああ…」」



「ふぅん、楽しそうねぇ」



 向こうで食事をしている冒険者達に視線を向けると、ちょっとガッカリした2人と対称的に今度はビビアナが妖艶に微笑んだ。

 どちらにしても皆はその光景を見る事は無いんだけどね?



「それにしても貴族じゃなくても肌は見せないんだね、夏の服装ってどうなってるの? 半袖とか袖無しの服は着る? 今までだと10代だったらこんな感じの服とかだったんだけど…、年齢によって段々肌を見せなくなるね」



 地面に石でミニスカやショート・ハーフパンツ、スカーチョに合わせてキャミソールやカシュクール、ボタンシャツやチュニックを描いていく。



「へぇ、涼しそうだわ。だけどこっちだと半袖はあっても脚を見せる服装は獣人くらいしか着ないわね、脚が見られるのは恋人か夫の特権ってところかしら?」



「そういう文化か~、確かに国によって昔は素足を見られたら裸を見られたも同然で結婚しなきゃいけないとかあったみたいだし…。とりあえずこの依頼の間は子供のフリしておくよ、子供ならさっきの水着姿でも許されるよね?」



 ポイと石を地面に放って手に付いた土をパンパンと払い、皆の方を見る。

 肯定の言葉を待っていたのに誰も返事をくれないので不安になっていると、リカルドが気まずそうに口を開いた。



「それがな…、多分アイルの年齢はバレると思う。ギルド職員は参加者リストを持っていて名前と年齢とランク、それに得意武器は把握出来るからな。誰かがギルド職員に聞いたら年齢に驚くだろうからあっと言う間に皆に知れ渡る…と思う」



「く…っ、いっそ私にケモ耳と尻尾が付いていれば変に思われなかったのに!」



 私が頭を抱えていると、もうすぐ出発するとギルド職員が冒険者達に声を掛けた。

 食事に使っている器は各自の物なので川で洗ってテントと共に片付けると出発の時間になった。



「もう国境砦まで休憩も無いからな~、今の内にトイレも済ませておけよ~」



 その言葉に何人かは草叢に姿を消した、しばらくしてから全員揃ったのを確認して出発する。

 水着の件は無かった事にしよう、無理矢理自分にそう言い聞かせ話題を変えた。



「砦で1泊して明日セゴニアに入国するんだよね、文化とかパルテナと違ったりするのかなぁ」



「多少違うところもあるけどセゴニアは殆ど変わらないと思って良いよ、陸続きで隣だし」



 周辺国の地理を無理矢理地球に当て嵌めるとしたら、南北が逆になるがパルテナがスペインでセゴニアがフランス、タリファスはモロッコという位置関係にある。

 という事はヨーロッパ文化という大きな括りでは同じだけど、地域色があるって事か。



 もしかしたらトリュフ的な地域の珍味もあるかもしれない、到着と同時に大氾濫スタンピードが起きない限り買い物も出来るだろう。

 幸い通貨は世界で統一されてるらしいので手持ちのお金で買い物が可能だ。

 そんな事を考えていたら、進行方向で赤い狼煙が上がっているのが見えた。



「大氾濫が始まった…!」



 御者のおじさんが狼煙を見上げて言った、国境砦から点在する小さな村々には緊急連絡用の狼煙でエスポナに状況を報せる役目があると言う。

 エスポナ周辺のAランク以上の冒険者は既に応援でセゴニアに入っているらしいが、これまでの予測からだとあと1週間程余裕があるはずだったとか。



「これは…、砦で休息が取れなくなったな。恐らく馬を替えて休憩無しでダンジョン都市カタヘルナに向かう事になるかもしれない。陽が沈むまでに到着出来なきゃ俺達もかなり危険だぞ」



 リカルドが赤い狼煙を睨み付けながらそう言うと、それを肯定するかの様に馬車の速度が上がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る