第106話 見慣れた道

「あぁ~、帰って来たねぇ」



 ウルスカ近くのいつも探索する森が見えて来た時点でエリアスが噛み締める様に言った。

 今の私は出発時と同じ様にホセの前に乗っている、あの1日獣化キープの刑の時にホセは敢えて犬っぽく振る舞ってくれた。



 空が死んでから1年経って無いし、思い出しただけで秒で泣けるけど、かなり私の心は潤った。

 なので私の胸を触った事や心無い言葉を投げつけた事は赦した、ただあれからホセと寝るのを躊躇う様にはなってしまったけど。



 護衛の仕事だからかガブリエルはともかく3人共ほぼ娼館に行って無かったみたいだし、寝惚けたからと言ってアレ以上手を出されたら赦せなくなると思う。

 冬だし人肌が恋しくなる気持ちはわからなくもないけどさぁ。



「はぁ、やっぱ寒い…王都の暖かさが恋しいね」



「はは、あとひと月もすればコートも要らなくなるさ」



 粉雪がチラつくのを手で受け止めながらながら言うと、リカルドが教えてくれた。

 日にちも季節もほぼ日本と変わらない様で

感覚が狂わなくて助かる。

 そっかぁ…、あとひと月で春なのか、今は2月半ばだからそんなもんか……あれ?



「あ、私もう16歳だ」



「「「「「は!?」」」」」



「あはは、王都から帰ってる最中にいつの間にか歳とってたねぇ。移動してたから日付け意識しなかったからすっかり忘れてた」



 1月末生まれの好奇心旺盛な水瓶座☆なのである。

 この身体は女神様が作ってくれた物だからもしかしたら転生した日が誕生日かもしれないけど、あの日が何日かなんて覚えてないから仕方ない。



「毎日見てるせいかあたし達には分からないけど、エドは成長してる的な事言ってたものね。まぁ、成人してから成長するなんて珍しいんだけどアイルだし」



「ああ、見た目もそうだが成長の早さも違うのかもしれないな」



「サブローはこっちに来た時点でオジサンだったから成長じゃなくて老化しかしなかったけどね、あはは」



「あ、それ文献で見た事あるかも、それでも実年齢より若く見えたらしいね」



「私達エルフには及ばないけど、確かに年齢知らない人が聞いた時は皆驚いてたね」



向こう異世界でも私達は民族的に若く見られてたからね。海外旅行したら自分の子供くらいの子にナンパされたとか聞いた事あるし」



「スゲェな、でもアイルの10年後とか20年後の想像しても今と大して変わらない気がするな。寧ろ老けたアイルが想像出来ねぇ」



「ちゃんと大人に見えるくらいには成長するから安心してよ、結婚だって申し込んで来た男の1人や2人や3人居たんだからね!」



 全部破談にはなったけど、心の中でそう続けたが、とりあえず見栄を張る為にも胸を逸らしておいた。

 ………あれ? 皆のリアクションが無い。

 どうしたのかと振り向くと皆が目を見開いて固まっていた、そこまで信じられないワケ!?



「嘘なんて吐いてないからね!?」



「あ、いや、そうじゃなくて…アイルの国はエドガルドみたいな趣味の人が多いのかなぁ…って」



 エリアスが苦笑いしつつ言った。



「前の私が27歳って事忘れてない? 法律で女性は親の許可があれば16歳から結婚出来たけど、成人は20歳なんだよ? それでも20歳の若さで結婚する人なんて殆ど居ないんだから」



「へぇ、20歳でも結婚しない人多いのね」



 ビビアナが話に喰い付いた、こっちの女性は20歳で結婚してる人が殆どだもんね。

 既に22歳のビビアナは行き遅れと言われる年齢に片足を突っ込んでいるのだ。



「そうだよ、結婚してなくて焦り出すのは30歳くらいからかな? それ以上になると1人が気楽過ぎて恋人は良いけど結婚はしたくないって人も出てくるし」



「わかるわぁ~、結婚したら恋人より縛りがきつくなるものね。私はいつまでも恋多き女でいたいわ」



「ふふっ、船乗りで港ごとに現地妻が居る人っていうのは聞いた事あるけど、ビビアナは将来街ごとに恋人が居たりして」



「あら、それいいわね!」



「え!?」



 ほんの冗談のつもりだったのに本当に採用しそうな勢いだ。



「ありゃ本当に実行するかもしれねぇな、ははは」



「はははって…、止めなくていいの?」



「ビビアナだからな、上手くやるんじゃねぇ?」



「相手も了承してるなら良いけど…騙して付き合うのは……やだなぁ」



 乗り気のビビアナに水を差したくなくてポソポソとホセにだけ聞こえる様に呟いた。



「それなら大丈夫だろ、あいつは騙してまで付き合おうとはしないだろうしな。どっちかってぇとセシリオみたいに一定期間だけってのが多いんじゃねぇ? ビビアナが誰かにずっと固執するのって見た事ねぇし」



「そっか…、そうだよね」



 長い付き合いのホセが言うなら間違い無いだろう、私はホッと胸を撫で下ろした。



「もうウルスカが見えてきてしまったね、楽しかった旅も終わりかぁ…。また魔導期時代の魔導具を君達が発見してくれるの待つしか無いね」



「そうそう発見出来る物では無いと思うんだが…」



「あはは、それなら発見出来そうな所に出向くしか無いんじゃない?」



「発見出来そうな所なんてあるの?」



「海辺は結構発見率高いんだよ? トレラーガを王都とは別方向に進むと海があるんだけど、海の交易路なだけあって昔難破した船から海流に乗って流れついたり、海賊が根城にしてた洞窟から見つかったりね」



 私の疑問にエリアスが答えてくれた、何だかんだ物知りだよね。



「へぇ、そっちの海にも港町があるなら行ってみたいかも」



「あるよ、他国へ船で行く為の港があるから漁港程海鮮が揃ってる訳じゃないけどね。でもトレラーガに運ぶ品が到着する港だから珍しい物は多いかも」



「へぇ、その内行ってみたいな」



「そうだな、今回で結構稼いだし、1度行ってみるのも良いかもしれない…な」



「やったぁ!」



 ウルスカの門前の列に視線を向けていた私はリカルドが複雑そうな顔をしているのに気付かなかった。

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