第40話 酒盛り

「アイルも飲めばいいのに~」



 既に5杯目に突入しているビビアナが座ったままズリズリと私の真横に移動しながら金属製のタンブラーを近付けて来た。



「あはは、あとせめて3年してからにするよ。それに…」



「それにぃ?」



「あ、ううん、なんでもない」



 咄嗟に誤魔化したが、生前一緒に飲んでいた友人達からお酒は3杯までってキツく言われている、3杯目で呂律が回らなくなるからそれが止める合図らしい。

 確かに4杯目の途中から眠っちゃったのか記憶が無い事が多かった様な…。



「でもよぉ、もう成人してんだし、どの程度飲めるのか自分の限界を知っといた方が良くねぇ?」



 ビビアナとは反対隣に座ってエールからウィスキーのロックに切り替えたホセがグラスを掲げながら言った。



「う~ん…」



 確かに女神様がくれた身体が生前と全く同じとは限らないか、魔法を使えるって事は造りも変わってる可能性もあるし…少しくらいなら良いかな?

 実はおつまみになる物ばかり食べているせいか、凄く飲みたくはあるのだ。



 水の入っていた金属製タンブラーを空にして魔法で氷を出す、う~んとか言いながらこの時点で飲む気満々だったりする。

 酒屋の店主が蜂蜜の華やかな香りがどうとかとウンチク垂れてたウィスキーをツーフィンガー(指2本分の高さ)注ぐ、炭酸水が無いのが残念だ。



「おっ、アイルも飲むのか?」



「アイルは酔うとどうなるタイプなんだろうね?」



 タンブラーに鼻を近づけてクンクンと嗅ぎ、久々のアルコールとウィスキー独特の香りを楽しんでいるとリカルドとエリアスが興味深そうに観察してきた。

 カラカラとタンブラーの中の氷を回し、少し氷を溶かしてからコクリとひと口飲む。



「っか~!」



「おっさんくせぇな!」



 中々の度数だったせいで食道と胃に灼ける様な熱を感じて思わず声が出たら、ホセにツッコまれてしまった。

 仕方ないじゃない、凄く久々だったんだもん。

 ジロリとホセを睨む私を見て他の酔っ払い3人はゲラゲラと笑っている。



 ホセのツッコミに負けず、ガーリックで香り付けしたオリーブオイルで炒めたザク切りキャベツを岩塩だけで味付けしたシンプルなおつまみを口に運んで咀嚼し、幸せを満喫。



 明日は皆二日酔いで潰れているだろうとガーリックがふんだんに使われたおつまみが並んでいる。

 若返ってるから夜の揚げ物も怖くな~い!



「美味しい~」



 お酒とおつまみを交互に口に運んでいたら、いつの間にかタンブラーを傾けても氷しか唇に触れなくなっていた。

 もう少し…、あとほんの少しなら良いかな? そう思いつつウィスキーボトルに視線を向けていると、ホセがボトルを掴んで私のタンブラーにドボドボと注いだ。



「なんだよ、結構イケるクチじゃねぇか! ほれ、飲め飲め!」



「ああっ、入れ過ぎだよ!」



 結構ギリギリまで注がれてしまった、氷の体積を考えたら実質タンブラーの半分も無いとは思うけど…。

 でも注がれちゃったら飲むしかないよね、もう、ホセはしょうがないんだから。



「あ、揚げギョーザが無い…」



「まだストレージにあるよ~、はいっ」



「やったぁ」



 空になったお皿に手を伸ばしてからエリアスが呟いた。

 予想通りポテサラチーズ揚げ餃子は皆気に入ってくれた様だ、包むのも手伝って貰ったからヒダを作るのを諦めて半分に折っただけのものが結構あるけど。



 皮をマグカップで型抜きして作ったけど、大変だったので暫くは作りたくない。

 唐揚げも紹興酒が無いからエール使ってるけど、炭酸のせいかお肉が柔らかくてコレはコレであり!



「らけろやっぱジャーキーは強いよれぇ、しゅもーきーさがウィスキーとも合うし、おちゅまみとして優秀らわぁ…(だけどやっぱジャーキーは強いよねぇ、スモーキーさがウィスキーとも合うし、おつまみとして優秀だわぁ…)」



 あれ? 私今どこまで声に出して話してたんだろう? ずっと頭で考えてただけのつもりだったのに、いつのまにか声に出して話してたみたい。



「くははっ、おいおい、ちゃんと話せてねぇぞ?」



「やだぁ~、アイルったら酔っ払ってるのね、可愛い~」



「どうやらアイルは酔うと呂律が回らなくなるみたいだな」



「あはは、リカルドはどれだけ酔っても話し方は崩れないけどね~! 次の日覚えてなかったりするけど」



 あ、もう空になっちゃった、あと少しだけなら良いよね、もう少しだけ飲んだらやめるから。

 あれ? ボトルを掴んだつもりだったのに手が空振っちゃった、おかしいな?

 よしよし、今度は掴めたぞ、ほんの少~しだ…あーあ、新しいボトルだったから思ったよりいっぱい入っちゃった。



「アイル? 大丈夫? そろそろやめた方がいいんじゃない?」



 何だかエリアスの声が遠くに聞こえる、大丈夫だよ、まだしっかりしてるもん。

 エリアスに向かってにっこり笑顔を向けたが、どうやら私ってば最初から笑顔だった様だ。



「顔が赤くなってるし、目がとろんとしているぞ、眠いのか?」



 全然眠く無いよ~、まだまだ飲めるし絶好調だよぅ。



「1人で歩けねぇんじゃねぇ? 部屋まで運んでやろうか?」



 視界の隅にフワフワの尻尾、空と同じ色の可愛い尻尾…。

 手を伸ばしたところまでは覚えている、どうやらそこで眠ってしまったのか記憶には無い。

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