第557話 クラーケン再び
「いやぁ~、そろそろ少なくなってきたスパイスとかあったから買い足せてよかった~! ついでに白だしとたれみそも買えたから言う事無しだよ~」
気候的に暑い国でしか栽培できない系だと、国内ではエスポナや王都でしか手に入らない物も結構あるのだ。
「そういや王都でラファエルのとこに寄るのか?」
御者席で隣に座るホセが聞いてきた。
もうエリアスがツッコまなくなるくらい、当たり前の光景となっている。
「なんで? ガブリエルもいないのに」
「あ、いや、王都に来ると最近は毎回寄ってる気がしてただけだ」
「確かにね~、王都に行く時は大抵ガブリエルが一緒だったっけ。だけど今回は午前中に王都に到着したら、そのまま素通りするってリカルドが言ってたから行かなくていいでしょ。ガブリエルから何か渡してって頼まれてるわけでもないし」
「なら今回は面倒な事が起こる事はねぇな」
「やだなぁ、そんな事言うとフラグになるって教えたじゃない」
「ははっ、そうだったな。
頬を引き
が、その時は王都に到着するより早くやってきた。
昼間の明るい場所だとわかりにくいが、通信魔導が仄かに光って声が聞こえたのである。
『アイル様、再びお会いできる日を楽しみにしておりましたが、どうやら私達はこれまでのようです。最後にお別れを言わせてください』
「カリスト大司教!? お別れってどういう事!?」
『ああ、アイル様の声……! 我々は現在船で移動しておりましたが、共に旅をした時に現れた海の魔物と同じ魔物がこの船を追っているのです。アリケンテ公国は見えていますが、到着前に追いつかれてしまうでしょう。あの時はアイル様がいらしたお陰で事なきを得ましたが、今回はもう……』
もうすぐ死んでしまうという時なのに、カリスト大司教の声は落ち着いているというか、自らの死を受け入れているように感じた。
通信魔導具からの声がおじいちゃんには聞こえていたせいか、リカルドが御者席の小窓を開けた。
「アイル、おじいさんが言ったんだが、カリスト大司教に何かあったのか?」
『アイル様! 我々は最後までカリスト大司教を守りますが、アイル様にお会いできて嬉しかったです!』
この声は聖騎士最年長のアルフレドだ。
エクトルやオラシオ、ウーゴとイサーク達が私に対して会えてよかったとか、また手料理が食べたかったなど口々に言っている。
声を聞いただけで彼らの覚悟や決意が伝わってきて、自然と手綱を持つ手に力が入った。
アリケンテ公国が見えるという事は、前回クラーケンが出た場所とほぼ同じはず。
「リカルド……、また皆に迷惑かける事になると思うけど……」「わかってる。ここで見捨てるようならアイルじゃないからな。行ってこい」
「ありがとうリカルド。ホセ、手綱をよろしく」
「ああ。海に落ちるなよ」
「そんなドジしないもん! 次の休憩所で待っててね」
『あの、アイル様……?』
あちらが緊急事態だというのに、こちらで会話しているのが不思議だったのだろう、カリスト大司教が不安そうな声を出した。
「カリスト大司教、きっと女神様はこの時のために魔法を授けてくれたと思うんだ。今、行くね……! 『
私が転移した先は前回クラーケンが出た辺りの上空、現在落下中である。
あの時クラーケンを回収してから船を追いかけるために飛翔魔法を使ったお陰で、今回の上空からの景色を覚えておく事ができたんだから、あの時回収しておいて正解だったって事だよね!
落下しながらあの時の自分を正当化しつつ、カリスト大司教達が乗っている船を探す。
船はすぐに見つけられなかったけど、白波を立てながら進む巨大な
クラーケンの進行方向に目をやると、あと一分もすればクラーケンに追いつかれる距離に船があった。
先にクラーケンを討伐するか、それとも船に転移して安心させてあげるべきか。
『ふふ、慰めてくださっているのですね。ああ、もうすぐお別れのようで』「お別れはしないよ。『
どうせ距離的に魔法を使って討伐したのがバレるんだから、先に乗客達を安心させた方がいいだろう。
私が甲板に転移するとクラーケンに対抗するつもりだったのか、目の前に剣を構えた聖騎士の三人がいた。
「「「「アイル様!?」」」」
聖騎士とカリスト大司教が声を揃えて声を上げた。
情報部隊のウーゴとイサークも驚いて口を開けたまま固まっている。
「お待たせ。ちょうどクラーケンが無くなったところだったんだ。これでまた美味しいバター醤油炒めが食べられるね! 前回の失敗を踏まえて先に……『
クラーケンの下に大きな氷の塊を作り、浮力でクラーケンの姿が丸見えになった。
「二回目だから余裕だもんね! 『
適当な大きさに刻み、飛翔魔法でクラーケンを回収に向かった。
しばらく無言だった船上は、私がクラーケンをストレージに入れていると一気に歓声に包まれた。
クラーケンを回収してそのまま馬車に戻ったら……、それはそれできっと面倒な事になるよねぇ。
最後の
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