第556話 エリアスの主張
「ねぇ、ちょっと……空気が甘酸っぱくてもう見てられないんだけど!? もういっそ付き合っちゃいなよ」
「えぇ……」
そんな事を言われても困る。
思わず不満の声が漏れてしまった。
確かにホセを意識しないように振舞っていたのをやめた。
だからと言って何が変わったわけではなく、無邪気に振舞うのをやめただけだ。
おじいちゃんの言葉で改めて意識してみたら、無意識に甘い空気にならないようにしていた事に気付いたのだ。
無駄に大きな声でお礼を言っていたり、子供みたいな言動をしていたり。
するとどうでしょう。新生アイルは大人の女性のように落ち着いたのです。
考えてみれば皆の妹のような扱いに慣れていたのも手伝って、余計に子供っぽく振舞っていたのかも。
「いったいどうしたのさ!? これまでホセが少しでも甘い空気を
ゴスッとエリアスの頭にホセの手刀が落ちた。痛そう。
エリアスは頭を押さえて言葉にならない叫びを上げながら
ホセってば怒っている時はアイアンクローだけど、焦っている時は手刀になるもんね。
「まぁまぁ。これまで見なかったホセの行動に慣れないだけなんだから。エリアスもどうしてホセに聞こえるのわかっててそういう事言っちゃうかなぁ。『
隣でまだ蹲っているエリアスの頭をよしよしと撫でて治癒魔法をかける。
「うぅ……ありがと。だってアイルもそう思わない? ホセがホセじゃないみたいでさ」
「人はそれを成長と言うんだよ。弟も思春期に入ったら別人のように成長したし……。エリアスもそんな時期があったんじゃない?」
「そんな昔の事なんて覚えてないよ。どうやら僕は心が早熟だったみたいだね」
「へぇ……。それじゃあ真実を確かめに、その内エリアスの実家へ遊びに行こうっと」
「あっ、やめて! それだけは!」
慌てだしたエリアスにニンマリと笑みが浮かんでしまう。
「やっぱり嘘なんでしょ~? 本当は思春期の尖った頃の話とか聞かれたくないんでしょ!」
「違うよ! そうじゃなくて、僕が女の子を家に連れて帰った事なんてないんだから、アイルを連れて帰ったらリカルドの二の舞になっちゃうんだよ!」
「リカルドの?」
リカルドの実家へ行った時は……、ビールとベーコンとソーセージ、あとは王都で赤鎧……そういえば最近赤鎧食べてなかったなぁ。
お腹にロープ付けられた事が頭を
「食べ物の事しか思い出してない顔してるけど、違うからね!? リカルドの家族は絶対アイルの事を嫁にしようとしてたんだから!」
「確かにな。晩餐に呼ばれた時にかなり言われてたじゃねぇか」
エリアスだけじゃなくホセにまで言われてしまった。
「俺がどうかしたか?」
道中に遭遇した魔物を斬った剣の手入れを終わらせたリカルドが、馬車の中から出て来た。
「アイルがさぁ、僕の実家に遊びに行くって言うから止めてたんだよ。リカルドの実家に行った時みたいに嫁候補だの騒がれるのはごめんだからね! リカルドも大変だったでしょ?」
「あ、ああ……。特にウチの場合はアイルが公爵家と繋がりがあると知っていたから、というのもあるだろうが……。随分とアイルが気に入ったみたいだったから、
その時を思い出したのか、げんなりといった表情でリカルドが頷いた。
「ふっ、私ってば最初は皆に子供だと思われていたのに、なかなか人気者なんじゃない?」
「そりゃあ賢者様ともなれば人気もあるだろうよ」
お花摘みから戻ってきたおじいちゃんが会話に参加してきた。
恐らくこれまでの話も聞こえていたのだろう。
「賢者だからかぁ……」
「そ、それにアイルは丁寧な言葉遣いもできるからな、貴族や商人からの受けはいいだろう。言葉遣いというのは一朝一夕では身に付かないものだから、平民が貴族の屋敷で働く時に苦労するものの代表でもある。だからこそ最初から敬語が使える商家出身の者を雇う事が多いのだが」
私自身の魅力じゃないのか、とちょっとだけ、ほんのちょっとだけ悔しく思っていたら、おじいちゃんが慌ててフォローした。
しかし言葉遣いが私自身の魅力かどうかと言われれば、微妙なところである。
でもまぁ、食事の仕方が綺麗とか、そういうのも人としての魅力だから言葉遣いも魅力とカウントしていいのかもしれない。
しかも敬語が話せるのは基本的に王侯貴族と商人という、平民には貴重な特技になるみたいだしね!
「べつによ、言葉遣いとか賢者とか関係無くアイルと一緒にいたいって思えるんだからそれでいいんじゃねぇ?」
「あ、う、うん…………ありがと」
恐らくエリアスが甘酸っぱいと言うのは、こういうホセの言葉のせいだと思う。
お礼を言う私の視界の端には、何かに耐えるようにギュッと目を
◇ ◇ ◇
恐らく約半数の方々の意見をエリアスに代弁させてみましたw
そのセリフは「付き合っちゃいなよ」か「気持ち悪」……か。
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