第470話 意外な共通点

「フッ、ハニエルは相変わらずだったな」



 タミエルはハニエルが出て行った扉を見て笑った。厨二病を発症してからずっとあのキャラクターなのか、ある意味凄いな。

 それにしても初めて会った日から好きなら、百年以上一途にアリエルだけを思い続けてるって事だよね。

 そこまで想われるのはちょっと羨ましいかも。



「だけどアリエルはハニエルの事をどう思ってるのかな? 大氾濫スタンピードの時に見た感じだと、好意は持っていそうだけど惚れてはいないと思う」



 昔馴染みって言ってたもんね、それでハニエルが膝から崩れ落ちてたし。



「アリエルは……」



「他の女にしておけばいいものを……」



「? アリエルという人に何か問題でもあるのかい?」



 二人のため息混じりの呟きに、ガブリエルが首を傾げる。

 どうやらガブリエルだけがアリエルと会った事が無いようだ。セゴニアに私を迎えに来た時も会わなかったんだね、ハニエルが会わせないようにしたのだろうか。



「私の印象は話し方も丁寧ていねいだったし、言うべき事はしっかり言うけど優しそうに見えたよ?」



「ああ、態度は柔らかいだろうな。だが向こうの里で見たんだ、子供に対してかろうじて指先が触れる高さに菓子を掲げて嬉しそうにしている姿をな」



「アリエル凄く楽しそうだったぞ。泣き出す直前までそうやって揶揄からかって遊ぶのが日課だと、アリエルの兄が言っていた」



「え……、それって……」



 セゴニアでの印象と違い過ぎて、カマエルとタミエルの説明を理解するのに数秒かかった。もしかしなくてもドSってやつだよね?



「性格に難があるというやつだな。中にはそうやって嫌がらせをされるのが好きな奴もいたらしいが、そういう奴には見向きもしないらしい。必死になって頑張る姿を見るのが好きなんだとか」



「どうせ里を出たのも早くハニエルと結婚しろと急かされるのが嫌で、自分のペースでじっくりハニエルを焦らして揶揄う為だろう」



「えーと、それって一緒に居てハニエルは幸せなのかな?」



 二人の説明を聞いて、ガブリエルはハニエルの行動が理解出来ないとばかりに目をまたたかせた。



「さぁな、ずっと一緒に居るという事は幸せなのだろう。アリエルの為にする苦労は苦労じゃないと言うような奴だからな」



 きっとハニエルならどんな誘惑があっても引っかかったりしないんだろうなぁ。アリエルも自分の為に必死に頑張るハニエルを見るのが好きなら、結局両想いって事だし。



「いいなぁ……」



 思わず漏れた言葉に、室内がシンと静かになった。



「アイル? 君……もしかしてハニエルの事が……」



 小刻みに震えながらそう言ったガブリエルの顔は真っ青になっている。



「ちっ、違うよ! 一途に想ってくれる人が居て、アリエルが羨ましいって事だよ!」



 いい歳して厨二病全開の人はさすがにお断りだ。

 あくまでそんな風に想ってくれる人がいるというのが羨ましいだけで。

 慌てて説明したらガブリエルはホッと胸を撫で下ろした。あれだけ一途なハニエルに惚れたとか言っても、不毛な片想いで終わるのは目に見えてるもんね。

 心配させちゃったかな?



「しかしアイルにもハニエルに負けないくらい想ってくれている者がいるだろう?」



 カマエルが不思議そうに首を傾げた。



「へ? まぁ……、仲間達は負けず劣らず大事にしてくれてるとは思うけど、想いの種類が違うじゃない?」



「『希望エスペランサ』の者達ではない。エドガルドの事だ」



 確かに方向性は同じなのかもしれない、あしらわれても一途なところとか。

 だけどハニエルは変態でも無ければ小児性愛者ペドフィリアでも無……ん?

 眉間に皺を寄せて考え込んでいたが、ふと思い付いて顔を上げる。



「あ」



「どうしたんだい?」



「いやぁ、ハニエルとアリエルの年齢差とか、出会った時の年齢っていくつだったのかなぁって。あの二人って何歳?」



「確かハニエルは私と九十歳以上離れていたはずだ、私の次に生まれたのがハニエルだったからな。アリエルはガブリエルより下なのは確かだぞ」



 そう言ったのは御年おんとし三百七十八歳のカマエルだ。



「里の交流がらあったのが百五十年程前で……アリエルは成人したばかりではなかったか?」



「思い出した、去年成人したと紹介されたんだったな」



 タミエルの言葉で記憶が引き出されたのか、カマエルがポムと手を打った。

 今の会話を頭の中で整理する、約三百八十歳のカマエルから九十引いて、更に百五十年前だから百四十歳とする。それで当時十六歳のアリエルを…………って、エドのお仲間!?



 衝撃の事実にガクブルしていたら、ガブリエルが指で私の肩をトントンと叩いた。



「アイル、自分を基準にしちゃダメだからね? 十六歳なら、見た目は大人と同じだという人がほとんどだから」



「ははは、確かにな。我らは胸の大きい女性は苦手になってしまったが、アイルの事が平気なのはだからだろう」



 ガブリエルとカマエルが二段階攻撃で私の精神をえぐった。

 くそぅ、屋敷に戻ったらメイドさん達に頼んで、エドに貰ったドレスで大人な私を見せてやる!

 私がそんな事を考えていたら、ドアがノックされた。



『失礼致します、陛下がいらっしゃいました』



 どうやら復讐計画を練っている場合では無くなったようだ。

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