第357話 出来た!

 ビビアナとセシリオの結婚式からひと月後、蜜月期間を終えたビビアナが本格的に復帰しておじいちゃんもそろそろ帰る事を考え始めた頃に事は発覚した。



「あのっ、皆さんにご報告があります!」



「復帰したばかりで申し訳ないんだけど…、あたし妊娠したみたいなの」



「「「「「「…………………」」」」」」



 あでやかに微笑むビビアナと、だらしないにも程があるというくらいとろけきった顔のセシリオが朝食後に爆弾発言を投下した。

 話を聞いた全員がポカーンと口を開けて固まっている。



「ま、まぁ…、今まで妊娠しなかったのが不思議なくらいだったしな」



 最初に復活したのはリーダーであるリカルドだった、いつもながら感情を立て直すのが早い。



「よし、無事に産まれるのを見届けてから帰るとしよう」



 キリッとした顔で宣言するおじいちゃん、それ産まれたら無事に成長するか見守るとか言い出すやつだよね?

 頭の片隅で冷静な自分がそう言っているが、実際の私は頭を抱えてパニック状態だ。



「えっと…妊婦さんには葉酸! あとカルシウムと鉄分大事だよね! 葉酸が入ってる食べ物って何だっけ、友達が妊娠中にドヤ顔で言ってたのは確か…ああっ、今出て来ない! 覚えてるのに出て来ない!!」



「アイル落ち着きなよ、今すぐ食べないといけない訳じゃないんでしょ? 食材なら鑑定すればいいじゃないか」



「あっ、なるほど! エンリケ頭良い!!」



「自分より凄く動揺してる人が居ると冷静になれるのはどうしてだろうね」



 半笑いのエリアスが私を見て言った。

 よし、だったらホセを見よう、きっと私よりもパニックになってるに違いない。

 そう思って隣のホセを方見ると、慈愛の微笑みと言うのだろうか、凄く嬉しそうな顔をしていた。



「良かったな…」



「ええ」



 しみじみと呟く様に言ったホセの言葉にビビアナは愛おしそうに自分のお腹を撫でた。

 そうか、赤ちゃんがビビアナにとっては唯一の血縁者となるのだから、本当に特別な存在なんだ。

 しんみりしてしまいそうだったのでえて明るい声を出す。



「それじゃあホセは将来的にはホセおじさんって呼ばれるんだね!」



「アァ!?」



 おじさん呼ばわりされて睨むホセ。



「ビビアナはホセの姉同然なんだから当然でしょ? ホセ・お・じ・さ・ん、あははっ」



 ひくりっ、と頬を引きらせるホセ。

 しかし、次の瞬間ニヤリと笑った、思わず身構える私。



「そうか、ならアイル、オレと結婚しろ。そうなったらお前も呼んで貰えるぜ? アイル・お・ば・さ・ん。 あ、結婚しなくても呼ばれるかもしれねぇなぁ? 産まれた時には既に成人してる相手なんだしよ」



「私は見た目が若いからお姉ちゃんって呼ばれるもんね!!」



「へっ、それを言うなら獣人は最盛期が長いからお前がおばさんになる頃にもオレはお兄さんに見えるだろうさ。爺さんを見てみろよ、オレと親子だって言っても信じられそうな見た目だろ?」



「く…っ、それは確かに…!」



 実際おじいちゃんはヨボヨボでも無く、鍛えられた身体もあってホセが末っ子だと言われれば信じるくらいの若々しさだ。

 悔しそうにする私を見て勝ち誇った様に笑うホセ、そこへエリアスが口を挟んだ。



「まだ産まれても無い子供の事でよくそんなに言い合えるね。ビビアナ、予定日はいつ頃なんだい?」



「来年の冬頃よ」



「だったら厚手の赤ちゃん肌着が必要だね! 空調の魔導具があるとはいえ外にも出る訳だし」



「肌着だけじゃないよ、赤ちゃん用のベッドも必要だし、オムツや着替えやお風呂に入れる時の布もるし…」



 スラスラとベビー用品が出てくるエリアスにポカンとしてしまった。



「エリアス凄いね、子育てした事あるの?」



「あはは、そんな訳無いでしょ。歳の離れた妹が居ただけだよ」



 エリアスはあまり自分の過去というか、実家の事を話したがらないので初耳だ。

 誰とでも適度に話を合わせたりしているので中間子なのかなとは思っていたけど。



「それでも詳しい人がいるのはありがたいよ!」



「何年も前の事だからあまりアテにしないでね」



「きっと商品を取り扱っているところなら慣れてるだろうから不足分は教えてくれるはずだよ、とりあえず今思い浮かぶ分だけ教えて貰っていい? 物によっては早めに準備しておいた方が良い物と、直前でも大丈夫な物があると思うから早めにお店に行って確認しておかなきゃ! あ、だけど私がお店で出産用品買い込んでたらすぐにビビアナの妊娠が周りにバレちゃうよね、安定期に入るまで秘密にしておいた方が良い?」



「ふふっ、どうせ森に行かなくなった時点で勘の良い人達は気付くと思うのよね。だから知られても問題無いわ」



「そっか、じゃあエリアス、さっき言った物も最初から順番に言ってくれる?」



 私は苦笑いを浮かべるエリアスから色々聞き出し、出産までに必要な物リストを作り上げる。



「出産する本人ビビアナよりも張り切ってるな…」



 やる気に満ちた私には、そんなリカルドの呟きも耳に入らなかった。

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