第110話 兄弟構成

 ギルマスは受付嬢に新人兄妹を引き留める指示を出し、私達をギルド長室に呼び出した。



「とりあえず必要事項だけ伝えておく。気付いてるとは思うがあの2人は貴族だ、それも他国のな。海の向こうの国タリファスの公爵家の三男と次女だとよ、見聞を広める為とか言って飛び出して来た世間知らずのお貴族様そのまんまさ。ある程度裁量を任されていた護衛に2人だけでやっていくから帰れと言ったらしい、だから護衛を付けられていると知ったら臍を曲げるのは目に見えてるから諦める様に冒険者の厳しい現実を教えてやって欲しいそうだ」



「タリファス…、ところでその護衛は今どこに?」



 リカルドが強張った顔で呟いた、もしかして他国の貴族相手では王様に出してもらった許可証が使えないからだろうか。



「今は帰ったフリして違う宿に泊まっているらしい、ギルド経由でお前らとも連絡は出来る様にしたいとさ」



「わかった、魔物と遭遇して危険そうなら手助けしよう。俺達は討伐系採取依頼を受けているという事にすれば出会っても不自然じゃないだろうし」



「お前らが戻って来てくれて本っ当~に助かったぜ! 他の奴らならあのお嬢様に手ェ出そうとして大問題になるのが目に見えるからな」



 ホッとしたのか話がつくとギルマスは額に浮かんだ汗を拭った。

 階下に降りると受付嬢がリカルドとアイコンタクトをとって頷き、私達に聞こえる様に新人兄妹が受けた依頼を読み上げる。



「では薬草5束と角兎ホーンラビット3匹の採取依頼受理しました、お気をつけて」



「うむ」



 新人兄は依頼札クエストカードを受け取るとギルドを出て行った。

 それを見届けると受付嬢の1人がリカルドにダミー用の依頼札を手渡し、護衛の依頼札はギルドで管理すると告げた。



「さて、俺達も行こうか」



 不自然で無い距離をおきつつ2人の後を追うと、門前の広場で馬車に乗ろうとしていた。



「おいおい、アイツら馬車で森に向かうつもりかよ? 依頼料吹っ飛ぶんじゃねぇ?」



「お金はあるからランク上げる為の功績があればいいって考えかもね、馬車で森に行くなんて僕らみたいな一般の冒険者じゃ考えもしないよ」



「先に行かれても見失わなきゃ良いよね、えっと…『追跡トラッキング』。これで離れても探索魔法で居場所はいつでもわかるよ」



「やっぱり魔法は便利だわ、これで近くに魔物がいなきゃ離れて護衛しても問題無いって訳ね!」



「よし、じゃあ俺達は先に徒歩で森に向かおう」



 新人兄妹はホセの耳が拾った話によると、辻馬車に門外へ行く様に言って揉め、結局危険手当の分上乗せして森の近くまで行く様に交渉していたらしい。



 すぐに追い抜かれると思ったが交渉が上手く纏まらなかったのか、馬車屋が値段を吊り上げ様としたのか森まで半分の距離でやっと追い抜いて行った。



「ふっ、きっと揺れるだの狭いだの煩く言っているんだろうな」



 馬車を見送りながら珍しく皮肉げに口の端を持ち上げてリカルドが言った。



「リカルドは貴族に嫌な目に遭わされた事でもあるの? 何だかあの2人に対していつものリカルドじゃないみたい」



 隣を歩きながら顔を覗き込むと、驚いた様に目を見開き、苦笑いしつつ頭を撫でてきた。



「はは、エリアス以外には言った事が無かったが…タリファスは俺の母国だ。向こうの貴族で嫌な思い出があるのは確かだな」



「そっか…、そういえばリカルドとエリアスの家族とか出身とか聞いた事無かったね。話して大丈夫ならその内教えて欲しいな、リカルドはお兄ちゃんっぽいから下に兄弟が居そうだなぁ、エリアスはお姉さんが居そう」



「お、鋭いな。妹が2人居るぞ、冒険者になって以来もうずっと会って無いけどな」



「僕は兄と姉が居るよ、あと5歳下に妹。僕も家を飛び出して以来会って無いのは同じだよ」



「飛び出して…って事は冒険者になるの反対されたとか? やっぱり世間的には反対される職業なの?」



「そりゃあ…、一攫千金の夢はあるけど危険だし破落戸と紙一重みたいな奴も多いし手足を失ったらその後の人生は身内のお荷物になっちゃうからね。大抵は訳ありや後が無い人で、ほんの一部に自分に自信のある人…かな」



「そっかぁ、エリアスは自分に自信がある一部の人なんだね」



「そうそう…って違うよ!? 自分がどこまでやれるか試したいと…あれ? コレってやっぱり自信があるからって事?」



「ぶはっ、自信があるから試そうと思ったんならそうなんじゃねぇ? へぇぇ、エリアスはそういう考えで冒険者になったのか」



「あれ? ホセも知らなかったの?」



「冒険者にゃ訳ありが多いから深入りしねぇのが暗黙の了解だからな」



「そっかぁ、じゃあ私も聞かない方が良い?」



 リカルドとエリアスに視線を向けると肩を竦めた。



「僕は家を飛び出して冒険者になったってだけで特に隠す事も無いから平気だよ?」



「俺は…、まぁエリアスと似た様なものだ。知りたければその内話してやろう」



 ふむ…、どうやらエリアスと違ってリカルドは訳ありの部類らしい。

 そんな話をしていたら森に到着し、探索魔法を使うと新人兄妹はもうすぐ角兎とエンカウントしそうだった。

 角兎程度なら多少剣が使えるなら問題無いだろうけど、一応いつでも助けられる様にと先を急いだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る