第105話 罪と罰

 私は混乱した、目が覚めたらホセが人型になって私を抱き締めて寝ているわ、しかも片手が私の胸を掴んで…揉んだッ!?

 思わず大きな声を出しそうになった瞬間口を塞がれ、耳元で寝起きの低い声で「悪りぃ、寝惚けた」と囁かれた。



「んぐぅッ!?」



 イケメンだからってそんなセクスィーヴォイスで謝ったくらいで赦されると思ったら大間違いだからな!?

 口を押さえられているから振り向けないけど、私が怒っているのはわかったらしい。

 少し態とらしいくらい明るめの言い方でホセが言った言葉は…。



「アイル、お前胸大きくなったな?」



「………ッッ!!」



 機嫌取り!? まさか機嫌取りで言ったの!?

 もしこれが触ったからわかったというなら以前にも触ったという事、私はホセに触られた記憶は無い…という事は…。



ふぐふがッがごごいつさわったのよッ!!」



 暴れて抗議したいが抱き竦められているので暴れる事も出来ない、口を押さえられているからフスーッフスーッと自分でも興奮しているのがわかる鼻息が漏れる。



「あ、いや、態とじゃねぇんだ。とりあえず何言ってるかわかんねぇし、ちゃんと謝るから…手ぇ離すけど叫ぶなよ?」



 承諾しなかったら手を離して貰えないだろうと渋々コクリと頷いた。

 ソロリと解放されたので身体を起こしてホセの胸倉を両手で掴み、朝日は登ってるけど他の皆はまだ寝てるので声を抑えてホセを締め上げる。



「大きくなったと言うのなら前にも触ったって事だよね? いつ? いつどこで触ったわけ!?」



「違ッ、違うって、昨夜みたいにオレを上に乗せる時顔を伏せたら当たるだろ? 昨夜は今までと当たる感触が違ったような気がしたから言っただけだって」



 私の怒りを感じ取ってか、ホセはタジタジになりながら答えた。



「ホセ…っ、今まで私がモフってる間に胸の谷間の感触を堪能してた訳!?」



 ホセの言葉に思わず私はバッと胸を隠す様に押さえた、そうだったらドン引きである。



「バ…ッ、そんな訳ねぇだろ! 大体堪能する程の谷間なんてねぇだろうが!! …あっ」



 売り言葉に買い言葉だったかもしれないが、自分の失言に気付いたホセは自分の口を手で押さえた。

 そんな事ないもん、そう言い返したかったけど言葉が出て来なくて、代わりに涙が出そうになって俯いた。



「もぉ~、朝っぱらから何喧嘩してんの?」



「ホセがアイルの胸を触った触って無いの話で谷間なんて無いだろ、なーんて酷い事言ったんだよ。元から絶壁って訳でも無いのにねぇ?」



「あっ、エリアスてめぇ!」



 目を擦りながら身体を起こすビビアナに、いつから聞いていたのかエリアスがザックリと説明した。

 そしてさりげなく私に対してフォローを入れたので、ホセに裏切り者を見る目を向けられている。



「うわぁぁん、ビビアナ! ホセが酷いよぅ」



 ホセの意識が逸れた隙にガチ泣きがバレない様に大袈裟にビビアナに泣き付いた。

 別にディスられたからじゃなく、仲間であるホセに酷い言葉を投げつけられたという事実に悲しくなったのだ。



「よしよし、そんな酷い事言うホセなんてもげちゃえばいいのにねぇ…」



「何だ…? またホセがアイルを泣かせてるのか? ちゃんと謝らないとダメだぞ」



 この騒ぎで最後にリカルドの目が覚めた様だ、野営の時は眠りが浅いリカルドだが、安全な宿や家では何気に1番寝ているかもしれない。



「もう謝ったんだよ、赦してくれねぇだけで…」



「アイルだったら可愛く謝ったら赦されるかもしれないけど、ホセは可愛くないもんね、あはは」



「可愛く……あ」



 ムッツリと答えるホセに、完全に面白がってるエリアスが言うと、ホセがポンと拳で掌を打った様だ。

 私はビビアナにしがみついたまま背を向けているので見えなかったが、誰かが近づく気配がした。



「キュウ…」



 哀しげな犬の声が聞こえて振り向くと、耳をペタンと寝かせて私の隣に伏せる獣化したホセの姿が。

 尻尾も最大限に垂れてベッドに落ちている、時々私をチラッと見ながらキューンキュゥンやクゥンと哀しげに鳴くという卑怯の行動に出た。



「く…っ、卑怯な…ッ」



 もうひと押しと思ったのだろうか、ホセはコロンとお腹を見せて寝転がった。

 私の弱点を的確に突いた精神攻撃に思わず赦しそうになる、だけどさっきの屈辱はこの程度で赦しちゃいけないと思うの!

 何かホセにペナルティを、と考えていたら良い事を思い付いた。



「ホセ…本当に反省してるなら今日1日ずぅっと獣化のまま過ごしてね! もう1人で馬にだって乗れるからホセを前に乗せて移動すれば大丈夫でしょ? そしたら全部赦してあげる」



 ククク…、そうすれば女の子に馬にという男にとっては耐え難い屈辱(らしい)と、私の傷付いた心もモフモフで癒せるという一石二鳥の名案!!

 一瞬ホセは固まったが、諦めた様に頷いた。



 朝食の時に獣化したままのホセにガブリエルがどうしたのか聞いて来たが、経緯は説明せずに今日は私が馬の手綱を握るからとだけ伝えた。

 ホセは獣化したままなので私の膝の上で食事をさせ、食後は宿を引き払ってデスティーノ商会へ顔を出し、ミゲルに王都で流行最先端の雑貨をお土産として渡してきた。



 そして門前広場へ向かうと当然の様にエドが居た、今度はゆっくり出来る様に来ると約束させられ、中々手を離さないエドと別れた。

 門を出てからホセはピョイと飛び乗ったが、私はリカルドに抱き上げられ馬に乗る。



 ホセの後ろ姿は空に似ているから嬉しくなってしまう、時々頭や耳に頬擦りしつつ馬を走らせ、休憩では獣化して手が使えないので朝と同じく私が食べさせた。



「何か…、思いっきりアイルにお世話されてるから罰っていうよりご褒美になってない?」



 そんなエリアスの声が聞こえたが、私が癒されているから問題は無いのだ。

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