第104話 同衾

「なんだよ、まだ怒ってんのか?」



 寝支度を済ませて各自ベッドに入る頃、私はひとりむくれていた。

 ちゃんと約束通りお酒は飲んで無いって言ったのにホセにチェックされたので、信用してくれなかった事に対して不満を顔に出しているのだ。



「ったく…、ほれ、モフって良いから機嫌直せよ」



 モフって良いとの言葉にチラリと視線を向けるとホセが服を脱いでいたので慌てて反対を向く。

 キシッと小さな音と衣擦れの音がしたかと思ったら、頬をペロリと舐められた。

 しかもお座りしてコテンと首を傾げるというあざとい仕草で私の心を鷲掴みに…!



「もう…っ、誤魔化されてあげるのは今回だけなんだからね!」



 ガバッと襲い掛かる様に獣化したホセを抱きしめてベッドに寝転び、向かい合う状態で私の身体の上にホセを乗せて下から顎から頬にかけて挟む様にわしゃわしゃと毛並みを堪能する。



 ちょっと重いけど、この重さがまた良いんだよね、友達の1人が寝返り打つのも大変なくらい重い掛け布団が好きって言ってたけどこんな感じかな、いや、ちょっと違うか…。

 飼い犬と違って首輪をしていないから首筋に頬擦りしても柔らかな毛の感触しかしないから思わず頬擦りの速度も早くなるというものだ。



「何と言うか…、相変わらずアイルは獣化しているホセの事をホセと思って無い扱いをするな…」



「だよね、人型のホセには絶対にしない様な事をしまくりだし」



「ふふっ、ホセも何だかんだ喜んでいるんだから良いんじゃないかしら、尻尾は正直よね」



 確かに人型のホセに同じ様な事をしたらただの痴女だが、獣化したホセの前にいる私は1人の犬好きだもんね。

 最初はホセも仕方なくモフらせてくれてる感が強かったが、今では私のフィンガーテクに籠絡されたのかモフらせてやると言いながら尻尾が揺れているのだ。



 しかも時々今回の様に犬っぽい仕草でまるで誘い受け…ゲフンゲフン、私が手を出さずにはいられない様に仕向けて来る。

 一頻りモフるとホセの体温とモフモフで幸せを感じながらウトウトしてくる。



 空は室外犬だったから一緒の布団で寝るなんて許されなかったなぁ、一緒に寝たら枕に噛み付いたまま振り回してめちゃくちゃにしたかもしれない。

 散歩中にうっかりリードを離した時に持つ所を咥えて逃げる様な子だったけど、マーキングにいそしんでいる間にあっさり捕まるおバカさんなのが可愛かった。



「そら…」





[side ホセ]



 さっきまでワサワサと動いていた手が止まり、目を瞑ったアイルが飼っていたという犬の名前を呟いた。

 呼吸音からしてどうやら眠ったらしい。

 ふぅ、と息を吐いてアイルの身体の上に突っ伏した、……何だか顔に当たる感触が前と違う気がする。



「ふふっ、ホセはまだ飼い犬に勝てない様ね」



 うるせぇ、過ごした時間が違うせいだろ、そう言いたかったがアイルがオレを抱き締めたままなせいで動けず人型に戻れ無い為、ビビアナをジロリと睨むだけにした。



「だけどその犬ってもう死んでるんでしょ? なのに未だにこうやって名前が出てくるなんて凄いよね」



「ああ、それだけ大切な存在だったんだろう。俺達もアイルにとってそんな存在になれるといいな」



 リカルドが微笑みを浮かべてアイルの寝顔を眺める、既に妹みたいに可愛がってるもんな。

 不意にアイルが寝返りを打ってオレをペイっと放り出した。



 眠って暫くすると大抵こうやって投げ捨てる様に放される、同時に被っている布団も蹴り飛ばす事も多いから暑かったのだろう。

 この宿は安宿と違って空調の魔導具が使われている為、上掛け無く寝ても風邪を引かない程度には暖かい。

 シーツを咥えて被せてやると、また寝返りを打って寝言を言い出した。



「ホセ…それはもぅ味見じゃなくて摘み食いだよぅ…」



「「「ぶはっ」」」



 それはいやにハッキリした寝言で、聞いた瞬間3人が吹き出した。



「くっ、くくくっ、ホセはアイルの夢の中でも摘み食いしてるんだね」



「常習犯だから仕方ないんじゃないかしら? ふふふっ」



「ははは、ソラに負けずに夢に出て来たんだから良いじゃないか」



 チッ、何でオレが笑われなきゃなんねぇんだよ、こうなったらアイルに意趣返ししてやりてぇな。

 朝起きた時にオレが人型だったら前みたいに固まるかもしれねぇ、あの時は内心笑っちまうくらいガッチガチになってたし。



 だけど裸のままだとアイルがビビアナに泣きついて仕返ししようとするだろうな、とりあえず服だけは着ておくか。

 考えが纏まったところで人型になって身体を起こした。



「あれ? どうしたんだい、ホセ」



「今夜は人型のまま寝ようと思っただけだ」



「あんたが人型で寝たらベッドが狭いでしょ、何で態々?」



「多少狭くてもアイルが小せぇから寝られなくはねぇよ。アイルに対してはちょっとした嫌がらせだな」



 朝起きた時に驚くアイルを想像してニヤリと笑う、アワアワするアイルは見ていて面白いからな。

 狭い分腕枕してアイルを背後から抱きしめると、柔らかな身体とオレより低い体温が獣化してる時よりわかりやすくて心地良く、あっさりと睡魔に襲われた。



 朝、腕の中でアイルが身動ぎ…、いや、何かプルプルしてる?

 起きなきゃならないがアイルの柔らかな身体が心地よくて敢えて抱き竦めた、ん?

 手を動かすとムニムニと掌の中にが…。



 ヤバい、手を離した瞬間叫ばれそうだ、今は混乱して固まってるみたいだけどダメなやつだ。

 そっと先に口を塞いでから胸を触っていた手を離す。



「悪りぃ、寝惚けた」



「んぐぅッ!?」



 他の奴らはまだ寝てたから耳元で囁いたら抗議の声が上がった、ヤバい、かなり怒ってんな、コレ。

 何か喜ぶ事で気を逸らさねぇと、……あ。



「アイル、お前胸大きくなったな?」

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