第221話 身バレ対策

「おはようアイル、そろそろ起きないと朝食の時間になるわよ?」



「おはよ~」



 ビビアナに声を掛けられ、目を擦りながらベッドから這い出る。



「ふふ、それにしてもエドガルドったらいい趣味してるわよね~」



 エドに貰ったナイトウェアを見ながらビビアナが笑う、ここまで『希望エスペランサ』全員ひと部屋で泊まる時は流石にコレは着れないのでじっくり見るのは初めてだったかも。



「凄く着心地も良いし涼しいから好きなんだけど、デザインがね…。下手したら下着が見えちゃうから1人かビビアナと2人の時じゃないと着れないんだよねぇ」



 モゾモゾと着替えつつボヤいた、やはりパンツスタイルは落ち着く。

 スカートだと何となく無防備な気がして落ち着かない、これも冒険者として馴染んで来た証拠だろうか。



「あら、滝で大胆な格好したアイルとは思えないセリフね?」



 ビビアナは防具は着けていないものの、既に着替え終わって私を待っている。



「あっ、あれは水浴びする為の格好だったからだよ! それにもうしないからね!?」



「あら、アイルが平気ならいいじゃない」



「だって好奇の目で見られちゃうもん!」



 揶揄うビビアナとキャイキャイ話していたら寝室のドアがドンドンと叩かれた。



「おい、もう起きてんならメシ食いに行くぞ」



「「はぁい」」



 ドア越しに掛けられたホセの言葉に脱いだ服を片付けて顔に洗浄魔法を掛ける。



「……それにしても珍しいね、いつもなら勝手にドア開けてビビアナにノックくらいしなさいって怒られるのに」



「あら本当だわ、ホセも少しは成長してるって事かしら?」



 クスクスと笑いながらドアを開けるビビアナについて行く、ホセが成長してしまったら言い合いになった時に言い返す言葉が減ってしまう…。

 モステレスを出た辺りから妙にホセが突っかかって来る事が多くて言い合いに発展する事が多いのだ。



 ハッ、もしかして祝杯なら飲んで良いって約束させたから怒っているとか!?

 でもホセなら数日もすれば気にしなくなってると思うんだよね、妙に突っかかって来る人の理由は恨みか、嫉妬か、それともやましい事があって自分を正当化しようとムキになってたり…。



「何ボーッとしての? 座れば?」



 エリアスの言葉に我に返る、先に注文してくれていたらしく全員の分の食事がドンドン運ばれて来たので考え事は霧散してしまった。

 もりもりと分厚いベーコンと目玉焼きをパンと一緒に牛乳…いや、山羊乳と思われるちょっとクセのある乳を流し込む。



 何気にエドがハンカチを準備しているのが見えて何かと思ったら私の牛乳…山羊乳ヒゲを拭き取る為にスタンバっていたらしい。

 ……拭かれましたとも。

 初乳なのかと思う程濃厚でもったりとして飲み応えがあった分、皮膚にも付きやすいらしく気をつけて飲んだのに2回も拭かれてしまった。



 エド以外の皆はそんな私を見ながら笑いを堪えているものの、それを隠そうともしていなかった、しかも皆狡い…だって私以外コーヒーなんだもん。

 エド本人はとても満足そうにしていた、もしかして結構世話好きなのかも。



 それにしても何だか今朝から周りが騒がしい気がする、何やら砦の町全体が浮き足立ってる様な。

 何か祭りでもあるんだろうか、それならもう1日くらい滞在して遊んでいきたいな…でもガブリエルが待ってるしなぁ。

 そんな事を零したらエリアスに笑われてしまった。



「祭りじゃないよ、だって原因はアイルだからね」



「そうだぞ、昨日宿の者に確認されたからな。どうもパルテナ王国在住の賢者は初めてだからとアイルの存在が公布されている様でな…。恐らくコルバドに対する牽制のつもりなんだろうが…」



「えっ!? じゃあパルテナ国内で囲まれたりするって事!?」



「そうなるだろうな、お前がそういうの嫌がるってリカルドが宿の主人に言っておいたから宿の中じゃ騒がれねぇとは思うけどよ」



「だったらフード被って行動するしかないかぁ…、暑いけど…。それかウィッグを手に入れるべきか…、隠蔽魔法だと買い物出来なくなっちゃうし」



「ウィッグだけじゃ無理ね、だって眉毛やまつ毛、それに目が黒だもの。すぐに看破られちゃうわ」



「そっかぁ…、姿を変える魔法って……あ!?」



 頭の中に1つの呪文が浮かんだ、何と付与する事も自分の姿を思い浮かべた姿に見せられる魔法があったのだ。

 魔力をスクリーンにリアルなプロジェクションマッピングを映し出すイメージなので男にだってなれる…が、あくまでそう見えるだけなので触られたらバレる。



 そうと決まれば馬車に乗り込んだら試してみないと!

 と、言う訳でセリシオが御者、ジャンケンに負けたリカルドとエリアスが馬に乗って移動する事になった。

 そしてイメージを固めてから呪文を唱える。



「『幻影イリュージョン』…どう?」



 肌の色は小麦色、髪は茶髪が見えているが自分の顔は見えない。

 周りの反応を窺うが、ポカンとしていて何も言ってくれないのでストレージから手鏡をだして確認した。

 顔の造りはほんの少し彫りを深くしたけど殆ど変えていない、鏡の中には自分を見つめる緑の瞳、そして…ホセとお揃いのケモ耳があった。



「おお~、ちゃんと出来てるね! よしよし、コレなら外を歩いても私ってバレないでしょ。ホセの妹って感じじゃない!?」



 幻の尻尾をワサワサと振りつつ手鏡をストレージに戻した。

 あくまで幻なのでホセと違って穴の空いた服を着る必要も無い。



「か、可愛い…! アイルったら似合うじゃな~い! ちゃんとアイルなのに別人みたいね! あら、本当に触れないわ」



 尻尾と耳を触ろうとしたビビアナの言葉にホセとエドも我に返った。



「お前…よりによって何で狼獣人に…」



 ホセは両手で顔を覆って俯いてしまった。



「アイル、凄いがこれはいけない、可愛いから人攫いに目を付けられてしまうかもしれない。むしろ私が攫ってしまいたいよ」



 興奮した様に頬を染めつつ心配そうに言うエド、しかし最後のひと言に私達が冷めた目を向けたのは仕方ない事だろう。

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