第196話 その計算が正しいとは限らない
「やっと王都が見えて来たな、アイル殿とずっと一緒に居られた旅が終わってしまうのは名残惜しい…、いっそこのまま旅を続けていたい程だ」
寂しげな笑みを浮かべるカンデラリオ殿下、やはり女性が喜びそうな言葉をチョイスするのが上手い。
しかし王族がそんな甘っちょろい事を言うのは許されないでしょ。
「あはは、そう言って貰えるのは光栄ですけど、そんな税金の無駄遣いしたら国民が怒りますよ」
「はは、そうだね、アイル殿は上の立場から国民の事を慈しめる素晴らしい女性だね」
段々疲れて来た私はオブラートに包みつつも結構思った事を言う様にしていた。
だって「
でも意外と打たれ強いのか、めげずに話し掛けて来るんだよね。
今も一瞬固まったけど、サラッと褒め言葉で返して来るし。
他の4人も私に対するチヤホヤっぷりが凄くてエドが5人居るみたいで落ち着かない…。
しかしここに来るまでに私達は色々と餌を撒いて来た、文字通り餌を。
マヨネーズに対する喰い付き方を見た私達はこれは手札として使えると見たので仲間達が我儘を言うフリで現代の日本だから知ってるレシピの物を小出しにして来たのだ。
そのせいでまた中華麺が減ったから早くコルバドかパルテナの王都へ行きたい。
カレーや唐揚げの喰い付きも上々で食べ方こそ上品ではあったけど、何気に勢いは冒険者に負けてなかったと思う。
やっぱり10代の男の子が好きな物は地球も異世界も変わらないんだなぁ。
[後方馬車 side]
「なぁ、作戦だとか言ってたけどよ、アイルの飯出せば出す程殿下達の目がギラついてきてると思ったのはオレだけか?」
「ゴホッ、ゴホッ」
窓越しに王都を見ながらホセが呟くと、同乗していたおじさん従者が咳き込んだ。
始めはピリピリしていた従者のおじさんや侍女達だったが、エリアスの発案で殿下達が食べたアイルの料理の内、車内に持ち込めそうな物は少し持って乗り込みお裾分けしてあげた。
すると最初の態度が嘘の様に愛想良くなり色んな話をペラペラと話してくれる様になった。
王族の家族構成やら誰と誰が仲良しで、誰と誰が仲が悪いという事から王妃や側室の力関係まで。
同じ貴族としてリカルドが王族の事をここまでペラペラ話していいのかと心配になる程に。
「それだけじゃなくアイルってばまたやっちゃってるよね、ミゲルの時みたいにさ」
「ミゲル…、ああ、トレラーガの
「ミゲル時みたいに、とは?」
従者のおじさんが首を傾げた、餌付けのお陰か既に世間話するくらいには打ち解けているので普通に3人の会話にも入って来る。
「パルテナで護衛をした商会の息子なんだが、最初はアイルの事を子供扱いしていたのに1週間後には惚れていたんだ。アイルは世話好きで優しいからな」
「そうそう、御者している時に日除けを渡したり飲み物渡したり雨に濡れたらタオル渡したりね」
「ははぁ…、それならばわからなくも無い。殿下方は嫡子では無い為、命令して何かをさせる事はあっても、率先して甲斐甲斐しく世話を焼かれるという事は無かったはずだ」
「「「………」」
ポツリと漏れたホセの呟きにリカルドとエリアスは頷いた。
実際にアイルは色々やらかしていた、本人はビビアナ最優先という気持ちなので自覚していないが、最年少のフェデリコ殿下が少し気分が悪そうにしていたら水を飲むか聞いたり、1番筋肉量の多いアレハンドロ殿下が暑そうにしていたら冷たい濡れタオルを首に巻く様にと渡したり。
それに全員王族という事で教師や親以外に面と向かってダメ出しされるという事が無かったが、アイルはニコニコしながらもズバッと正論でぶった斬るので新鮮に感じていたりもする。
アイル本人は上手く料理に喰い付いてくれているとほくそ笑んでいるが、それだけでは無いという事に気付いていない。
ちなみにビビアナはその事に気付いてはいるが、これまでの経験上忠告しても「そんな訳ないよ~」と苦笑いして終わるのが目に見えているので何も言って無い。
異世界に来てエドガルドと歳下からしかモテてない(とアイルが思っている)弊害である。
「しかしセゴニアには悪いがアイルがこの国に留まる事は無いだろうな」
「えぇ!? 殿下方から求婚されれば王族になれるというのに!?」
おじさん従者がリカルドの言葉に反応した。
「アイルってば王族どころか貴族になるのも面倒だって思ってるもんねぇ、タリファスで公爵家に行くのも面倒事って言ってたし。そのくせパルテナ王も参加した夜会もそつなくこなしていたりするのに」
「飯の事はともかく
「はぁ…、賢者殿は奥が深い方の様だな…。この数日で殿下方をやり込めている姿を何度も見て胸がスッ…じゃない、感心したものだ」
「ククッ、じゃあセゴニア王に謁見する時も一緒に居るといいぜ、きっと面白い事になると思うからよ」
ニヤリと笑ったホセの言葉に頬が緩みそうになり、咳払いで誤魔化すおじさん従者。
そんな一行を乗せた馬車はとうとう王都へと到着した。
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