第507話 『私は』大人ですから

「このガキ! 甘い顔してりゃつけあがりやがって!」



「そのブサイクな顔のどこが甘いのよ!」



 二人の冒険者が女の子に手を伸ばした。



「お」「パパぁ!!」



「マルシア!! 先に行くなと言っただろう!」



 リカルドが声をかけようとした時、女の子が父親を呼んだ。

 すると入り口から息をきらせた四十歳くらいのおじさんが入って来て、女の子と冒険者の間に割って入った。



「俺はこの子の父親だが、この子が何か?」



「「う……っ」」



 父親がジロリと睨むと、二人の冒険者は迫力に気圧けおされて後退あとずさる。

 身長は冒険者達と変わらないくらいで二メートルは超えているが、大きな剣を背負っている上、身体の厚みが全然違う。



「おぅ、アーロンじゃねぇか! 来るとは聞いていたがパーティ抜けたんだって?」



 均衡を破ったのはギルマスのディエゴの大きな声だった。

 どうやら二人は知り合いのようだ。



「ギルマス……知り合いなのか?」



 女の子に絡んでいた冒険者がギルマスに聞いた、周りの冒険者も興味深そうに注視している。



「ああ、このアーロンは隣国セゴニアでSランクパーティ『雷鳴トゥルエノ』に所属していた凄腕だぞ、本人も単独でAランクだしな。まぁ、パーティは半年前に解散したが。そこにいるのはあの時赤ん坊だった子か?」



「ああ、移動中にマルシアも十歳になったから、今日は冒険者に仮登録しに来たんだよ」



 Sランクパーティって事はあの大氾濫スタンピードの時もいたって事だよね。



「Sランクパーティ……」



「『雷鳴トゥルエノ』ってあの……!?」



 それなりに知られたパーティだったのか、かなりざわついている。

 そして女の子に絡んだ冒険者はいつの間にかいなくなっていた。



「騒ぎは収まったみたいだから俺達は帰るか。それとも彼らの詳しい話を聞きたいか? アイルの事だからあの女の子を気にしていると思ったんだが」



 セゴニアから来た親子を見ていたら、リカルドが聞いてきた。



「あの子が一人なら気にしただろうけど、保護者がいるなら私が気にする必要なんてないでしょ。それより早く帰ろう! おじいちゃんが一緒にお茶飲もうって言ってたから、きっと待ってるよ」



 リカルドの腕を引っ張って移動しようとしたら、さっきの女の子……マルシアが私を指差した。



「パパ! 賢者! 賢者がいるよ!! !」



 子供の声は高くてよく通る、マルシアの言葉にギルド内が静まり返った。

 それは当然だろう、私はこれまで小さいとか、子供だとか言って絡んできたバカな冒険者達にはしっかり報復をしてきているのだ。



「こら! 四人目の賢者は成人してるって話しただろう、大人なんだから失礼だぞ」



 アーロンとか言ったかな、それフォローしきれてないからね?

 私はツカツカとマルシアに向かって歩き出した。



「お、おいアイル」「マルシアって言ったっけ? 人を指差すのは失礼だからダメだよ。私は民族的に身長は低いけど、ちゃんと大人だから敬意は払ってね?」



 声をかけてきたホセを無視して、私を指差したままの手を笑顔でそっと上から押さえて降ろさせる。

 そして大人の証を誇るように胸を張った。

 そう、彼女はこの世界に来たばかりの私よりツルペタだったのだ。



 十歳になったばかりだから仕方ないよね、その内大きくなるだろうから今は大人の私が広い心で受け止めてあげないと。

 私の大人な対応に、なぜか周りは安心したように息を吐いている。私をなんだと思っているんだ。



 これ以上遅くなるのは避けたいし、用も済んだのでサッサとギルドを後にした。






[side 冒険者ギルド]



「マルシア、人には礼儀正しく対応しろと言っているだろう? 賢者アイルは可愛い顔しているが怒らせると大変らしいから気を付けろ」



「わははは! 確かにそうだな、けど子供にゃ結構甘いんだぜ? それよりさっきのはバカ共が悪いとはいえ、マルシアは威勢がよすぎるんじゃねぇか? 舐められたくない気持ちはわかるが、受け流す事も覚えねぇといつか怪我するぜ」



 アーロンがマルシアをたしなめていると、ディエゴが口を挟んだ。

 ディエゴは一部始終を見ていたが、アーロンは冒険者ギルドに向かっている途中ではぐれてしまい、ギルドの前に到着した時にマルシアが呼ぶ声が聞こえて飛び込んだので中の状況を知らなかった。



 そして最初から全てをディエゴから聞いたアーロンの顔色は段々と赤く染まり、最終的に憤怒の表情でマルシアを見下ろした。



「何を考えているんだ! もし俺の到着がもう少し遅かったら酷い目にあっていたかもしれないんだぞ!? はぁ……、なまじこれまで俺が危険を排除してきたせいかもしれないな……」



 アーロンは片手で顔を覆って俯いた。



「それにしてもどうしてパルテナに来たんだ? てっきりセゴニアに骨をうずめるかと思ってたのによ」



「ああ、元々セゴニアにいたのも妻の地元だったからなんだ。だが……半年前に妻が……な……。それで両親のいるウルスカに戻って来たって訳さ」



 項垂れながら話すアーロンに、聞き耳を立てていた冒険者達もしんみりしている。



「てっきりパーティを解散したのは年齢的にキツくなってきたからだとばかり……。そうか、大変だったな。マルシアもウルスカでゆっくり過ごすといいさ」



 ディエゴが優しくマルシアの頭を撫でた。

 しかしマルシアはプイと横を向いて不機嫌そうに口を開く。



「別に、アタシとパパを裏切ってパパの仲間と逃げた母親なんてどうでもいいわ」



「「「「「「ええぇぇぇ~~~!?」」」」」



 Sランクパーティ『雷鳴トゥルエノ』解散の真相に、アーロン親子以外の驚きの声がギルド内に響いた。



◇◇◇


百虎さんからおすすめレビューを書いて頂きました。

ありがとうございます! ⸜(*ˊᗜˋ*)⸝

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