第506話 人口増加!?

「私達も久々の再会なのだからアイルは返してもらうぞ」



 パメラに抱っこされていたが、パメラがホセに気を取られている間におじいちゃんがヒョイと私を奪い取った。

 こうやって抱っこされるのは滅多にないのでムギュウと自分からも抱き着く。



「おじいちゃん、ただいま」



「おかえりアイル。ギルドへ報告し終わったらゆっくりお茶でも飲もうか。ビビアナと家で待っているからな」



 大きな手で背中を撫でられた、安心する温かな手に思わず頬が緩む。



「うん! ちゃんとお土産に美味しい物も買って来たから楽しみにしててね」



「アイルが美味しい物と言うのなら間違いないだろう、楽しみだ」



 話しながらおじいちゃんが私を降ろしたのは、ビビアナの前だった。おじいちゃんわかってるぅ!

 ビビアナが両手を広げてくれたので、お腹を潰さないようにそっと抱き締める。



「ただいま、ビビアナ。これからはずっと一緒だからね! 必ず夜は家で寝るんだから!」



「ふふっ、おかえりなさい。嬉しいわ、アイルの声が聞こえないと寂しいもの」



「ビビアナ~!」



「おい、いい加減にしろ。馬を外したから馬車の本体片付けちまえよ」



「あっ」



 私とビビアナが感動の再会をしていたというのに、空気を読まないホセが私を引き剥がした。



「それじゃあ先に家に帰ってるから、早くギルドに報告していらっしゃい」



「わかった! 後でね!」



 ニコニコしながら馬車の本体をストレージに収納すると、周りから「賢者様だ」とか、「馬車が消えた」とざわついた。

 ウルスカの中では結構知られた光景になったと思ったけど、どうやら他所から来た人達が多いみたいだ。



「もういいだろ!? アイル、ギルドへ行こう!」



 ホセと違って私とビビアナ達の再会を邪魔せず待っていたパメラが私の手を取った。

 このままギルドへ向かっていいのかなと、貸し馬屋から戻って来たリカルドを見ると頷いたので、パメラと手を繋いでざわついたままの門前広場を後にしてギルドへ向かう。



 ガブリエルの視線が背中に突き刺さってはいるけど、どうやらパメラとは久々の再会という事で譲ってくれているようだ。

 長い事一緒にいたから友人の自覚と自信を持てたのかもしれない。



 ギルドに到着すると依頼を終えて戻って来た冒険者達が口々におかえりと声をかけてくれる。

 ビビアナとおじいちゃんの顔を見た時もそうだけど、この瞬間が帰って来たと実感するよね。



「よかったなぁ、パメラ。おかえりアイル、俺達がいない間に長期の護衛依頼受けたって聞いてから、パメラが時々思い出しては拗ねてたからまいったよ」



 どうやら『アウローラ』の他のメンバーは先にギルドに来ていたようだ。



「ただいま、これからはウルスカから離れないから安心してね。ビビアナが出産したら半年は冒険者をお休みするんだ~、えへへ」



「「「「はぁ!?」」」」



 『アウローラ』の全員が揃えて声を上げた。



「出産って……、産むのはビビアナなんだろう? なんでアイルが休むんだ?」



 『アウローラ』のリーダーが理解できないとばかりに首を傾げた。



「それが普通の反応だよなぁ、もっと言ってやってくれ」



 ホセが呆れた目を向けてきたが、私の決心は揺るがないのだ。



「そんなの可愛い姿を見逃さないために決まってるじゃない! 本当は歩けるようになるまでの一年くらい一緒にいたいけど、さすがにそんなに長期だと皆に迷惑かなぁって半年にしたんだから」



 フンスと鼻息荒く力説したが、『アウローラ』の四人はポカンとしたままだった。



「ガブリエルが今回の依頼料を奮発してくれてるから、散財しなければそれだけでも半年過ごせるくらいだしな。ガブリエルにも感謝するんだぞ。あと道中で仕留めた魔物の素材も売るから一緒に来てくれ」



 リカルドが私の頭をポンと叩いてカウンターへ向かったので、リカルドを追いかける。



「はい、依頼完了確認しました。それではこちらが今回の依頼料の金貨五枚分です。買い取り希望の魔物素材は解体場へお願いしますね」



 ガブリエルのサイン済依頼札クエストカードを確認した受付嬢が重そうな布袋を差し出した。

 金貨だと分けにくいから希望すると大銀貨で渡してくれるのだ。



「さすがにこんな大金になると持っているのが怖いな。アイル、預かっておいてくれるか?」



「うん、わかった」



 私は布袋を受け取ると、ストレージに収納して解体場へと向かう。



「なんか前よりジロジロ見られてる気がする」



 解体場への扉をくぐり、リカルドにポロリと漏らした。



「確かにな。俺達が王都へ向かう前より知らない顔が増えているからだろう。門前広場でも思ったが、随分人口が増えているようだ。その分面倒も増えるかもしれないから気を付けるんだぞ?」



「おとなしくしてます!」



 私から騒動を起こした訳じゃないけど、巻き込まれや絡まれた前科があるのでビシッと敬礼して返事した。

 久しぶりに解体場の人達と挨拶を交わし、一日で解体できる分だけ預けて仲間達のいるフロアに戻る。

 そして眼前で繰り広げられている修羅場。



「あんた達みたいな底辺冒険者なんてお呼びじゃないのよ! 話しかけないでちょうだい!」



「なんだとこのガキャぁ! 親切に声をかけてやったっていうのによ!」



「わからせてやんなきゃいけねぇようだなぁ!?」



「ふんっ! 誰も頼んでないわよ! あっち行きなさい!」



 十歳にもなってなさそうなツインテールの女の子から飛び出すキツい言葉、ホセ達もあまりの光景にポカンとしているだけだった。

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