第136話 そうだ、観光しよう

 晩餐の翌日は領内を散策して今後の予定を相談した、折角タリファスまで来たし、今後いつ来るかわからないから王都まで観光に行こうかという話が出た。

 タリファスはひと月あれば国内の見所をぐるっと回れるという国土自体が小さい国なので1週間で行って戻って来れるらしい。



 ちなみに隣接する国々とは間に標高の高い山脈が立ち塞がっているので侵略しても管理する方が大変という立地なのでかなり平和に過ごしている。

 魔物も山脈の上の方に行けば手強いが、麓は食料カテゴリー(『希望エスペランサ』にとっては)な魔物程度しか出ない。



 そんな訳で王都へ向かい、帰り道にリカルドの実家に顔だけ出して帰ろうという事になった。

 2日の移動で既に4つの領地を通過している、国が小さいから領地のひとつひとつが小さいらしい。



 だけど自然が豊かで裕福では無いけど貧しくも無い領地が多い、リカルドの実家もそんな感じだ。

 リカルドは言ってないけど、自分の貯蓄のそれなりの額を家族に渡したと思う、預かっていたリカルドの個人的な荷物を屋敷の前で渡した時と、出発前に受け取った時ではうんと重さが違った。

 きっと金貨の詰まった皮袋を置いて来たんだろう、遠慮する男爵に無理矢理押し付ける姿が目に浮かぶ様だ。



 途中で手持ちの料理が心許無くなって来たので、立ち寄った村の宿屋で私達以外客が居ないのを良い事に厨房を借りて料理を作った。

 宿屋の大将と女将さんにも手間賃を払って手伝ってもらい、タリファスを出るまでのストックは問題無くなっただろう。



 レシピを真似して良いか聞かれたので了承しておいた、レシピを書き残そうかと申し出たら分からなかったら自分なりにアレンジするという力強い言葉が返って来た。

 次に立ち寄ったら名物になってたりして。



 そんなこんなで王都に到着した、既に視界には聳え立つ山脈が入っている。

 万年雪を乗せた山脈を見上げれば他国からの侵略が無いのも頷ける、山頂に行くには酸素ボンベが必要なんじゃなかろうか。



「凄いわね~、山頂に行くのに何日掛かるのかしら」



「ははは、行けたとしても少なく見積もって数週間は掛かるだろうな。上に行けば行く程魔物も強いし、山頂に辿り着いた者は居ないとか、ここから見えない山頂の陰にドラゴンの巣があるとか色々言われているんだ」



「ドラゴン!? ドラゴンってワイバーン見間違い説だって言ってたけど、やっぱり逸話とか残ってるんじゃないの!?」



 獣人、エルフ、ドワーフ、魔物が居るんだからドラゴンもいて欲しいと思ってしまうのは仕方ないと思う。

 リカルドに対して前のめりになる私をホセが首根っこを掴んで落ち着かせる。



「落馬するぞ、ったく…。早く行こうぜ、さっさと門の行列に並ばねぇと日が暮れちまう」



「それなら大丈夫だ、父上に証明書を書いて貰って来たからな。一応男爵家の長男という身分で通れるぞ。アイルは王都に着いたら図書館に行ってみるといい、地元の昔話が本になってるはずだ」



 ニヤリ、とリカルドが笑った、タリファスに来る前は貴族だなんて匂わす事もしなかったのに、家族に会って吹っ切れた様だ。

 私も完全空想ではないドラゴン関連の本が見られる様なのでテンションが上がった。



 王都なだけあって一般門にはかなりの行列が出来ている、きっと最後尾は2時間くらい掛かるんじゃないだろうか。

 王都には2泊3日の予定だ、サクッと宿屋を決めて日が暮れるまで街を散策する事にした。

 リカルドは12歳から15歳まで王立の学校で寮生活していたらしく、宿屋の近くにある王都の見所を効率良く案内してくれた。



「お、やっぱりまだあったな。夕食はココでいいか?」



 食欲を唆る肉の焼ける匂いをさせている酒場兼食堂の前でリカルドが足を止めた。

 この匂いは間違いない、私の嗅覚がそう囁いたので同意する。

 リカルドは懐かしそうに店内を見回しながら入り、空いたテーブルに着いた。



「あら? もしかして…リカルド?」



 艶っぽい声に視線を向けると、30代半ばくらいのビビアナに負けてない魅惑的な肉体を持つ美女が注文を取りに来ていた。



「ミ、ミランダか!?」



「やだぁ~、やっぱりリカルドね! 随分男っぷりが上がったじゃな~い! あの頃はあの頃で可愛かったけど、うふふ」



 驚くリカルドの頬をスルリと撫でつつ妖艶に微笑む美女、コレはアレだ、下半身の友好を深めた事のある人達独特の空気だね。

 邪魔しない様に壁に掛けてあるメニューを見つつ吟味する。



「あ、大蜥蜴のステーキに茹で赤鎧…見た事無い食材だなぁ。大蜥蜴はわかるけど、赤鎧ってなんだろ、ザリガニのモンスターかなぁ?」



「気になるなら注文すれば良いよ、リカルドなら知ってるだろうけど」



 エリアスがニコニコしながらチラリとリカルドを見た、完全に面白がってるよね。



「いやぁ…、邪魔するなんて野暮な事したくないし…」



「何言ってんの、アイルは同じベッドで過ごしたリカルドの家族公認の婚約者候補じゃないか」



 態と大きめの声で放たれたその言葉で、リカルドを睨みつけていた周囲の客も、リカルドと美女もピタリと会話を止めた。

 この空気どうしてくれるんだ、エリアスーーッ!!

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