第437話 時間差の復讐
エルフの里に向かう時はウリエルとレミエルが居たが、今は代わりに娼館行きたいブラザーズ(本当の兄弟じゃ無いけど)が同乗している。
仲間達だけだと気にならないけど、知らない人も居る中で女1人では何となく居づらいので御者を買って出た。
レミエルが居ればそんな事考えなくて良かったけど、仕方ないよね。
そういえばレミエルは長老たちと住んでいる区画が違ったせいか、あの後顔を合わせたのは見送りの時だけだった。
エリアスと顔を合わせづらいっていうのもあるんだろうな。
行きと違ってガブリエルの案内は必要ないので隣にはおじいちゃんが座ってくれている。
ウィルフレド王子の従者…ロランドだっけ、彼が願っていた宮廷魔導師を連れて行ける事が嬉しい様でご機嫌だ。
「今日は午後に出発したから途中のキャンプ場で1泊してから最寄りの村に到着予定だよ、おじいちゃんもロランドに宮廷魔導師見つかったって報告出来るからひと安心だね」
「ああ、私は何もしていないがな。今回はエリアスのお陰という事になるのだろうか、理由が理由なだけに素直に感謝するのは複雑な気分だが…」
「おじいちゃんがエリアスに感謝する必要は全く無いよ!」
プリプリと怒る私を、おじいちゃんは苦笑いしながら頭を撫でて
「そういつまでも怒ってやるな、元はと言えば酔ってエリアスに講義させれば良いと言ったアイルが原因なのだろう? そのせいで意趣返しをされたからと更に仕返しをしていてはエリアスも可哀想ではないか? 世界樹に攻撃もさせたというのに」
「うぅ…」
確かにそうだけど認めたくない。
「どうせ殆どの者とはまた顔を合わせる事も無いのだからアイルに何の影響も無いではないか、もう気にするな」
「あ、そっか」
こっちの世界にはネットも無いから拡散される事も無いし、唯一拡散出来そうな通信魔導具を持ってるのは講義に参加してないウリエルだから、この話を広める様な事をするエルフは居ないもんね。
最悪エルフの里に入ってから行動する時は隠蔽魔法使って、長老達の誰かに来た事だけ報告して炭酸水汲んでくればいいし。
ただガブリエルも講義に参加していたのは予想外だったんだよねぇ、たぶん長老達に命令されて強制的に参加させられたんだろうけど。
部分的に記憶を消す魔法があれば良かったのに…、次に女神様に会えたら転移魔法みたいに新しい魔法の開発をお願いしてみようかな。
「アイル、顔が悪いぞ」
「ッ!?」
「ああ違う、悪い顔をしていると言いたかったんだ、ちょっと言い間違えただけだからそんなに驚いた顔をするでない」
「だいぶ意味が違うからね!?」
危うく心に大きな傷を負うところだった、いつも可愛がってくれるおじいちゃんにそんな事言われたら泣いちゃうよ!
これは傷ついた心を癒す為に今夜はモフらせてもらわないといけないな、うん。
「ははは、すまんすまん」
「それじゃあ今夜モフらせてくれたら許してあげる」
ちょっと拗ねた風を装ってみる、そうすればこれまで必ず「仕方ないな」とか言いつつ受け入れてくれるのだ。
「ん? 2人でテントを使うのか…、しかし…今はやめておいた方が良くないか?」
いつもなら二つ返事で了承してくれるのに、何だか今回は一緒に寝る事を渋っている。
他のエルフ達が居るから男女2人でテントを使うと勘繰られると思ってるのだろうか。
エリアスの講義を受けて娼館に行きたいなんて言う3人なら思春期の如く何でもそういう事に繋げて考えちゃう可能性もあるかな。
「2人で寝てタミエル達に誤解されそうだから? だったらホセも一緒に寝れば良いよ」
「う…む、アイルがそれで良いのなら…。その代わりホセにもちゃんと了承してもらうんだぞ?」
「うん! ホセ、聞こえてた? 良いよね!?」
『…かまわねぇよ』
少し間があったけど、御者席の小窓越しに了承の声が聞こえた、呆れた声だったけど了承して貰えたから良し。
久々に両手に葉っぱというやつだね、女性を2人連れているのを両手に花というが、この場合私が花なので、花の両脇に居るのは葉っぱなのだ。
「うふふふ、今夜が楽しみだなぁ。夕食は何にしようかな、そういえば南瓜のグラタンはまだ出して無かったよねぇ。今夜は涼しくなりそうだから身体が温まりそうな物にしようか」
「ほぅ、南瓜のグラタンか、何種類かグラタンは食べたが南瓜はまだ食べた事が無かったな、ホセが喜ぶだろう」
どうやらホセのご機嫌取りなのはおじいちゃんに見破られていたらしい。
既にホセの好物が南瓜だとおじいちゃんは知っている、そしておじいちゃんも南瓜が好きだという事を私は見抜いているのだ。
おじいちゃんの尻尾がパタパタと振られる音を聞きつつ、キャンプ場へと馬車を走らせた。
[side 娼館行きたいブラザーズ]
アイルが障壁魔法で周辺を覆ったので、今夜は見張りの必要は無い。
しかしエルフの3人は皆がテントに入った後も、小さな焚き火を囲んで話をしていた。
「見たか?」
「ああ、アイルのテントにブラウリオとホセも入って行ったな」
「エリアスが言っていた上級者は3人でも楽しむというやつだろうか…」
タミエルの言葉にフェヌエルとカマエルが頷き意見を言い合う、アイルが予想していたより思春期脳な3人の言葉を聞いていた者が1人。
「誰だ?」
フェヌエルが気配に気付いて3人が振り向くと、そこには暗がりの中エリアスが地面に突っ伏して震えていた。
勿論3人の話を聞いて声を殺して笑っているのである。
「エリアスか、何をそんなところで
「フェヌエル達こそ…何の話を…ププッ。いや、そんな事より僕はフェヌエルがトルニア王国に行くからひと言注意しておこうと思って来たんだよ」
「注意?」
「そう、フェヌエルが行くトルニア王国の娼館には講義で僕が言ったアイルが授けた技は伝わってないって事をね」
「何ッ!?」
フェヌエルは驚きの声を上げて腰を浮かせた、トルニア王国には行かないタミエルとカマエルはあからさまにホッとした顔をしている。
「あ、一般的な奉仕はしてくれるから安心していいよ、だけどアイルが授けた技はフェヌエルが説明でもしてあげない限りシて貰えないからね? 説明さえすればきっと娼婦なら理解してくれるだろうけど。それだけ伝えに来たんだ、それじゃあおやすみ」
「「「おやすみ」」」
御者席に近い席に座っていたエリアスには『エリアスに感謝する必要は全く無いよ!』というアイルの声が聞こえていたのである。
「ふふ、五国大陸でどこまで広まるかなぁ」
そんなエリアスの呟きは、初秋の夜風以外に聞かれる事は無かった。
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