第349話 おじいちゃんとお迎え

「じゃあリカルドのお迎えに行ってくるね」



「アイル、私も連れて行ってくれないか」



 リカルドを実家に置いてきてから3日後、リビングを出て靴を履きに行こうとしたらおじいちゃんに引き止められた。



「良いけど…、タリファスは獣人差別が結構酷いところだよ? 嫌な思いするかもしれないけど良いの?」



「今回はリカルドの実家しか寄らねぇんだろ? だったら大丈夫じゃねぇ?」



「ホセも大丈夫だと言っているし、1度転移というものを体験してみたいのだ」



 ホセの援護を受けておじいちゃんは行く気満々だ、転移くらいいつでもしてあげるのに。



「私が一緒だからよっぽど大丈夫だろうから良いかな、じゃあ行こうか。身分証忘れないでね」



「部屋に置いてあるから取ってくる」



 おじいちゃんを待つ事しばし、靴を履いて2人でシドニア男爵領へと転移した。

 おじいちゃんと門へと向かうとバシリオが満面の笑みで出迎えてくれた、何か良い事でもあったのだろうか。



「賢者様いらっしゃいませ、リカルド様のお迎えですか? あっ、賢者様の身分証は必要ありません、そちらの方だけお願いします。……前伯爵!? あ、どうぞお通り下さい」



 冒険者証を出そうとしたら必要無いと言われてしまった、顔パスというやつか。

 確かに私の賢者という立場は変わらないもんね。

 バシリオはおじいちゃんの身分証を見て驚いた、タリファスで獣人が貴族なんて考えられないから当然の反応だろう。



「おじいちゃん、リカルドの実家はあの町で1番大きい屋敷だよ。ちょっと歩くけど街中を散策しながら行くでしょ?」



「ああ、他国の文化は興味深いからな。ウルスカに到着するまでも国が変わるごとに文化が違うのがわかって面白かったぞ。ここは更に海をへだてているからまた違うのだろうな」



「おじいちゃんってばこの辺の地理も知ってるの!?」



「ははは、これでも王宮勤めの騎士だったんだぞ? 大体の国の位置くらい把握しているに決まっているだろう、外交官程詳しくは無いがな」



「凄いね、じゃあエルフの里がどの辺りかも知ってるの!? 1度くらい行ってみたいんだよね」



「何を言っているんだ、同じ大陸にあるのに知らなかったのか? 確かウルスカからパルテナ王都とは逆方向へ行くと山脈にぶつかるが、その向こうの深い森がエルフの里だと言われているぞ」



「言われている、なんだ…」



「うむ、どうやら目眩めくらましの魔法を使っているのかエルフ以外は辿たどり着けないらしいからな」



「ふぅん、じゃあその内ガブリエルにお願いして連れて行ってもらおうかな。だけど帰ったら結婚しろって言われるから嫌がるかも…」



「そのガブリエルという名前は何度か出てきたな、ウルスカに到着した日に土産を渡しに行ったエルフだろう?」



「うん、付き合いの長さはホセ達とあんまり変わらないくらい長いの。あっ、ここがビール買った酒屋だよ、それであっちに見えるのがさっきの門番してたバシリオのお父さんがやってるバウムクーヘン屋さんなの」



「おお、あの美味い菓子の店か。ビルデオに帰る時は土産に持って帰りたいくらいだが…、焼き菓子とはいえさすがに持って帰っている間に傷んでしまうだろうな」



 おじいちゃんがしょんぼりしてケモ耳がヘタってしまった。



「大丈夫! そんなの私がコッソリ届けてあげるよ、ホセのお母さんの部屋なら行けるから。玄関でも行けるけど他の人に見られちゃいそうだもんね」



「おお、それならば問題無いな! アイル、私がビルデオに帰ってからもたまに会いに来てくれんか? ホセの様子を聞きたいし、それに…アイルの料理が恋しくなりそうだしな」



 嬉しそうにするおじいちゃんのケモ耳がピンと復活した、私の心を揺さぶる罪なケモ耳だ…。



「私の料理はレシピを商業ギルドから仕入れれば料理人が作ってくれるよ? でも私もおじいちゃんが恋しくなるかもしれないから時々会いに行くね、獣化してモフらせて欲しいな」



「ククッ、本当にアイルは獣化した私達が好きなんだな。アイルに会うまで人族にマーキングされる日が来るとは思わなかったぞ」



「えっ!? 私マーキングなんてしてないよ!?」



 ホセに寝惚けて噛み付いたのはわかったけど、おじいちゃんには何もしてないはず。



「アイル…あれだけ撫で回しておいてマーキングしてないと? しかもその合間に何度も口付けていたではないか」



「くち…づけ………、あっ」



 やってたかも! そらをモフる時にいつも両頬の下をワシワシしながらオデコにキスしてたから無意識にやってた!!

 あれ? ちょっと待って、もしかしなくても今までホセをモフるたびにホセにキスしてたの!?



「アイル大丈夫か? 顔が赤いぞ?」



 ここがベッドの上なら両手で顔を覆ってゴロゴロ転げ回るところだけど、こんな大通りでそんな事も出来ず。

 そうなると私に出来るのはひとつだけだ。



「おじいちゃん……私ちょっと走るね!!」



「は!? おい、アイル…」



 戸惑うおじいちゃんを振り切る様に、心の中で雄叫おたけびを上げながらシドニア男爵家まで全力疾走した。

 到着した時、身体強化を使ってなかった私は瀕死状態でゼェハァ言っていたのに、おじいちゃんは息も乱さずすぐ後ろをついて来ていた事を追記しておく。


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