第348話 教会本部から各国へ

 その日、各国の王の元へ同時に報告すべき重要な案件があると教会本部から連絡が入った。

 録音の魔導具を準備して待つ様にと時間が指定されたが、この様な事は4人目の賢者が現れ、聖女であると認定した時以来だった。



 それが数ヶ月前の事なので、今回も賢者に関してだろうかと各国の王族は今か今かと通信魔導具の前で待ち構えて指定された時間を待っている。

 そして約束の時間になりそれぞれ王の執務室や謁見の間でと、場所はことなれど魔導具を通して教皇の声が響いた。



『教会本部より、教皇オスバルドの名において各国の王にお伝えします。これから話す内容は賢者アイル様が女神様から告げられたと報告下さったものです』



 通信魔導具の前に居た者達は本当なのかと騒ついたが、大抵は王のひと声で静かになった。

 そしてシンと静かになった事を確認してから教皇は話を続ける。



『まずひとつ、魔導期の再来、今後産まれてくる赤子は適性があれば魔法を使える様になる。そして我々大人でも今後産まれてくる赤児に比べれば時間は掛かるが生活魔法程度であれば使える様になるだろうとの事です』



 その瞬間雄叫びの様な声が通信魔導具を通して教皇の居る執務室に届いた。

 しかし同時に疑いの言葉も届いている。



『伝えるべき事はまだあります、お静かに』



 次は何だと聞いている者達は再び静かになった。



『恐らくアイル様のお言葉を信じられない者も居るでしょう、しかしアイル様は今後神託も届くとおっしゃいました、そして事実私とシスターの2人同時に神託を受け取ったのです。アイル様に伝えた事を広める様に…と、そしてアイル様からの注意…いえ、警告があります。ご本人の声を聞いた方が確実でしょう、録音した会話を聞いて頂きましょう』



 アイルが訪れた事の無い王族は、噂の賢者の声が聞けると知って耳を澄ませる。

 そして少女らしい可愛い声が通信魔導具を通して聞こえて来た。



『そういう事です、この事を各国へお知らせして頂きたいというお願いと、もう1つ魔法の適性がある子供達が親から引き離されたり売買の対象にならない様にしっかり注意喚起して頂きたいのです』



『確かに承りました、親から引き離さないというのも女神様のお言葉でしょうか?』



『いえ、お願いに関しては私からです。もしそんな事が起こっているとわかったら…』



『わかったら…?』



 この会話を交わした教皇と同じく、聞いている王族はゴクリと唾を飲み込んだ。



『私が大暴れする上に、また魔法が使えなくなる様に女神様にお願いします。お伝えすべき事は以上です』



 ほがらかとも言える口調でとんでもない事を告げた賢者に各国の王族は息を呑んだ、アイルと交流のある一部の王はアイルらしいと苦笑いを浮かべていたが。



『と…まぁこういう事ですので各国魔導期の法律や取締りの仕方を勉強してしっかり守って頂きたい。どこかのひとつの国のせいで世界中の人々から魔法が奪われる様な事になれば、国の存続が危うくなる程周りから恨まれるでしょうからな、それ以前に大氾濫スタンピードでの活躍を聞く限りアイル様が本気になれば国など簡単に滅亡させられるでしょう、各国の王には賢明な判断を願います。私の報告は以上です』



 そう告げて教会本部からの通信が切れた、ビルデオ王国の王の執務室にてホセの父親…ビルデオ王は座り心地の良い椅子に身体を預ける。



「聞いたか? この事を国内に公布せねばならん、宰相に就任したばかりだというのに忙しくなるな」



 ビルデオ王はの宰相に微笑みかけた。



「いえ、この様な嬉しい報せであればやる気も出るというものです。宰相のであれば何故売り買いしてはならぬのだと憤慨しそうではありますが…」



「ふふ、は私の妻と子だけでは飽きたらず我の命をも奪おうとする程強欲な奴からな」



 アイル達がブラウリオを連れてビルデオを出た翌週、王妃の父親である公爵が王の毒殺を試みた。

 いや、正確には王妃の協力を得て毒殺を画策する様に仕向けたのだ。



 王妃はアイルの言葉通りビルデオ王に父親を止めたい事を相談した、このままでは王の命が脅かされ、将来我が子が傀儡かいらいになるのを恐れたのだ。

 愛情を掛けてくれなかった父親よりも我が子を守りたいという思いにより、父親の命が消える事になるとわかっていても決心が揺らぐことは無かった。



 王妃は父親をビルデオ王との昼食に招いた、後宮は公爵の息が掛かった者が半数入り込んでおり、公爵にとっては毒を仕込ませる事など造作も無い事だった。

 公爵はいつも通り言いなりになる娘に肉料理に出されるワインは飲むなと言い含め、毒入りのワインを飲んだビルデオ王を見て勝ち誇った笑みを浮かべる。



 毒酒を煽って崩れ落ちるビルデオ王に公爵は高笑いしながら自らの悪事を話し出し、アイルから貰ったアクセサリーのお陰で平然と立ち上がったビルデオ王を見て腰を抜かす程驚いた。



 録音の魔導具が動かぬ証拠となり数日後、公爵は処刑された。

 本来であれば王の命を狙った者の娘として王妃は廃妃となるはずだったが、己の父親が処刑されるとわかっていても国と我が子を想い決断した事を考慮して離宮へ移り住むだけにとどまった。



 王子と王女についても王位継承権を剥奪し、ホセを呼び戻して王位をつかせる事も可能だったが、王子を廃嫡したとなればまた子供を作れとうるさく騒がれるのは目に見えていた事もあり2人は何の処分も下されていない。



 王妃が離宮に移り住んでから日課となった庭園の散策で、時折りまるでベアトリスがいた頃の様に穏やかに話す王と王妃の姿が目撃される様になった。

 その後、家族4人で庭園を散策する姿も見られる様になる。

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