第62話 拗ねる人

「ああ…、やっぱりついて行きたい…!」



「お願いですから止めて下さい、短くても1週間は王都に滞在するって言ってたじゃないですか、移動を含めたらひと月以上掛かりますからそんなにエドガルド様が不在になれば絶対街も店も荒れますよ!?」



 トレラーガを出発する為に来ている門の前、エドガルドの呟きに部下兼愛人のアルトゥロが…、あれ? 前は鑑定で部下兼愛人って出てたのに部下だけになってる。

 私のせいで別れちゃったとかだったら恨まれるやつじゃない!?

 オロオロしつつ様子を伺っていたらチロリと不機嫌そうに私を見た。



「何を言いたいのかわかります、貴女に会わなくても成長してきた僕は愛されなくなる覚悟はしていたので恨んだりしませんよ」



 一瞬心を読まれたかと思ってドキッとしたけど、エドガルドがアルトゥロを置いて行こうとした事に対してだよね?

 確かに数ヶ月会わない間に前より身長が伸びてる気がする、私だって胸が成長してるからおかしくはないか、うん。



「ムッ、何ニヤついてるんだ、勝者の余裕のつもりか!?」



 おっと、胸の成長を反芻していたせいでニヤついちゃってたかな?

 前回会った時はお前って言われてたのに丁寧な話し方されて変な感じしてたから、畏まった態度よりむしろこっちの方が自然でいいかも。



「アルトゥロ、アイルに失礼は許さんぞ」



 エドガルドにジロリと睨まれてグッと詰まるアルトゥロ。



「いいよ、エドが私に構うからヤキモチ焼いてるだけだもん、可愛いじゃないの。大好きなエドを王都に連れてったりしないから安心してよ」



「な…っ!」



 アルトゥロを安心させる為に言ったのに、アルトゥロは顔を真っ赤にしてハクハクと言葉を失っている。

 まだエドガルドが好きってバレてないと思ってたのかな?

 あれだけ全力で慕ってますって表現しておいて今更なのに。



「アイル! そろそろ行きますよ! 別れを惜しむのも程々にして下さいね!」



 昨日から妙に機嫌の悪いガブリエルがプリプリと怒りながら声を掛けてきた、友人未満発言がジワジワ来たのか知らないが、今朝から言葉遣いが変わっている。

 もしかしたら「普通に話して」って言って歩み寄って欲しいのだろうか。



「わかりました。じゃあね、エド、アルトゥロ」



「「道中(お)気をつけて」」



 街から出る時は犯罪者の似顔絵と照合するだけなので時間は掛からない、門を出るとホセがヒョイと馬に乗せてくれた。



「ありがと」



「ん、じゃあ行くか」



 道中の会話はずっと敬語のままのガブリエル、敢えて私も…正確には面倒くせぇって言うホセ以外ガブリエルに対してだけ敬語を使っている。

 でもホセとガブリエルはあまり話さないから大して意味は無い。



「そこの野営地で昼食にしよう」



 人が疎らになった時点で防風対策をしたのとジェルクッションのお陰で楽なので早く進めている。

 風の抵抗が無いだけで馬もかなり楽な様だ。



 野営地には昼時なのに珍しくまだ滞在している冒険者らしき3人組が居たが、他には誰も居ない。

 大抵は朝になったら出発するので、私達の様に早く到着した人達なのだろうか。

 まだテントを張ったままなので動かせない怪我人か病人がテントの中にいるのかもしれない。



 少々その冒険者達を気にしつつも離れた場所のにある手綱を引っ掛ける柵に繋いで休ませ、置かれている飼い葉桶に干し草を入れて水桶に水を出す様にガブリエルに頼む。

 自分でも出来るけど、今は他の冒険者の目があるからね。



「ガブリエル、馬の水桶に水を出して貰えますか? その間に昼食の準備をしておきますから」



「…………」



「ガブリエル? どうしました?」


 

「う…っ、私が悪かったから! もう普通に話してよ!!」



 我慢出来なくなったのかガブリエルは半泣きでギブアップ宣言をした、いい歳してるのに堪え性は無い様だ。



「ふっ、ふふふっ、折角ガブリエルに合わせてあげてたのに、もう止めちゃうの?」



「私の気持ちを知ってて弄ぶのはそんなに楽しいかい!? 酷いよ!」



 人聞きの悪い事を言いながら馬達の方へ走って行った、しかしちゃんと水を出してくれるらしい。

 その間に一応マジックバッグから取り出すフリしつつストレージから敷物やテーブル、食事を取り出した。



「ククッ、えらく根を上げるの早かったじゃねぇか。あれでも一応お偉いさんなんだからあんまり虐めてやるなよ?」



 ちゃっかりお肉多めの皿の前に陣取りながらホセが笑った。



「虐めてないよ、先に言葉遣いを改めたのはガブリエルだし? 私達は相手に合わせただけよ、ね~!」



「ね~!」



 答えてくれたのはビビアナだけだったけど、さりげなくエリアスとリカルドも頷いている。

 何だかんだガブリエルの言動がウザくてちょっと意地悪したかったのだろう。(あっ、意地悪って言っちゃった)



「お水あげてきたよ…」



 まだ少し拗ねているガブリエルが戻って来た。



「ありがとう、ほらほらそんな顔でご飯食べないの! 今日は特別にデザートにプリン付けてあげるから」



「プリン?」



「ほら、これだよ。知らない?」



 カップに入れた状態のプリンとデザートスプーンをガブリエルの前に置いた。



「ああ、プディングか。ソフィアが広めた甘くてプルプルのお菓子だよね」



「そうそう、プディングとも言うね。皆分は食後に出すから食べる人は言ってね」



 皆既に食事を始めていたので各々頷いている、馬車と違い馬に乗っているだけでも体力を使うので森に探索に行った時と変わらないくらい食べるからトレラーガの屋台で大量に買って正解だった。



「休んでいるところをすまないが、助けてくれないか?」



 食後のプリンを食べていたら同じ野営地に居た冒険者の1人がガブリエルに話しかけてきた、何だか元気が無いけど食料でも分けて欲しいのだろうか?

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