第135話 晩餐という名の…

 リカルドと買い物に行って分かったのは、既に私達の存在が知られていたという事。

 門に居たバウムクーヘン屋の息子さんであるバシリオがその日の夜に酒場でリカルドがパーティ仲間と里帰りしていると言ったらしい。



 田舎なのでそんな話題は電光石火で広まり、私がリカルドと買い物をしていた頃には半分以上の住人が知っていた様だ。

 宿に向かって街中(と言ってもお店が疎らにある程度)を歩いていたらすれ違う人達がリカルドにお帰りなさいと声を掛けていた。



「そういえば折角家族と居られるのに連れ出しちゃったけど大丈夫だった?」



「ああ、ある程度近況を報告しあったら特に話題も無いと言うか…(むしろアイルを連れて来いって言われてるなんて言えないしな)」



「ああ~、久々に会うとそんなものかもね、前は何を話していたんだろうってなるよね」



「ん? アイルも家を離れていた事があるのか?」



「うん、4年間勉強の為にね。長い休みの時には家に帰っていたけど、帰ったからと言って家族と一緒に過ごすとかしてなかったかなぁ。あはは、今思えば一緒に過ごしておけば良か…ッ」



 ジワリと涙が滲んで、喉の奥が痛くて言葉が出なくなった。

 泣こうと思っていないのに勝手に溢れてきた涙を乱暴に袖で拭っていたらリカルドが頭を優しく撫でてくれて、余計に涙が止まらなくなる。



「まぁ…、会わないと会えないは違うからな。俺も家族とは二度と会わないのを覚悟して家を飛び出したが…帰って来て良かったと思ってる、ありがとうな、アイル」



「ん…、帰って来れなくても時々手紙で近況を報せてあげたらご家族も安心すると思うよ。私の場合は通信の魔導具みたいなのでいつでも会話は出来たからね」



 ぐしぐしと涙を拭いて顔を上げると、リカルドは少しすまなさそうに微笑んでいた、私に家族を思い出させてしまって気まずいのかもしれない。

 気にして欲しくなくてニッコリと笑った。



 その後リカルドは宿屋の部屋に顔を出して、今日の夕食は男爵が皆を晩餐に招待していると言った。

 晩餐ならちゃんとした服じゃないとダメかな、ガブリエルの屋敷で過ごす為に新調した服があって良かった。



 ホセは自分も参加していいのかとちょっと戸惑っていたけど、問題無いとの事。

 リカルドの家族なだけあって懐が大きい様だ、料理人も醤油を使ったレシピを試すので味の確認を兼ねて食べて欲しいと言っているらしい。



 そして夕方になって貴族の屋敷で過ごしても問題無い格好に着替えた私達はリカルドの実家へ向かった。

 馬車の手配する程の距離では無いからと歩いて向かったら、住人に凄く注目されてしまった。



 夕食はとても美味しかった、レシピも正確に再現されていたし、丁寧な下拵えをしているのがわかる繊細な味わいで私が作るより美味しい。

 そう言ったら料理人は凄く照れていた、リカルドの家族からも絶賛されていたしね。



 しかし…、席順というか、並びが何だかおかしい気がする。

 お誕生日席の男爵とリカルドに挟まれる形で角の席に私が居るのはなぜ?

 しかも向かいはリカルドのお母さんなのだ、その隣には妹さん達。

 家族側と冒険者側というのはわかるとして、普通リカルドが男爵の隣に座るんじゃない?



 もしかして小さいから子供だと思われて、お世話しやすい様に角に座らされてるとか?

 コッソリとリカルドに子供だと思われているのか聞いたら、年齢は教えてあると返って来た、じゃあどうしてこの席なんだろう。



「アイル嬢はパルテナの出身では無いとか」



「はい、今は諸事情でパルテナで暮らす事になりましたが、生まれ育った町はもう帰り方すらわからないのでパルテナ国民として生きていくつもりです」



「まぁ…、それではご家族とも離れていらっしゃるの?」



 男爵の言葉に答えると、夫人が頬に手を当て気遣わし気に眉尻を下げた、昼間泣いて無かったら今ちょっと泣いちゃったかもしれない。



「ええ…、もう二度と会えないと諦めてます」



「でしたら私達を家族だと思ってくれていいのよ? そうすれば寂しくないでしょう? 何ならお兄様と結婚したら本当の家族になれるわ、どう!?」



 上の妹であるエレナ嬢(食事の前に改めて紹介してもらった)が前のめりで言った。

 おっとぉ!? もしかしてリカルドを家に連れ戻す為に私を利用しようとしてるとか?

 見た目的にもビビアナより丸め込み易そうには見えるだろうし。


 

「あはは…、お気遣いありがとうございます。ですがリカルドは凄くモテるから選び放題なのに私なんかを妻にしたらリカルドが可哀想ですよ」



「そんな事は無いわ! だってアイルさんとても可愛らしいもの! ねぇ、お兄様?」



 下の妹であるマリベル嬢もグイグイ来る、そんな聞き方したら断った場合私に恥をかかせる事になるからリカルドも言いづらいでしょ!

 余程リカルドに帰って来て欲しいんだね、リカルドってば愛されてるなぁ。



「アイルが可愛らしいというのは同意するが結婚するとなると話は別だ、アイルを困らせるんじゃない。もう明後日にはここを立って冒険者に戻るからな、今後は手紙を送って無事を知らせる」



 おっと、リカルドから初めて可愛い的な褒め言葉を聞いたよ、ちょっと照れる。

 しかし、会話に入って来ない3人がニヤニヤを抑えてるのがバレバレな顔で聞き耳を立てつつしっかり食事を堪能してるのわかってるからね!



「家に帰って来いとは言ってないぞ、エレナに婿をとるのはもう決めた。ただいつまでもリカルドが独身だと心配になるから伴侶がいてくれればなと思ったんだよ。アイル嬢にはお前も気を許しているみたいだからな、アイル嬢もお前を嫌っている訳でも無さそうだし」



 ニコリとリカルドによく似た顔で微笑まれてちょっとドキッとする、リカルドに渋味を足した感じでどちらかと言うとリカルドより男爵の方が好みですって言ったらどうなるんだろう。

 流石にややこしくなるからやめておこう、私の元年齢とか説明出来ないしね。



「母国では結婚は20代から30代にするのが普通だったので私にはまだ結婚は早いかと…」



「あら、だったら将来の旦那様候補に是非リカルドを入れてやってちょうだい。我が家としては大歓迎だわ、うふふふ」



 そんなこんなでメンタル削られる晩餐も終わり、宿屋に帰り際に余程リカルドに帰って来て欲しいんだねと言ったら無言で頭を撫でられた。

 帰り道中では3人がリカルドの家族に私がロックオンされてると言われたが、私を利用してるだけだと思うんだけどなぁ。

 そう言ったらビビアナのマシュマロ乳に埋められた。

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