第512話 約束のモノ
ガブリエルとの約束を守るため、王立研究所にある部屋を訪ねたのだが……。
ノックをすると私達が王都へ行く前にビビアナ達の事を頼んだ研究員のパブロがドアを開けてくれ、玄関から見えるリビングに真剣に簡易通信魔導具を組み立てているガブリエルがいた。
私が来た事に気付いていないようなので、凄い集中力だ。
真剣な顔してると普通に美形のエルフなんだけど、口を開いた途端に残念エルフに成り下がっちゃうんだよねぇ。
「そういえばタミエルはどこにいるの? パブロ知ってる?」
「タミエルは二つ隣の部屋で暮らしていますよ、元々所長と家族ってわけでもないという事で別の部屋を使う事になりました」
「そっか、じゃあ料理ができてから呼べばいいかな。材料はテーブルに置いてくれてるみたいだし、私はキッチンにいるね」
「はい! 最後の仕上げはアイルじゃないとできないと言っていたので、その工程になったら声をかけますね!」
「了解」
ストレージからエプロンを取り出して調理を開始した。
そしてカレー用のパウダースパイスを炒め始めた辺りで、やっとガブリエルが私の存在に気付いて驚きの声を上げる。
「アイル!? いつの間に来たんだい!? 声をかけてくれたらよかったのに」
「集中してるみたいだから邪魔しちゃ悪いと思って。
「うん、あと少し調整したらアイルに魔法付与してもらえば完成だよ」
「じゃあこっちのキリがついたら
リビングとキッチンはドアの無い続き部屋になっているので会話しながら調理が可能だ。
まぁ、多少声を張る必要はあるが。
「いつキリがつきますか!? 私がお手伝いする事があれば言ってくださいね!」
「あ、うん、魔法を付与するのはすぐ終わるから、ちょっとした合間でもできるし大丈夫だよ。それにパブロ料理作れるの? これまで研究所の人達は料理してこなかったんでしょ?」
「うっ、確かに経験はありませんが……。少しでも早くあの芸術的な通信魔導具を手に入れたい気持ちが先走りました。このために所長達がウルスカを出発した直後から次から次へと現れる貴族達を追い払ってきたのですから!」
経験無しで手を出そうとするとは……、恐ろしいやつめ。
ん? ちょっと待って、今とんでもない事言ってなかった?
「次から次へと現れる貴族って……どういう事?」
水を入れて煮込みに入ったのでリビングへと移動する。
するとパブロがもの凄いドヤ顔で胸を張った。
「まぁ、アイルが聞いてないのも仕方ありません。セシリオと協力してビビアナの耳に入らないように尽力しましたからね! ビビアナの本当の両親だと言う者だったり、ビビアナが産む子を養子に迎えてやると
ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべるパブロ。
話を聞いて怒りがこみ上げていたのだが、その笑みに毒気を抜かれてしまった。
「相手も貴族だったんでしょ? よく追い返せたね、パブロの実家よりも家格が低い人達だったの?」
「いえいえ、幸いセシリオはビビアナの生い立ちを全て聞いていたので偽物の両親は簡単に追い払えましたし、無礼な申し出をする者にはアイルが戻って来てから起こるであろう事を丁寧に教えてあげただけですよ。本当は陛下から頂いたという許可証を出せば話は早かったのですが、それだとビビアナの耳に入って心労に繋がってしまうでしょう?」
私が戻って来てから起こるであろう事……ねぇ、とりあえずギルド経由ででも王様に告げ口はするよね。
それからその人達は私の敵になったと公言するでしょ。
「もちろんその人達を庇おうとするなら全員同罪だよね。その人達がいる領地には今後何か困った事があっても絶対助けないし、商業ギルドに根回ししてその領地に私が提供したレシピとか入らないようにするでしょ、追い込むために有効な手段が無いかエドに聞いてみるのもいいね」
「はは……、私が予想したより色々考えているようですね……」
どうやらいつの間にか考えが声に出ていたらしく、パブロが頬を引き攣らせていた。
「よし、できた! 後はアイルに魔法を付与してもらえば完成だよ。はい」
ガブリエルに手渡されたのは、ビビアナと私が持っている物の色違いだった。
「えーと、『
魔導具に嵌め込まれた魔石に魔法式を定着させると、魔石の中に魔法式が浮かび上がった。
「さすがだよねぇ、この複雑で繊細な魔法式をこんなにアッサリ付与するのはアイルにしかできないと思うよ」
ガブリエルが感心したように呟いて、魔石の中の魔法式を覗き込んだ。
「あっ、あのっ、もう私がいただいてもよろしいですかっ!?」
待ち切れないと言わんばかりに両手を差し出しているパブロ。
まるで宝物を見つけた子供のように目をキラキラさせている。
「もちろんだよ、ビビアナ達を守ってくれてありがとね」
お礼を言って通信魔導具を手渡すと、頭上に掲げて色んな角度から眺めては感嘆の声を漏らす。
「アイル? 私も魔導具作り頑張ったんだよ?」
嬉しそうにしているパブロと私を交互にチラチラ見ながら褒めて欲しいオーラ全開のガブリエル。
ホセと違ってわかりやすく褒められたがっている様子に、思わず笑ってしまった。
「ふふっ。うん、ガブリエルもありがとう。美味しいカレー作るから期待しててね」
「うん!」
この日、招待した研究員含めておかわり続出したため、夜にガブリエルが寸胴鍋に僅かに残るカレーを悲しそうに眺めていたとかいなかったとか。
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