第56話 人を呪わば穴二つ

 馬から降りて村に入って行くと村人の視線が集まった、特に新顔のガブリエルに。

 リカルドが探索用魔導具を見ながら歩いて行くと、ヘラルドの店の近くにある普通の住宅がいくつか並んでいる所に辿り着く。

 影が長くなってきているから早くしないと夜になってしまう。



 早足で魔導具が示している方向の家を迂回して進もうとしたがリカルドの足がとまった、とある家を常に指しているからだ。

 玄関に回りノックをすると、ヘラルドと同じ年くらいの…言っては何だが冴えないというか根暗そうな男性が出てきた。



「はい…、え…っ!? あの、何か…?」



 ドアを開けた瞬間リカルドの顔を見て驚き、オドオドとした態度でこちらの様子を伺っている。



「すまないが「この家のどこかに額に魔石を付けた犬を操る制御装置があるのは分かってるから出してほしい、私は魔導具さえ手に入れば君が誰を何人殺していようが興味は無いから早く出して! どうせ犬達は全滅したんだからもう制御装置は無用でしょう!?」



 ガブリエルはリカルドを押し退ける様に割り込み、畳み掛ける様にベラベラと話す。

 そんなド直球でいいの!? 逃げられたりとぼけられたらどうする気なんだろう。

 男性は数秒固まったかと思うとサッと顔色を変えた、唐突な出来事を脳が理解した様だ。



「……あっ、そんな…、何で…」



「ちょっと失礼するよ?」



 戸惑う男性をよそにリカルドの手から魔導具を奪い取るとそれを覗き込みながら家の中をウロつき、勝手に引き出しを開けて拳大の赤い石を取り出した。

 それを見た男性はヒッと息を飲んで自分の口を手で押さえた。



「見つけた~! わぁ、中に見事な魔法式が組み込まれてるね、ふんふん、思念だけで制御可能にしてあるけどそれなりの強い思念じゃないと無理そうだ。誰かに恨みでもあったのかな? 魔導期時代の遺物を発見したら報告義務があるのを知らなかった訳じゃないよね?」



 赤い石を覗き込んでブツブツと言ったかと思うと、ガタガタと震えている男性をチラリと見た。

 視線を向けられた男性は後退りしながら首を振る。



「違う…っ、違うんだ、本当はちょっとヘラルドを脅かしてやりたかっただけで…そりゃ金も欲しかったけど関係無い人を襲おうなんて思っていなくて…!」



 制御装置を見つけられた男性はパニック状態になって言い訳を始めた。

 つまりはアレか、同じ様に育ってきたのにヘラルドはちょいちょいウルスカとか他の街に商売で出掛けたり、仕事柄愛想も良くて楽しそうに女性と話したりしてるのが妬ましかったとか…?



「根暗そうだもんね、自分から女の子に話しかける勇気は無いのに簡単に女の子と話してるヘラルドが気に入らなかった的な? もしかして自分の好きな子と仲良く話してるところを見て勝手に嫉妬して怨みを募らせてるところに偶然魔導具を発見しちゃったから魔がさしたとか言うんじゃないよね?」



「アイル…、そこまでにしておいてやれよ。心の傷抉りまくってんじゃねぇか」



「へ?」



「う……、うわぁぁぁぁぁっ」



 どうやらいつの間にか考えていた事が口から漏れていた様だ、男性は膝から崩れ落ちると両手で顔を覆って泣き出した。

 皆があーあ、と言わんばかりの視線を私に向けてくる、ちょっと待って、泣いてるのって制御装置見つかって犯罪が明るみになったからだよね!?



「とりあえずどこでコレを発見したか教えてもらおうか」



 ガブリエルが男性の首根っこを掴んで無理矢理立たせる。

 啜り泣きながらヨロヨロと家の外に歩き出し、村の端まで移動すると鬱蒼と木が生い茂る山を指した。



「この方向を暫く進むと崖があるんだが、その手前の急な坂を滑り落ちた時に窪みの陰になっている小さな洞窟を見つけたんだ、その中にその赤い石が落ちていて…宝石だったら金になると思って持って帰ろうとしたら石が光って洞窟の奥から赤い石のついた犬が出て来て…」



「ハハ~ン、それで近寄るなと言って言う事を聞く事に気付いた…ってところかな?」



 オドオドとしながらも説明する男性にガブリエルが口を挟んだ。



「そうだ…、ヘラルドを脅かす前にどこまで言う事を聞くか試そうとして…、そしたら次の日に犬達が血塗れの金袋を咥えて持って来たんだ。そしてその時は金が手に入った事が嬉しかったが段々怖くなってきて…。だけどヘラルドがウルスカに行く日にアウロラと楽しそうに話してるのを見て襲わせる事を決めたんだ。だけど村に物資は必要だから帰り道に襲わせようとしたら石が光らなくなって犬達も戻って来なくて…」



 どうやらアウロラというのが想い人らしい。

 何とも自分勝手でクズな男の様だ、声を掛ける勇気も無いくせに勝手に嫉妬して欲に負けて関係無い人まで殺したって事をわかっているのだろうか。



「ふぅん、じゃあ私はちょっと今からその洞窟とやらを見てくるよ。その男の事は任せたよ」



 ガブリエルは魔法で灯りを出すと山へと入って行く。



「えっ!? 魔導具さえ手に入れば俺に興味は無いって…」



「ん? あぁ、君に興味なんて無いよ、ね」



 ニヤリと意地の悪い笑みを見せるとサッサと山に入って行った。

 リカルドは呆然とする男性の腕を掴んで村長の所へ連れて行き、洞窟の場所以外を話して拘束させた。



「村に宿は無いから村の広場で野営する事にしよう、トイレは村長の家のものを使っていいそうだ。ガブリエルは放っておいても大丈夫だろう」



 この村には村長の家にすらお風呂は無いらしい、テントを出して夕食を食べようとしたらガブリエルが戻って来た。



「あら、随分早いお帰りじゃない?」



「ふふふ、これでもエルフだからね、山中を移動するのに手間取ったりはしないのさ。洞窟も唯の洞窟で特に調べる場所も無かったからすぐ戻って来たし」



 ビビアナの問いにドヤ顔で食事を始めるガブリエル、とりあえず一件落着かな?

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