第57話 野犬騒動の結末

「あの洞窟には制御装置と犬だけ隠されてたみたいだね、制御装置の魔法陣見る限り私が産まれる前のものみたいだし。誰が隠したか知らないけど封印と隠蔽魔法で隠されていたけど何かの拍子に隠蔽魔法が解けたんだろうね、それで制御装置にあの男が触れたから犬達の封印も解けたんだと思うよ」



 夕食時、いつもより早口にガブリエルが説明してくれた、きっと研究所の人達もこんな風に興味のある事には饒舌になってるんだろうな。



「はぁ…、ちょっとだけ遺跡があるのかと期待したのにちがったのかぁ」



 サイコロステーキにフォークを突き刺しながらエリアスがため息を吐いた。



「ふふ、遺跡があれば一攫千金のチャンスだったのに残念だったわね」



「遺跡の発見ってそんなに儲かるものなの?」



「そうよ、もしまだ使える魔導具なんてあったら場合によっては一生遊んで暮らせるわよ~」



「どうせビビアナはどれだけ儲けても冒険者辞めねぇんだろ?」



「当たり前よ、だって楽しいもの!」



「確かに…、俺もたとえ一生分の金を稼いだとしても冒険者を続ける気がするな」



「あ~…、考えてみたら僕もそうかも…」



「あれ? ホセは?」



 同意しないホセに話をふる。



「あ? オレはその時考えるさ、一回引退しても復帰しちゃダメだなんて決まりもねぇんだしよ。そう言うアイルはどうなんだ?」



「う~ん、冒険者もいいけど小さなお店するのもいいかも…。でも希望エスペランサが解散しない限り冒険者続ける気がするな、だって皆と冒険するの楽しいもん」



「んもぅ、アイルったら可愛い事言うんだから~!」



 ビビアナが抱き締めながら頬擦りしてきた、私もギュッと抱き締め返しているとガブリエルがジトリした目でこちらを見ていた。



「ふぅ…、君達は仲がいいんだね。いいなぁ、私も研究所の皆と君達の半分でも仲良く出来たらいいのに…」



「仲良くなりたいなら相手のテンションに合わせなきゃダメだよ? 落ち着いてる人にいつもみたいに無駄に高いテンションでグイグイ行ったら引かれるに決まってるんだから」



「ッ!?」



 ガブリエルが目から鱗が落ちたと言わんばかりに目を見開いた。

 嘘でしょ、そんな初歩的な事気付かなかったの!?



「素の自分で話すなら仲良くなってからジワジワと慣らしていけばいいんじゃない?」



「な、なるほど…」



 ガブリエルは呆然と呟きながらもスティックサラダの大根にたっぷりマヨネーズをつけて口に入れた。



「無駄に高いテンションとか貶されてるのは良いのかしら…?」



 ビビアナの小さな呟きはガブリエルの耳に届かなかった様だ。

 翌朝、村長の家に犯人を引き取りに行くと人集りが出来ていた、村長に話を聞くと犯人が夜中に逃走して居なくなっていたらしい。

 そして当然の様に一連の野犬騒ぎの犯人が誰かという事は村中に広まっていた。



 ガブリエルが探索魔法で探すと洞窟近くの崖から落ちて亡くなっているとの事、村人が確認したら逃走中に足を滑らせたんだろうと言っていた。

 役所に遺体を引き渡す訳にもいかず、両親も亡くなって身寄りが無い為、埋葬は村で行ってもらう。



 ヘラルドには自分が狙われていた事を知ったらショックを受けると思われるので、その事は本人に知らせない事になった。

 実はその事は村長にも話していない、片想いされていたアウロラという女性も噂になったら可哀想だし。

 魔導具は回収出来たし、犯人死亡という結果で私達は村を後にした。



「村長が怪しいよねぇ」



「村から凶悪犯罪者が出て、しかもまだ生きてるとなったら更に評判が落ちるだろうからな」



「んん? 何の話?」



 村を出て昼食の為に休憩している時に突然ガブリエルが口を開き、リカルドも頷きながら答えている。

 いきなり始まった会話についていけずに首を傾げた。



「今回の事件、犯人が役所に連行されたら色々話題になるだろうからな。だけどもう犯人は死んでるってなったら既に解決したって事で皆大して興味も持たねぇだろ? だから村の評判を気にして村長辺りが犯人を連れ出して殺したんじゃないかって言ってるんだ」



「そうねぇ、報告してた村人もグルじゃないかしら? 突き落としたのを足を滑らせたって言ってる…とか?」



 寒村の闇を見てしまった気がする、ブルッと身体を震わせ少し温くなったお茶に口をつける。

 帰りの道中は時々現れた食料としてカテゴライズされる(一般人には脅威)魔物を討伐しつつ無事にウルスカへと帰った。



 ギルド長室で報告して報酬を受け取る、魔導具も無傷で手に入った事で報酬は金貨2枚という倍額に跳ね上がった。

 そして今回の事で報酬以外で得をしたのは魔導具を握ったままニコニコしているガブリエルだけだろう。

 4日程一緒に過ごしたがガブリエルのテンションについて行けずに皆結構疲れた顔をしている。



「まぁ…、コイツの相手も含めてご苦労だったな」



「……ああ、だが今後そう関わる事も無いだろからな」



 ため息を吐きながら答えるリカルドをディエゴは気不味そうにチラリと見た、とても嫌な予感がする。



「それが…なぁ、いや、今すぐじゃねぇんだ! だが今までのパターンから恐らく王都への呼び出しがあると思う、ガブリエルとその魔導具を一緒に今回関わったお前らが護衛してって条件で…な」



 王都までは交易都市トレラーガを経由して2週間以上かかる、冒険者でもない王立研究所の所長という肩書きを持つガブリエルを公的に呼び出すと言う事で経費は王立研究所持ちで出来るだけ宿屋に泊まりながら向かうという。

 そうなると移動時間が限られ、結果的に王都まで掛かる日数は約1か月…らしい。

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