第126話 公爵家の護衛(16日目・タリファス)

「到着したようですね」



 船の揺れが小さくなり、廊下がザワザワと騒がしくなってきたのに気付いてカルロが言った。

 私達は午前中は甲板に居たが、昼食の為に船室に戻ってからはそのまま部屋で過ごし、昼食は船内に食堂や販売している店があるものの、船が揺れても大丈夫な簡素な食事に加えて行列が出来ていたのでストレージから出して済ませた。



「船を降りればボルゴーニャ公爵領は隣の領ですから…もうアイルの料理が食べられないのは残念ですわ」



「そうだな、Aランク冒険者でなければ料理人として引き抜きたいところだ」



「そんな事言ったら公爵家の料理長が怒るか嘆くよ? それより2人共覚悟はいい?」



「ああ、必ず父上を説得してみせる」



「お父様は賢者アドルフを尊敬してますし、他に知られていない賢者の叡智と聞いたら飛びつくと思いますわ。寧ろ既にわたくし達が賢者の叡智を手に入れたと言いふらしているかもしれなくてよ、うふふ」



 フェリスは笑うとクロードと手を取り合って頷いた、この年齢でこんなに仲良しって凄い事だと思う。



「準備が出来ましたので馬車に移動しましょう」



 カルロの言葉に馬車置き場に移動し乗り込んだ、馬達は慣れない揺れのせいか少し興奮していたが問題は無さそうだ。

 馬車や馬専用のステップが取り付けられ最初に私達が出て行く、やはり公爵家の紋章付きの馬車は優先される様だ。



 出る時も中の人数を確認されて下船すると、少し進んですぐに停車した。

 すると無駄によく通る大きな声が聞こえて来て、なにやらロレンソと遣り取りしている様だった。



「この声は騎士団長ですね」



「騎士団長?」



「ああ、公爵家に仕える騎士団の団長だ、彼の声は大きい上によく通るのだ」



 カルロの言葉に聞き返すと、クロードが説明してくれた。

 公爵家ともなると騎士団を抱えているのか、領地に居る私兵的なやつだろうか。



「クラウディオ様、フェリシア様! 騎士団長ナタリオ・デ・ムニョスがお迎えに上がりました!」



 ドア越しなのにうるさいくらい、クロードはカルロに目配せすると、カルロが馬車のドアを開けた。

 ドアの開く音に反応して跪いて頭を下げていた騎士団長が顔を上げ、その背後に5人の騎士達が跪いている。



 緑の髪に若草色の目をした30代半ばの筋肉育ててます、という風情の男だ。

 一緒に馬車に乗っているのが気に入らないのか、私を見て睨む、とまではいかないが威圧を込めた視線を向けて来たのでニッコリ微笑んでおいた。



 荒くれ冒険者に比べたら騎士の人達は気品があるというか、何しでかすかわからない雰囲気とは程遠いのでそんなに怖く無い。

 冒険者だと談笑しながらお酒飲んでたのに、次の瞬間にはたったひと言が原因で殴り合ってたりするから油断出来ないのだ。



「ご苦労、態々騎士団長が迎えに来てくれるとは思わなかった」



「公爵様がとても心配しておられましたので。今宵はこの街でお休み頂き、翌朝公爵領へと向かいます。既に宿の手配は済んでおりますのでそちらで夕食をどうぞ」



「ありがとう、では行こうか、案内してくれ」



「ハッ」



 騎士団長は一瞬瞠目したが、すぐに頭を下げてから立ち上がり、先導し始めた。

 何でさっき驚いたんだろう、もしかしてクロードが「ありがとう」って言ったから?



 宿屋に到着すると侍女らしき人達が待機していた、あれよあれよと言う間にクロードとフェリスは連れて行かれてすぐに戻って来たカルロから2人は部屋で夕食を摂るから私達は自由に宿の食堂で食べる様に言われた。

 各自手荷物を部屋に置いて食堂に集まると、ロレンソ達含め騎士団の騎士達が貸切り状態で居た。



 空いているテーブル席に着いて食事をしていたらロレンソと騎士団長のナタリオが近付いて来て、近くにあった椅子を掴んで同じテーブルに椅子を置いて座る。

 そしてナタリオがいきなり頭を下げた。



「すまぬ、其方らはここで報酬を受け取って明日からは自由にしてくれ」



「まぁ…、そうなるだろうなとは思っていた」



 リカルドがため息を吐きながら言った、他所者の冒険者を屋敷に入れたく無いからだろうかと首を傾げているとホセが口を開いた。



「オレだよ」



 ん? オレオレ詐欺? なわけないか。

 ホセはキョトンとする私の頭をワシワシと撫でながらため息を吐く。



「はぁ…、わかってねぇな? 言ってただろ、タリファスは獣人差別があるって。オレが居るから屋敷に来て欲しくないんだろ」



「あっ、な~るほど、じゃあホセのお陰で面倒回避出来るって訳か! ホセに感謝だね」



 そう言ってハムッとチキンステーキを口に入れた、あれ、何か周りが静か…?

 周りを見ると驚いた顔で皆が私を見ていた、そしてナタリオ以外が一斉に笑い出す。



「ははは、流石アイルだな、公爵家に行く事が面倒とは」



「普通は気に入られて後ろ盾になって貰おうとしたり、報酬上乗せの為に会おうとするものなんだよ?」



「ははっ、そういやアイルは王様や王子様達に会っても全然喜んで無かったもんな、普通の女ならスゲェ喜ぶところだぜ?」



「うふふ、そこがアイルの良いところなんじゃない」



「クラウディオ様達に対する態度からして只者じゃないとは思っていたが…これ程とは…クククッ」



 だってガブリエルのお屋敷より格式高いならマナーとかも煩そうなんだもん、それに偉そうな貴族とか多そうだし面倒でしょ。

 笑われつつも知らんぷりして食事を続けた。

 


「ふ…っ、ふははは! 思っていたより其方らは大物だった様だな、寧ろ公爵様に会う様に進言したいくらいだ。特にアイルと言ったか? まだ幼いのに私の威圧にも飄々としておったし、将来は間違いなく大物になるであろう」



「それはどうも」



 あ、やっぱりあの時威圧されてたんだ、だけどまた幼いって思われてるよ。

 2度と会わないだろうからいちいち訂正するのはやめておこう、何か名前からして貴族みたいだし機嫌損ねたら面倒そうだもんね。



 結局食後に上乗せ分の報酬を多めに受け取り(最初に提示された分はギルドに戻ってから受け取る)、明日の朝に宿で解散という事になった。

 食堂では護衛を入れ替わった半数の騎士達が向かい合わせで肘を引っ掛けジョッキを傾けている姿を見ていたら、ホセに首根っこ掴まれて部屋に連行された。

 ちょっと混ざりたいとは思ったけど、ちゃんと我慢できるもん!

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