第125話 公爵家の護衛(16日目・船上)
「この船に乗るの?」
「そうだ、私達はこのまま馬車で乗り込めるから乗り込む時に人数の確認だけされて中まで入れるぞ」
遊覧船フェリーサイズの船に数台の馬車が列を作って乗り込んで行く、船の手摺りの一部が取り外し可能で、そこにタラップが設置されて乗り込む様だ。
タラップの手前で外の皆は馬を降りて手綱を引いている、そして乗船券を見せて係員が窓から馬車内の人数を確認するとクロードの言う通り馬車に乗ったまま船に乗り込んだ。
船に乗り込んでから馬車が止まるとカルロが先にドアを開けて降り、ドアを固定して私達が降りるのを待っている。
馬は馬車から外され船内の厩舎に移動し、車体は御者が車輪を固定する道具を取り付けた。
「へぇ、船内にこんなところがあるんだね」
「大きな船にしかこの様な馬車や馬を載せる場所は無いがな。行こう、ロレンソが個室をとってあるはずだ」
「はい、今回は人数が増えたので大きめの部屋をとっておきました。参りましょう」
ロレンソが先導してくれるのでそれについて行く。
「船ってもっと揺れるかと思ってたけどそうでもねぇな」
「まだ出航して無いし、ここは内海だからじゃない? ちょっと湾になってるから外洋に出たらもっと揺れるはずだよ」
「その通り、詳しいじゃないかアイル、船に乗った事があるのか?」
移動しながらホセの呟きに答えるとリカルドが反応した。
船は数年に1度家族旅行をしていたから屋形船から寝台のある大きなフェリーまで色々乗った事がある。
「まぁね、これでも島国育ちだから」
「まぁ! アイルは珍しい顔立ちだとは思っていたけれど、この辺りの大陸出身じゃなかったのね。何と言う国なのかしら?」
ドヤ顔で言った途端フェリスが話題に喰い付いて振り返った、フェリスはクロードと話しながら歩いていたのでまさかこっちの話を聞いているとは思わず油断していた。
もしかしたら賢者サブローがこっちで日本って国名を言っていたらアウトだ、唸れ私の脳細胞!!
…………あっ。
「もうどうやって帰ったらいいかもわからない国だから知られて無い国だと思うよ、ハポンって言うんだけど」
「ハポン? 聞いた事無い国ね、お兄様は知っていて?」
やめて! 話を広げないで!
英語だと賢者ソフィアが居たし、賢者同士で話した時にジャパンって言ってたら…と思ってスペイン語の日本にしてみた。
ドイツ語で日本って何て言うか知らないけどハポンじゃないと思う、テレビで日本人の子孫がハポンという姓だというのを観たのを思い出したのだ。
「う~ん…、私も知らないな。交易出来ない遠い国だと地図にも乗っていないだろうし、発見されていない国があっても不思議じゃないからな。御伽噺みたいにドラゴンに乗って空を移動できるのならともかく、世界の全てを見るのは難しいからな」
「もしかしてドラゴンは昔実在してたの!?」
「ははっ、居たと言われているだけで証拠はどこにも無いからな。どうせ大きなワイバーンを見間違えて大袈裟に伝わったんだというのが有力説だな」
「そ、そうなんだ…」
クロードに「大きくなったら勇者になる!」と言っている子供を見る様な目を向けられてしまった。
そうか、実在しないのか、ちょっと安心でちょっと残念。
「ここが我々の客室です」
ロレンソが歩みを止めてドアを開けたそこは十畳程の広さにテーブルとソファ、壁際にベンチの様な椅子があるだけの簡素な部屋だった。
窓はあるけど小さな丸い窓が3つあるだけなので、部屋には魔導具で灯りが点いている。
先にクロードとフェリスが座り、カルロがお茶の準備を始めたので各々ソファや椅子に座ると足元がさっきより揺れている事に気付いた。
「どうやら出港したみたいだね」
「ここを任せて良いなら甲板に出ていいかしら? あたし船って初めてだから海を眺めたいわ」
エリアスの言葉にビビアナがソワソワしながら言った、タリファスまで10時間くらいかかるらしいので私と船初めてなホセも一緒に甲板に出る事にした。
そして30分後、船が外洋に出た今私は手摺り越しに魚達に餌を撒き散らしているビビアナの背中をさすっている。
「うぇぇ…、馬車や馬だと平気なのに何で…!?」
「う~ん、揺れ方が違うからかな? 遠くの動かない物見たり仰向けに寝てたらかなりマシだと思うよ」
「もう船室に戻って転がってりゃいいんじゃねぇ?」
確か足に酔い止めのツボがあった様な…、それより酔うのは三半規管が原因だから身体強化を掛けて何とかならないかなぁ。
「ビビアナ、ちょっと試してみたい事があるんだけどいいかな……ビビアナの身体の一部に身体強化掛けたら治ると思うの(ヒソヒソ)」
鞄から出すフリでストレージからコップと水袋を出して口を濯ぐ為にビビアナに渡しながらコッソリ囁く。
「じゃあオレは人が来ないか見ておいてやるよ」
ホセの耳には囁きが聞こえたらしく、見張りを買って出てくれた。
さっき吐きたいとビビアナが言った時点で人目につきにくい場所に移動していて良かった、口を濯ぎ終わったビビアナの耳の後ろを両手で挟む様に触れる。
「『
「うぅ…、あれ…? 凄い、気持ち悪く無くなったわ」
「良かった、人に強化魔法掛けるのは初めてだったからドキドキしちゃった」
「凄いわアイル、ありがとう!」
「えへへ、どういたしまして」
喜んだビビアナに抱き締められ、久々にマシュマロ乳に埋もれた。
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