第515話 命名

 マザーとシスターイレネにお茶を渡した後、セシリオにも渡すと一気にあおった。

 出産に数時間かかっているから喉が渇いているだろうと思ってぬるめにしておいてよかった、じゃなきゃ火傷やけどしちゃうところだったよ。



 んくんく、と小さな手をビビアナの胸に添えて母乳を飲む赤ちゃん。

 途中で左右を変えて飲ませているが、あまり母乳が出ていないようだ、まだ産んだばかりだから当然なんだけど。



 赤ちゃんは2、3日分のお弁当を持って生まれてくるっていうもんね、それまでに必要な分の母乳が出れば問題無い。

 そう、途中で左右を変えるという事は、バッチリ胸が見えちゃってる訳で……。



 セシリオもそれに気付いてホセとビビアナを見比べて動揺しているようだ。

 しかし、ビビアナとホセ……マザーとシスターイレネも全く気にしていない。

 気にしているのは私とセシリオだけ!?



「うふふ、もう疲れたのかしら、今回はここまでね」



 マザーが寝そうになっている赤ちゃんを抱き上げると、ビビアナが胸を仕舞って服を整える。

 背中を撫で上げられた赤ちゃんは、けぷっと可愛いゲップをしてスヤスヤと眠ってしまった。

 ゲップさせないと吐いちゃうもんね。



「ところでコイツの名前はもう決まってんのか?」



 ホセがマザーに抱かれている赤ちゃんを親指で差してビビアナに聞いた。



「セシリオがいいって言ってくれるなら、マザーに名付け親になって欲しいと思ってるんだけど……」



 ビビアナはチラリと上目遣いでセシリオを見た。



「もちろんいいさ。俺からもお願いします」



 セシリオは凄く優しい笑顔で頷き、マザーにお願いした。



「あらあら、嬉しいお願いだわ。うふふ、そうねぇ……元気な子に育つように、アリリオという名前はどうかしら? セシリオとも名前の繋がりがあるでしょう?」



 アッサリと名前が決定した。アリリオかぁ、うん、いい名前だね!

 そう思っていたら、ホセが鼻で笑った。



「へっ、さてはマザー、前から名前考えていただろ。じゃなきゃこんなすぐに思い付くはずねぇもんな?」



「あら、バレちゃったわね。いいじゃない、新たな命の名前を考えるのは年寄りの楽しみのひとつよ」



 そう言ってマザーは茶目っ気たっぷりに微笑んだ。



「マザー、ありがとう。アリリオ、素敵な名前付けてもらえてよかったわね」



「本当に、素晴らしい名前をありがとうございます」



 ビビアナとセシリオはお礼を言うと、二人で微笑み合った。

 アリリオも寝ちゃったので、次に私がする事は決まっている。



「私、皆に名前教えてくるね!」



 そう告げてホセより先に寝室を飛び出し、皆がいるリビングへと走った。

 寝室から引き止めるようなホセの声が聞こえたけど、私が報告するのだ、ふはははは。

 階段を駆け下りてリビングに飛び込んだ。



「聞いて~! 赤ちゃんの名前決まったよ! マザーが付けたんだけど、アリリオっていうの」



「ほぅ、いい名前を付けてもらったな。もうビビアナも落ち着いたか?」



 おじいちゃんがお茶をテーブルに置いた、様子を見に行きたいんだろうか。



「うん、さっき授乳が終わってアリリオが寝たところだよ」



「そうか、寝てしまったか……」



 ちょっと残念そうだ。やっぱり様子を見に行きたかったらしい。

 しょうがない、おいじいちゃんのためにひと肌脱ぐか。



「『幻影イリュージョン』……おじいちゃん、今は私で我慢してね」



「「「「…………」」」」



 皆が無言になってしまった。幻影魔法で三歳の頃の姿になったんだけど、さすがに赤ちゃんの代わりにはならなかったか。

 そう思ったが、おじいちゃんの尻尾がブンブンと動いている事に気付いた。



「アイル、ここへおいで」



 おいじいちゃんはそう言って自分の膝をポンポンと叩いた。

 見た目とか、触った時の感触は魔法で誤魔化されるけど、重さはさすがにそのままだからちょっと躊躇ためらってしまう。



「体重は元のままだからね?」



「ははは、アイルは軽いから気にする必要はないぞ」



 両手を広げて待っているのでおじいちゃんの膝の上にちょこんと座ると、ギュッと抱き締められて頭に頬擦りする感触が。

 兎のパジャマ着た時以来のマーキングっぷりかもしれない。



 心なしか他の三人もソワソワしているように見えるのは気のせい?

 リカルド達も子供好きなんだろうか。



「アイルの小さい時ってそんな感じなんだね、瞳が黒くて大きいせいかな? 凄く可愛いくてびっくりだよ」



 エリアスの言葉に皆が頷いている、こんなに見た目を褒められたのは王都でガブリエルと夜会に行った時以来じゃない!?

 ジッと見られて照れてしまう。



「えへへ、ありがとう。それにしても皆がこんなに子供好きだとは知らなかったよ」



「子供好きというより、アイルが子供を産んだらこんな子が生まれるのかなぁって思った」「おい、アイ…………」



 エンリケが話している途中でホセがリビングに入ってきて、そのまま固まってしまった。



「ホセ?」



「……ハッ! お前アイルだよな!? なんでそんなちっこくなってんだ!?」



 声をかけると我に返ったらしく、おじいちゃんと同じように尻尾を振りながら顔を覗き込んできた。

 孤児院育ちでいつも子供達の相手をしていたホセが子供好きなのは知っていたけど、ここまで嬉しそうにするとは思わなかったよ。



「アリリオが寝ちゃったから、おじいちゃんがガッカリしたの。だから代わりに私が幻影魔法で子供になってみたんだけど、まさか皆こんなに嬉しそうにするとは思わなかったよ」



「なるほど、幻影魔法か。だったらよ、じいさんみたいな耳と尻尾もあればもっと喜ぶんじゃねぇ?」



 そんなホセの提案に振り返ると、おじいちゃんの尻尾の速度が上がっていた。

 期待の籠った目で私を見るおじいちゃん。

 こんなの断れるはずないじゃない!



◇◇◇


更新がすごく空いてしまって申し訳ないです。

:( ;´꒳`;)

ここ数日は少々忙しくしておりました。


そして久々の更新と共にお知らせです。

2巻の発売日が決定しました!!

4月10日(月)です。

詳しくは近況ノートを更新しますので!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る