第514話 赤ちゃんとご対面

 ビビアナはまだ後産あとざんが残っているからという事で、私達は寝室に入れてもらえなかったけど、赤ちゃんは遅れてやって来たシスターイレネが見せに出て来てくれた。

 ビビアナと同じ赤い髪で、赤ちゃんなのに凄く整った顔だとわかるから顔もビビアナ似だろうか。



「うわぁぁ……、ちっちゃ~い! 可愛いね~」



 思わず手を組んで祈りのポーズのようにしてしまう、だって、触ったら壊れてしまいそうなんだもん。

 私の声に反応したように、赤ちゃんがパチリと目を開けた。その瞳はセシリオと同じ温かみのあるオレンジ色だ。



「はじめまして、アイルだよ~。ほーら、こっちはホセおじちゃんだぞ~」



 私の頭上から覗き込んでいたホセの事も紹介してあげた。



「あぁ!? 何勝手におじちゃんとか言ってんだよ、アイルお・ば・さ・ん」



「ムッ! だってホセはビビアナの弟でしょ、だったらおじちゃんでいいじゃない! 私はお姉ちゃんって呼ばれるもんね!」



「ん~……ホァァ、ホァァ」



 私とホセが言い合っていたら赤ちゃんが泣きだしてしまった。

 声帯が出来上がっていない新生児独特の泣き声が可愛い。



「まったく……赤ん坊の前で喧嘩するんじゃない。二人共しばらく離れていろ」



 あきれ顔のリカルドに首根っこを掴まれて、私とホセは赤ちゃんから引き離されてしまった。



「あぁ~ん、そんな殺生な」



 まだ近くで赤ちゃんを見ていたくて抵抗したが、すでに他の四人により壁ができて見えなくなってしまった。

 シスターイレネはクスクス笑っていて、リカルドを諫めてくれる気はないようだ。



「こんな産まれたての赤ん坊を見るのは末の孫以来だな……。ビビアナに似ているが男の子か」



「ええ、男の子です。こんなに可愛ければもう少し大きくなったら女の子と間違われてしまいそうですよねぇ」



 どうやらシスターイレネは親バカというか、孫馬鹿状態らしい。とろけるような笑顔を浮かべている、気持ちはわかるけど。

 皆が口々に赤ちゃんの感想を言っている間、どうにか赤ちゃんを見ようと皆の周りをウロウロするが、どうやっても皆の背中しか見えない。

 そんな私を横目に、ホセは隙間から覗いてシスターイレネと同じようにとろけるような微笑みを浮かべている。



「ホセだけ背が高いからってずるいよ! 私だって見たいのに!」



 四人と違ってホセは一歩離れているので、飛びついても赤ちゃんにぶつかったりしないだろうと判断してピョイとホセの背中に飛びついてよじ登る。

 支えてはくれないけど、おんぶされている状態になったのでなんとか赤ちゃんの顔が見れた。



「やっぱり可愛いねぇ」



「お前なぁ……」 



「ふふっ、アイルったら」



 呆れたホセの声と、上品に笑うシスターイレネ。

 しかしやっと見られたというのに、赤ちゃんがグズり出してしまったのでシスターイレネは寝室へと戻ってしまった。



「ああ……、行っちゃった」



 ホセの背中にくっついたままドアを眺めてポツリと呟く。



「そんなに焦らなくても後でいくらでも見られるのに、そんなに我慢できなかったの?」



 そう言いながらエンリケが私をホセの背中から剥がして床に下した。



「だって、子供を産んだ事のある友達が前に言ってたんだよ。『赤ちゃんは産まれた直後の二時間くらい覚醒状態だから、その間に親の声とか聞かせておくと覚えてくれるから声をかけた方がいい』って。母親教室で教えてもらったんだって」



「へぇ、アイルの世界は賢者がたくさんいるんだねぇ。それにしてもどうやって調べたんだろう」



 エリアスが感心したように呟いた。



「たぶん脳波とか調べたんだろうけど、脳波って言ってもわからないよねぇ? 電気信号……もひと言じゃあ説明が難しいから……なんか専門家が色々魔導具みたいなの使って長年研究して調べたんだよ、たぶん」



「わかったようなわからないような……」



「詳しく知りたいなら、私がわかる範囲でじっくり教えるけど?」



「そうだね、その内機会があれば……」



 そう言いながらも目を逸らすエリアス。うん、その機会とやらは来そうにないね!

 しばらくは誰も出て来なさそうだったので、リビングに移動して皆でお茶を飲む事にした。



「赤ちゃんの名前はもう決めたのかなぁ。早く名前で呼びたいな~。……あっ、マザー達にもお茶を持って行かないと! ちょっと二階に行ってくるね!」



 木製のカップにお茶を注いで四人分をストレージに収納し、そそくさとリビングを出る。



「ちょっと待て、オレも行く。一人で行かせたら戻って来ねぇだろ」



 ホセに言われてギクリとした。

 そりゃ少しは赤ちゃんの顔をまた見ようとは思ったけど、本当にマザー達にお茶を持って行くのが目的だし。



「ち、違うよ、手伝う事がなかったらちゃんとすぐ出て来るもん」



 すぐ出て来るって言ったのに、ホセは私の後をついて来た。

 どれだけ信用されてないんだ、私。

 主寝室のドアをノックして、ドア越しに声をかける。



「マザー、アイルとホセです。皆のお茶を持って来ました」



『二人共入っていいわよ』



 数秒後にビビアナの声が聞こえた、どうやら後産も済んで無事に処置が終わったようだ。

 赤ちゃんを驚かさないようにそっとドアを開けると、ビビアナが授乳していた。



「うわぁ、もうちゃんと吸えているなんてえらいね~」



 ビビアナの授乳シーンに思わず感動していたが、ホセが見る事に対してビビアナは気にしないだろうけど、セシリオ的には複雑なのでは……とセシリオを見た。

 あ、問題無いね。だって赤ちゃんとビビアナしか目に入ってないもん。

 私は目尻の垂れ下がったセシリオは後回しにして、マザーとシスターイレネにお茶を手渡した。

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