第355話 アイルが忘れた2次会

「くぅ…っ、やっぱりビールとはくらべものにならないねぇ…。ふふふふふ、ねっくれすをつけられずのめるしあわしぇ…」



 アイルはウィスキーのロックを煽り、グラスをテーブルに置くと大きな氷が溶けてパキリと音を立てた。



「ははは、余程普段ネックレスで正気に戻されるのがこたえている様だな」



 酒のたしなみ方を知っているブラウリオは騎士であった事もあり、酒に飲まれるという事は無い。

 今リビングに居る面々は、アイル以外パーティーでしっかり飲んだ後なのでゆっくり酒を楽しむ状態である。



「それにしてもビビアナきれいだったねぇ…」



「あはは、そのセリフ何度目? 綺麗だった事は間違いないけどさ、そういえばホセがビビアナに向かって綺麗だって言ったの初めて聞いたかも」



 ほんのりと頬に朱が刺したエリアスがナッツをポリポリと食べながら言った。



「わたしきいてない! それはろくおんのまどうぐかりてろくおんしておくべきセリフだよ…! ぬぅ…、いつのまにいったのぉ~!? くやしいから…もぉいっぱいのもう…」



「アイルが居ないのを確認して言っていたからな、聞かれたら揶揄われると思ったんだろう」



 おかわりに口をつけていたアイルは、リカルドの放った衝撃の事実にアイルは下唇を噛み締めた。



「しょんな…! ひろい…っ!!(そんな…! 酷い!!)」



 隣に座っていたブラウリオの膝の上にダイブする様に倒れ伏すアイル、ブラウリオは笑いながらなだめる様に頭を優しく撫でた。



「じゃあアイルは揶揄うつもりが無かったんだね?」



 頭を撫でられるのが心地良いのか、動かなくなったアイルにエンリケが声を掛ける。

 アイルはガバッと起き上がり、とろんとした目のままキリッとした表情を作った。



「しょんなの…、ビビアナとホシェがしょろってるところでなんかいもいうにきまってるじゃない…! いわないというせんたくしがあろうか、いや、ない!! (そんなの、ビビアナとホセが揃ってるところで何回も言うに決まってるじゃない! 言わないという選択肢があろうか、いや、無い!!)にゃはははは」



「「「「…………」」」」



「ホセはアイルの性格をよくわかってるからアイルの前で言わなかったんだな、ククッ。あまり私の孫を虐めてくれるなよ?」



「ちがうよおじいちゃん、わらしがいちゅもホシェにじめられてるんらよ…。しょっちゅうあたまをちゅかんでギュ~ってしゅるし、いっかいココかまれたからいたくてないたんらよ!(違うよおじいちゃん、私がいつもホセに虐められてるんだよ。しょっちゅう頭を掴んでギュ~ってするし、1回ココ噛まれて痛くて泣いたんだよ!)」



 アイルはプリプリと怒りながら自分のうなじをパンパンと叩いた。



「は? そこを…ホセが噛んだのか…!?」



「しょうらよ~、なくくらいいたかったんらからね! よっぱらいれもやっていいこととわるいことがあるれしょ!? こんやおじいちゃんとねたらいやしゃれるんらけろぉ~(そうだよ、泣くくらい痛かったんだからね! 酔っ払いでもやって良い事と悪い事があるでしょ!? こんやおじいちゃんと寝たら癒されるんだけど)」



 ホセがアイルのを噛んだという事実に固まってしまったブラウリオに気付かず、アイルは共寝のおねだりをしている。

 当然獣化したブラウリオという意味だが女神の影響で色気がアップした今では、腕を絡めて上目遣いでおねだりする姿はねやに誘う娼婦そのものに見える。



「何かもう見ちゃいけないモノをまた見せられてる気分だよねぇ…」



 半笑いで呟いたエリアスをブラウリオが見る、その目はアイルが言っている事の真偽しんぎの確認をしたいと訴えていた。



「アイルの言ってる事は本当だよ~、凄く酔っ払ってる状態でベッドの上で押さえつけてカブっとね! アイルは痛いってシクシク泣き出しちゃってさぁ」



「ちょっと、エリアス!」



 様子のおかしいブラウリオに気付いたエンリケがエリアスの脇腹を肘で突いた。



「何と…、ホセがそんな無体な事をしたとは…! 安心しなさいアイル、私がしっかりホセに責任を取らせよう。私が一緒に寝て癒されるのならばいくらでも一緒に寝てやるからな」



「ほんとぉ!? わぁい、うれし~! おじいちゃんだぁいしゅき~!(本当!? わぁい、おじいちゃん大好き~!)」



「あ~あ、知られちゃったね。どうするのエリアス、このままだとホセは責任取らされてアイルと結婚する事になっちゃうよ」



 エンリケがジト目をエリアスに向けた。



「まさかぁ、いくら歯型は恋人につけるものだからってそれは無いでしょう? ねぇ、おじいちゃん」



「ホセはアイルを傷モノにしたも同然の事をしたわけだからな、責任を取らせるのが筋というものだろう」



「「えぇっ!?」」



 ブラウリオの言葉に驚くリカルドとエリアス、肩をすくめてヤレヤレとため息を吐くエンリケをよそに、ブラウリオは可哀想な子を慰める様にアイルの頭を撫でている。



「アイル、アイルはホセや私が好きか?」



 酔ってぼんやりしているアイルにブラウリオは優しく話しかけた。

 その耳はわずかに伏せられている、それに気付いたアイルはハッキリしない頭でブラウリオを喜ばせないとと考え口を開く。



「しゅき! らいしゅきらよ!(好き! 大好きだよ!)」



 ギュッとブラウリオの腕に抱きついて二の腕にグリグリと頬擦りした。



「そうかそうか、それなら問題無いな! さて、眠そうな顔をしているから部屋に戻るか? 片付けは明日の朝で良いだろう?」



「うん! おじいちゃんいっしょにねよーね~(おじいちゃん一緒に寝ようね)」



 ブラウリオのケモ耳がピンと立ったのを見て嬉しくなったアイルは機嫌良く返事して立ち上がった。

 当然酔っ払いのアイルの足元は覚束おぼつかない。



「私が抱いてってやろう、ほら、おいで」



「わぁい」



 お姫様抱っこされ上機嫌でブラウリオの首にしがみつくアイル。



「先に休ませてもらうぞ、おやすみ」



「おやしゅみぃ(おやすみ)」



 呆然としている3人を置いて、ブラウリオはアイルを連れてアイルの寝室へと向かった。



「どうするんだ…」



 2人が消えたドアを見つめながら呟かれたリカルドの言葉に、エリアスとエンリケは何も答えられなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る