第298話 困った患者
怒鳴り声が聞こえた後も気にせず患者を治癒していたが、うるさい…あまりにもうるさいのである。
声変わりが終わったばかりの様な声でずっと怒鳴り続けているのでイライラしてきた。
「ちょっとだけ行ってくるね」
廊下に出て声の聞こえる部屋を囲む様に遮断魔法で音が漏れない様にしてすぐに治療を再開する。
「静かになったけど、治療してあげたの?」
「まさか、うるさいから音が漏れない様にしただけだよ、あんなに元気に怒鳴ってるんだから大した怪我じゃないだろうし」
エンリケの質問に笑顔で答えると周りからクスクスと笑いが漏れた、きっと皆もうるさかったからだろう。
とりあえず無料で治療を受ける人達は全員治した、幸い四肢欠損の様な大怪我の患者は少なかったので魔力もまだ余裕がある。
「さっきの子は多少大人しくなってるかな?」
1時間近くは経ってると思う、いい加減怒鳴り疲れてるだろうと魔法を解除した途端に遮断魔法を掛ける前と同じくらい怒鳴っていた。
こんなに元気そうなのに何でここに居るんだろう、そんな事を思っていたら治癒師の1人がノックをしてドアを開けた。
「やっと来たのか! 当然聖女は連れて来たんだろうな!? まさか…、その後ろのちんちくりんが聖女なのか!?」
普段の私ならカッとなって言い返すところだけど、今は色々計算しているのでそれどころでは無い。
1.5秒で計算を終わらせて口を開く。
「治して欲しくないならそれでもいいのよ? 怪我してる場所が場所だから獣化してくれる? 他の場所も不具合が無いか確認したいから」
「わかった…」
そう、患者は獣人だったのだ。
脚の付け根から太腿にかけて大きな傷があり、包帯から血が滲んでいるところを見るとポーションで治り切らなかったらしい。
年齢は私と同じか少し下くらいだろうか、渋々と返事すると獣化した、薄い色の狐の姿に緩みそうになる頬を引き締める。
ふ、ふふふふ、さっき嫌な思いさせられた分私を癒す義務というモノが発生するのは自然の摂理だよね。
幸いここにはうるさいホセも居ないし、エリアスも居ないから
「じゃあ確認するから脱がすね、包帯は…もう緩んでるか」
警戒しているのか耳がちょっと伏せられている、しかし気にせず患者用の貴族仕様なのか肌触りの良いシンプルな服を脱がせ、頭から順番に撫でていく。
冬毛が生え始めているのかマフっとした感触が…!
「うん(モフモフさわさわ)、他は大丈夫そうだね(モフモフなでなで)、脚の傷以外問題なさそう(モフモフこしょこしょ)『
サワサワと撫で回しながらそれっぽい事を言って治癒魔法を掛けた、四つ脚で立っていた狐獣人は段々上半身を
「ふぅ、満足…じゃない、治療は終わったから橋の向こうから来る患者さんの受け入れしてもらおうかな、エンリ……」
やり切った笑顔で振り返った私の目に映ったのは、聖騎士の格好をした人を背負ったまま青筋を浮かべて部屋の入り口に立つホセだった。
「怪我人運んで来てみりゃあよ、楽しそうだなぁ、オイ」
「ホ、ホセ…! ち、違うの! これはその…さっきイラっとさせられた分の…仕返しっていうか…ほら、メンタルケアって大事だし…」
「その割にはそいつスゲェ満足そうにしてるけどな?」
ホセはベッドの上を顎で示した、まだ獣化したままの狐獣人はクッタリとしたままぼんやりと宙を見つめている。
「まぁまぁ、ホセもヤキモチ焼いてないでその人治癒してもらったら?」
「誰がヤキモチ焼いたんだよ!」
エンリケが宥めようとしだが失敗した様だ、さりげなくホセとの間にエンリケを挟む様に移動しようとしたが、冷めた視線に射抜かれた。
「と、とりあえずその人治そうか! どこ怪我したの?」
「……ああ、多分左足首の骨にビビくらい入ってると思うぜ。威勢が良いからリカルドがアルフレドとやってる感覚で手合わせしたら…ってやつだ」
「
背負われた若い聖騎士はホセの背中で身を縮こまらせて言った、狐獣人は治癒師に任せて一般の治療をする部屋へと移動した。
椅子に座らせてズボンの裾を上げると見事に腫れ上がっている、鑑定するとなかなかのヒビが入っていた。
「『
「ありがとうございます。あの…実は私乳製品が苦手でして…」
聖騎士の青年は気まずそうに頭を掻いた。
「え~? じゃあ納豆…は多分無いから豆腐とか魚かな? 骨ごと食べられる小魚ならなお良いけど。あとは
ダイエットする時に栄養を効率良く摂る為に色々調べた事がここで役に立つとは…。
ちゃんと栄養摂らないとしっかり食べたとしても何だかお腹空いてる感覚に襲われるんだよね、結果的に高タンパク低カロリーな和食に行き着いたんだけど。
「聖…アイル様、選別された患者達を案内してもよろしいでしょうか?」
「はい、どうぞ。じゃあ私は治癒してくるね!」
呼びに来た治癒師のお陰で狐獣人をモフった事が
なお、狐獣人は来た時と違い、ぼんやりしつつも大量の寄付金を置いて大人しく帰って行ったそうだ。
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