第128話 シドニア男爵領へ

「はぁ…、せっかく1人で馬に乗れる様になったのに…」



「仕方ねぇだろ、ここまでアイルだけ馬車だったんだからよ」



 リカルドの実家へ向かう為、私はまたホセの前に乗せられていた。

 一頭だけタリファスの港町で借りようかという話も出たけど、ウルスカから連れて来ている馬達と相性が悪かったら面倒な事になるからと止めたのだ。



 リカルドの実家は港町を含めて治めている辺境伯領を抜けて小さな領地が纏まっている地方にあるらしい。

 馬を飛ばせば半日で到着するらしい、この領地以外は本当に小さな領地なんだろう。



「リカルドの実家ってここから何個目の領地なんだい? 半日だったら隣とか?」



「いや、隣ではないんだが…何個目というのは難しいな、あの辺は小領地がゴチャゴチャした石垣みたいな並びになってるんだ。だが通る領地は2つだな」



「2つもあるのに半日だなんて、本当に小さい領地が並んでいるのね」



「はは、それこそ村や町が1つしかない様な領地もあるからな」



「えぇ!? そんな規模じゃあ領地経営も何も無いんじゃない!? リカルドの実家の領地もそんな感じなの?」



「まぁ…、そんな感じだな。まだ領地を手離していなければの話だが…」



 途中にあった川沿いで馬を休ませる為に休憩をする事になった。

 そしてその間この辺りの特産品や名物を教えてもらっていたらやはりあった、アドルフがドイツ人という事で期待はしていたがあったのだ、バウムクーヘンが!! 



 ちなみに私はカステラはざらめがついてる方が好きだがバウムクーヘンは砂糖でコーティングされていない物の方が好きだ。

 しかし地域差を出す為にコーティングに凝っているところが多いらしい。



「ウチの領地は裕福ではないからコーティングはされていない素朴なやつしか無いけどな」



「それでいいんだよ! 何だかんだシンプルなのが長く愛されるんだと思うし!!」



「あ、ああ…、そういう考えもあるな」



 私の熱量にリカルドがちょっと引いている、しかし私は声を大にして言いたい。



「シンプルだからこそ誤魔化しがきかない分技術が磨かれていくのだと!」



「はいはい、わかったから落ち着け」



「………」



 うっかり声を大にして言ってしまったせいで驚いた馬達が嘶いている、ごめんよ。

 ホセに目すら合わせず受け流すトーンで言われて情熱が鎮火した私は大人しく座った。



「クックッ、次の休憩で昼食にしよう、このペースで移動すれば丁度この辺境伯領と隣の領地の境目くらいになるだろう。ウチの領地…シドニア男爵領に到着したらバウムクーヘンの店に寄り道しようか?」



 笑いながら提案してくれたリカルドに私は一片の悔いも無い覇王の如く拳を突き上げた。



「本当!? やったぁ! リカルド大好き! ……っていうか、リカルドの家名ってシドニアって言うんだね、初めて聞いた」



「ははっ、そうだろうな、恐らく冒険者になってから初めて口にしたと思うぞ。冒険者の俺はただのリカルドだし、家を飛び出した立場だから家名を名乗る資格は無いと思っているしな。今日は様子だけ見て町の宿に泊まる事になると思う」



「歓迎してくれる様ならリカルドだけ家に泊まれば良いんじゃない? 久々に家族水入らずで話したい事もあるでしょ? ねぇ皆?」



 そう言って3人を見ると皆頷いていた。



「だよね、今まで心配させたんだからちゃんと謝らなきゃ。でもリカルドが引き留められてもウルスカに連れて帰るからね?」



 そう言ってエリアスは悪戯っぽく笑った、そんなエリアスにホセがジト目を向ける。



「心配させた事はお前も人の事言えねぇだろうが、次はエリアスの実家に顔出しに行くか?」



「僕はたまに手紙と仕送りしてるよ? 居場所を知られない様に必ず出先の街からね」



「あら、居場所は教えてないのね。もうAランクなんだから連れ戻そうとはしないでしょ、今後は教えるの?」



「まさか! 逆にもっと仕送りしろとか押し掛けられても困るからね。そんな事になったら皆にも迷惑がかかるから今後も教える気は無いよ」



 言ってエリアスは肩を竦めた。

 私とホセとビビアナには関係無いが、家族も色々なタイプが居るので一概に会いに行こうとは言えない様だ。



「ああ、偶にエリアスが出先のギルドで手紙を受け取っていたのは家族からの手紙だったのか。てっきりその街に居る女からだと思っていた」



「やだなぁ、僕の事何だと思ってるのさ。これでも特定の女性に入れ込むのも執着されない様にするのも上手くなったんだから」



「ふーん、じゃあ前は特定の女性に入れ込んだり執着されたりしてたんだね?」



 ドヤ顔してたエリアスにジト目を向けつつ言うと、エリアスは言葉を詰まらせる。



「えっ!? ……っい、いや、そりゃ若い時は「さて、そろそろ出発しようか」



 焦って言い訳じみた事を口にしようとするエリアスを遮ってリカルドが出発を告げた。

 一見エリアスに助け舟を出した様に見えるが、付き合いが1番長い2人なだけに自分に飛び火する事を防いだと思うのは私の勘繰り過ぎだろうか。



 でもまぁ、早く出発したらそれだけ早くバウムクーヘンにありつける訳で…、途中で昼食や休憩を挟みながら夕方になる前にシドニア男爵領に到着した。

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