第303話 ビルデオのお酒事情

「じゃあ今夜の為にも地酒があるか確認して来ないと! 買い物するなら自分達の馬車を使うより辻馬車使った方が効率良いよね。お酒買ってから差し入れするお菓子買って孤児院を見に行こう、もちろん大きい所じゃなくて貧民街スラムにある様な小さい所に!」



 馬は預けちゃったし、またストレージから車体を取り出して馬を繋げてってしてたら買い物する時間が減っちゃう。

 私は今からの行動を皆に宣言した、全員で行く必要は無いから行きたい人だけ行けば良い。



「お前…、キャンプ場で裏路地に入るなって言われたんじゃねぇのか?」



 ホセが呆れた目を向けて来た。



「大丈夫だよ、ホセも行くでしょ? それに私はただの小さい子じゃないよ!? ……小さい…子…」



 自分で言った小さい子発言に軽く傷付く私。

 いや、私が言ったんじゃなくて、あのゴリラ獣人がそんな事を言ったから繰り返しただけなんだけど。

 落ち込んでうつむく私の頭をポスポスと優しく叩いてホセは立ち上がった。



「わかったわかった、ついてってやるから。お前らはどうする?」



「あたしは当然あんた達と一緒に行くわ、お酒の試飲もしたいしね、ふふっ」



「僕は酒屋までは一緒に行って別行動しようかな」



「俺はここのギルドに顔を出しておくつもりだ、ウルスカのギルマスにここに居る事を伝えておいた方が良いだろう。酒に関してはアイルの目利めききを信用してるしな」



「じゃあ俺もリカルドと一緒にギルドへ行こうかな、ここに来るのは80年ぶりくらいだから様子も変わってるだろうし」



 全員の予定が決まったので部屋の鍵をカウンターで預けて酒屋とギルドの場所を聞いて出発した、その時に女将さんに「お嬢ちゃんやるねぇ」とニヤニヤされたけど、何でだろう?



 

 大通りまで出るとリカルド達とは分かれて酒屋を目指す、宿屋と酒屋の関係は切っても切れない様で5分も歩くと女将に教えてもらった酒屋に到着した。

 全体的にそう高くも無いが、希少なお酒や高級酒も置いてある使い勝手良い酒屋らしい。



「おや、お嬢ちゃんお遣いかい?」



 私が入った瞬間店主らしき狐獣人のお爺さんが声を掛けてきた。



「これでも16歳だから試飲出来るものを出してくれる? 地酒があると嬉しいんだけど」



「おぉ、そりゃすまんかったね。おーい、地酒飲み比べ用の試飲持って来てくれ」



「はーい」



 ムッツリとして言うと、お爺さんは慌てた様に店の奥に声を掛けた。

 若い女性の声が聞こえて暫くすると5種類の酒瓶の並んだ木箱を持った狐獣人の娘さんが現れた。



「オレ達の分も頼むぜ、コイツの連れだ」



「そうかい、それなら安心だな。試飲の器はここにあるから混ざらない様に飲む度に変えてくれ」



 お爺さんが並べたお猪口ちょこサイズの木製カップに娘さんがお酒をいでくれた。

 4人共グイっと煽ると…いや、お爺さんもあわせて5人だった、どうして一緒に飲んでるんだろう。



「うん、美味い! こいつぁ果物と薬草で造られた酒でこの苦味がまた美味いんだ」



「もぅ、おじいちゃんったら…」



 どうやら娘さんは孫娘だった様だ。

 しかしこのお酒どこかで飲んだ気がする…、私が思い出してる間にホセはお爺さんと感想を言い合っていた、どうやら気に入った様だ。



「ん~…、あっ、カンパリだ! 完全に同じじゃないけどカンパリに似てる! オレンジの果汁と合わせたら絶対美味しいやつだよ!」



「ほほぅ、じゃあ次はどうだ。全く違うやつだぞ、獣人はドワーフに負けず劣らず酒が好きだからな」



 次に差し出されたものは乳白色というか、白濁しているお酒だった。

 匂いを嗅ぐとすごく嗅いだ事のある様な…、口に含んだ飲み込むと、口に入れた瞬間はカルピスっぽいと思ったけど、次の瞬間に別物だとわかる…これは…マッコリ!?



「まさか異世界でマッコリもどきに出会うとは…、コレは冷やした方が美味しいやつだよ」



「ぐぬぅ…、こいつも知ってた様だな。セレナ、次だ!」



 次に出された物も凄く嗅ぎ慣れてる様な…、色はカンパリ擬きにも似てるけど、何だか唐揚げが食べたくなる…って、そうだ、コレ紹興酒の香りだよ!!

  以前手に入れた物より紹興酒そのものというか…、そして飲んでみてわかった、これはいつも使ってた3年物では無く10年物の紹興酒レベルだと。



「よし、このお酒はあるだけください」



「「はぁ!?」」



 キリッとした顔で言うとお爺さんとセレナは何言ってんだとばかりに呆れた声を出した。



「アイル、このお酒気に入ったの? でも普段飲んでる物とはちょっと違うね?」



 エリアスがチビチビと飲みながら言った。



「ふふふふ、コレは飲むのも良いけど唐揚げに使うともっと美味しくなるんだよ! 正確には私が食べてたお店の味に近付くんだけどね」



「何ッ!? 唐揚げが更に美味くなるだと!?」



「な、なんだそのカラアゲとやらは」



 ホセの喰い付きっぷりにお爺さんが動揺した。



「うふふ、4人目の賢者の話は知ってるかしら? 商業ギルドに行けば色々美味しいもののレシピが手に入るわよ?」



 ビビアナの言葉にセレナが「あっ」と声を上げた。



「おじいちゃん思い出したわ! 冒険者ギルド内の酒場で唐揚げとかカレーっていう賢者が伝えた食べ物出してるって酒場の店主が配達の時に言ってたの」



「よし、今夜にでも食べに行くか…」



「やったぁ!」



 盛り上がる2人を急かして残りの2本も試飲、1つはワイン、もう1つはアブサンに近かった。

 どうしてこれだけ系統の違うお酒が作られているのか聞くと、獣人の種族によって好みが分かれるせいらしい。

 アブサンは苦手なのでそれ以外の購入を決めた。



「しかし…、注文した分合わせると見ての通り50本になるぞ? 配達するなら別料金掛かるがいいか?」



「大丈夫! 自分で持って帰るから」



 代金の大銀貨2枚を渡してお酒をストレージに収納した。



「な…っ、まさか賢者か!?」



「ふふっ、明後日王都を出るから3日間だけ秘密にしてね」



 驚く2人をそのままに、私達は酒屋を出た。

 3日間黙っててくれるかなぁ。



◇◇◇



過去に紹興酒出したか記憶が怪しいので、もし見つけた方はご一報下さい (´・ω・`)

修正案を準備してお待ちしております、パルテナ王都に無いのは確認しましたが、全てチェックすると読み込みの為に何日か更新できなくなりそうなので_:(´ཀ`」 ∠):


追記・92話でらしき物を発見していたと報告頂いたので修正してあります。

しかも酒屋に行った回じゃないとはいえパルテナ王都で手に入れてました… (*´ー`*)

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