第323話 そうだけど違う

「アイル? 起きてる? 朝食の時間よ」



「ふぇ!? 今鍵開けるね!」



 ビビアナと声とノックの音で寝過ごした事に気付いた私は飛び起きてドアの鍵を開けた。

 昨夜は遅くまで2人をモフっていたから寝過ごした様だ、起きてからもうひとモフりしようと思ってたのに。



「あら、昨夜はお楽しみだったの?」



 ボサボサの頭だったからだろうか、ドアを開けたビビアナが手櫛で私の髪を整えながらクスクスと笑った。



「うん! もう最高だった! それにおじいちゃんが凄いの、見ての通りホセより長毛種で埋もれちゃうくら…」



 おじいちゃんのほうを振り返ると、昨夜見た冬毛ではなく、ホセと同じ茶色い髪、そして若々しいには鍛え上げられた筋肉がしっかりとついた…人型だった。

 手前側にはホセの足が掛け布団からはみ出ている。



「な、な、な、何で!?」



「うるせぇなぁ…」



 ホセが目を擦りながら身体を起こした。



「ふふっ、最高の夜だったんでしょ?」



 ビビアナが悪戯っぽく微笑んだ、さっきのセリフは2人が人型になってるのわかってて言ったのか!



「そ、そうだけど違うもん!」



「何してるの? 早くしないとテーブル埋まっちゃうかもよ」



 弁明べんめいしようとしたらエリアスが声を掛けながらヒョイと部屋を覗いて…固まった。



「違うんだよ! 寝た時は獣化してたんだからね!?」



「うんうん、わかってるよ。歯型をお互い付け合った仲なんだから今更焦らなくても大丈夫だよ」



「言い方ァ!」



「うぐっ」



 私はエリアスの脇腹に拳を打ち込んだ。

 エリアスは半分廊下にいるんだから言葉には気を付けて欲しい。

 とりあえず部屋に入れてドアを閉めた、その騒ぎのせいかおじいちゃんも目を覚ました様だ。



「うん…? ああそうか、昨夜はそのまま寝てしまった様だな。皆おはよう」



 掛け布団の中は全裸のはずなのに、焦りも恥ずかしがりもせず皆と挨拶を交わすおじいちゃん、やはり獣人は裸を見られる事に抵抗がないのだろうか。



「おはよう、おじいちゃん、ホセもどうして人型になってるの? 昨夜は獣化したまま寝たはずなのに…」



「夜中に目を覚ましてしまってな、ホセと少し話をしていてそのまま眠ってしまった様だ。なに、アイルは成人していると聞いたぞ、未通娘おぼこでもあるまいし私達が裸でも平気だろう?」



 さも当然と言わんばかりに言い放つおじいちゃん、そうか、異世界こっちでは成人したら経験済みなのが普通なのか。



「そっ、そりゃそうだけど…私は恋人でも無い限り裸なんて見ないし見せないもん…。じゃあ私はビビアナ達の部屋で着替えて来る!」



「ちょっと待った!」



 部屋を出ようとしたらエリアスに止められた。



「何? どうしたの?」



「いくら幼く見えると言っても、その格好で廊下を歩くのはどうかと思うよ?」



「う…」



 ダブルベッドの夫婦や恋人仕様の部屋と、冒険者パーティ仕様の大部屋は離れているので、朝食時間という事もあり誰かに見られる可能性は高い。



「ははは、着替えを見られたくないなんてアイルは恥ずかしがり屋なんだな」



「そうじゃなくておじいちゃん達が裸だからだよ! もういいよ、こっち向いてるからその間に2人も着替えてね」



 ベッドに背中を向けてストレージから着替えを出して着替える、2人は昨夜の内に着替えを準備しているのですぐに着替えられるだろう。

 ビビアナはこちらに来る気配も無いのでもしかしたら2人の着替えを見学しているのだろうか。



「もう着替え終わった?」



「うふふ、終わってるわよ」



 背中を向けたまま尋ねると、ビビアナが答えた、やはり着替えを見ていた様だ。

 という事はナニとは言わないが……見たのね。



 ちなみに私は冒険者スタイルの為、上半身を着替えた後に外套を羽織って下着を見られない様に着替えた。

 スカートだったら楽だけど、馬車での移動とはいえいつ魔物や盗賊と出会でくわすかわからないもんね。



 3人分の夜着を洗浄魔法で綺麗にしてたたみ、各自片付けてから食堂へと向かった。

 ビビアナが妙にニマニマしてるけど、ツッコんだら負けだ。



「おはよう、遅かったね、もう注文しておいた分が来てるよ」



 食堂ではエンリケとリカルドが先に席をとっておいてくれたので、挨拶を交わしてからすぐに食事ができた。

 既にビルデオは出ているので、都会でない村や町ではあまり獣人を見かけない。



 しかし宿屋には数人滞在していて、宿屋を出る時などすれ違いざまに口笛を吹かれたり「やるねぇ」と揶揄う様な言葉をかけられた。

 歯型は無いのに何だろうかと思いつつもチェックアウトをして馬車に乗ろうとしたら、いきなりホセが私の頭をガシッと掴んだ。



「おい、お前の匂いのせいでオレとじいさんが子供に2人掛かりで手を出す変態だと思われただろうが」



 耳元で地を這う様な声を出すホセ、耳元で話す時は優しく囁くのが定番じゃないのか。



「そんなの邪推じゃすいする方が変態なんだよ、二度と会わない人達に勘違いされても気にする事無いよ」



「……今はまだ届いて無い様だが…その内こっちにもお前やオレ達の姿絵が届くだろうよ。その時さっきの奴らが何て思うんだろうなァ」



「ビビアナぁ! ホセが意地悪言うよぅ」



「あっ、逃げんな!」



 私は先に馬車に乗ってたビビアナに助けを求めた。



「ふふっ、大丈夫よホセ。姿絵と一緒に正しい情報を流せばいいんじゃない?」



「た、正しい情報って?」



 嫌な予感しかしないが一応確認する。



「アイルが獣人好きで、特に獣化した時のもふもふの体毛や小さな子に目が無くて近付くと撫で回されるってね」



「ダメだよ! そんなのがバレたらハニートラップならぬエンジェルトラップを仕掛けられてホイホイ引っかかる私の姿が容易に想像出来ちゃうもん!」



「「「「「確かに」」」」」



 御者当番でその場に居ないエンリケ以外が同時に頷いた。

 おじいちゃんも私のセルヒオの可愛がりっぷりに私の弱点(?)に気付いていたらしい、早々に理解され過ぎてて辛いよ!

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