第324話 刑の執行

「ムゥ…、船旅がここまで暇だとは…」



「何だじいさん、船に乗った事無かったのか?」



「ああいや、教会本部には行った事はあるから船旅自体はした事あるんだが…、あの時は夜には村や町に寄港きこうしたからそれなりに暇も潰せたからな、何日も船から降りないというのは初めてなのだ」



 おじいちゃんが甲板で眉間に皺を寄せていた、ホセはタリファスに行ったのが初めての船旅だったから船で連泊するのは今回の旅が初めてだったので、行きはおじいちゃんと同じく暇潰しに困ってたっけ。

 今は幽霊のおばあちゃんに会った島を通過して、明後日にはバナナ…じゃない、港町に到着する。



「そういえば砂漠化防止計画順調に進んでるかなぁ」



「そういやお前バナナの為にって張り切ってたもんな」



「バナナとは何だ?」



 ぽつりと漏らした言葉にホセが反応し、おじいちゃんが聞いてきた、そういや輸出して無いから他の国の人は知らないんだっけ。

 そんな訳でおじいちゃんに偽物賢者の少女からバナナの事、砂漠化防止計画を領主と共に実行しているであろうという話をした。



「ほぉ~、そんな方法があったのか。こちら程では無いがビルデオにも暑い地域があって砂漠があるのだ、今の事を教えても良いか?」



「うん、だけど水を含ませられる素材はあるの?」



「ああ、どこかの研究馬鹿がスライムの身体を粉末化する事に成功したとか言っておったからな。水を含むと膨らむらしいが、そんな物使い道なぞ無いだろうと馬鹿にされておったが…あやつ人生が変わるかもしれんな」



 どうやらどこかの研究馬鹿とやらはおじいちゃんの知り合いらしい。

 スライムの粉末が給水ポリマーと同じ働きするなら歴史が動くレベルでお役立ちだよ!



「おじいちゃん、その人に早く特許取得する様に言っておいて。使い道色々あり過ぎて大儲けできちゃうから」



「ん? 砂漠化防止に使う以外に使い道があるのか?」



「もちろん! 凍らせて保冷剤にも出来るし、皮袋に入れたら御者席で使ってる擬似スライムシートにもなるし、おむつとか…じゅ、授乳してる人の母乳パットにも使える…し…」



 何か男性に女性にしかわからない事を言うのってちょっと恥ずかしい。

 早くに結婚した友達が言っていたのだ、赤ちゃんがお腹を空かせて泣いたり、飲ませてたら反対側からジワジワと勝手に出て来るから母乳パットは手離せないのだと。



 ちなみにこの世界に生理が無いので生理用品は必要無い、凄く楽だ。

 代わりに子供が出来やすい時には腰のところに小さなあざが浮かび上がる。

 ずっと生理が来ないから環境の変化のせいかなと思ってたけど、お風呂でビビアナに教えてもらった時は驚いたよ。



「ふぅむ…、確かにそういう使い道があるならばかなり儲かるだろうな。早々に職人ギルドに登録しろと連絡してくる」



 おじいちゃんは簡易通信魔導具を持って来ているので、連絡する為に船室へと向かった。

 爵位を譲った長男のアウレリオが相談出来る様にと持たされたのだとか。



「ふふふ」



「何だよ?」



 突然笑った私をホセがいぶかしげに見た。



「いやぁ、カリスト大司教達が居ないから帰りはちょっと寂しいなぁって思ってたんだけど、おじいちゃんが一緒だから寂しくないね」



「へっ、オレはじいさんが居なくても寂しいとは思わなかったけどな」



 ホセは鼻で笑ったが尻尾が揺れている。



「だけど居てくれた方が嬉しいでしょ?」



「………まぁな。あれだけ無条件に好意を示してくれる目上の人間なんてマザー達以外居なかったから変な感じはするけどよ、悪い気分じゃねぇ」



「素直に嬉しいって言えば良いのに、ホセってばそういうとこ子供だよね~」



「何だと!?」



 手を伸ばして来たので反復横跳びの2段階移動でフェイントをかけて回避した。



「ふはははは、甘いッ」



「お前がな」



「アッ」



 本気を出したホセが私の顔面を片手で掴んだ、顳顬こめかみに指が食い込む。



「オレが何だって? もう1回言ってみろよ」



「痛い痛い! そこ急所だよ!?」



「あ?」



 急所という言葉にホセの手が顔から離れる、近くにビビアナは居ないけど、ちょうどリカルドが船内から甲板へと出てきたのが見えた。



平行感覚が麻痺する急所なんだよ~」



 掴まれて深刻なダメージがある訳では無く、押されると痛いだけだ。

 ホセの手から逃れた私はそのまま走ってリカルドの元へ避難



「リカルドたすむぐぅッ」



「ん?」



 リカルドの元へ辿り着く前にホセに捕まり口を塞がれた、しかしリカルドが気付いてこちらを向く。

 リカルド助けて! 届け私のこの思い!!



「ホセ、アイルを捕まえて何やってるんだ?」



「コイツが馬鹿な事大声で言おうとするからよ、大人しくなるまで口塞いでるだけだ、全く本当にだよなァ?」



「むぐーッ!」



 嘘だーッ! しかもさっき子供って言われた事根に持ってるでしょ!!



「ははは、アイル、他の客に迷惑にならない様にあまり騒ぐなよ?」



「ムゴモゴォ」(ちがうよぉ)



「リカルド、風に当たるなら右舷うげん側の方が日陰になっててお勧めだぞ」



「わかった、ありがとう」



 日陰を求めて私の希望の光が行ってしまった…。

 その後、拘束されたまま日陰と日向の境目に連れて行かれ、ホセだけ日陰に身を隠して「常夏の国での直射日光の刑」が執行された。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る