第520話 予想外のお土産

 うつ伏せになったアリリオが仰向あおむけに戻せとグズり始めたので、授乳ついでにビビアナがリビングから連れ出した。

 よし、今の内にカリスト大司教達の口止めをしておこう。



「とりあえず座って。今お茶を淹れるから」



「これはこれは、アイル様手ずからお茶を淹れていただけるとは光栄ですね」



 私が促すと、おじいちゃんの向かいのソファに聖騎士三人が座り、おじいちゃんの隣の一人掛けにカリスト大司教が座った。



「あはは、一緒に旅してる時に何度も飲んでるじゃない」



「今のアイル様であると思うと更にありがたみがありますから」



 二コリと微笑むカリスト大司教。これは女神の化身の件を知ってるの!?

 内心冷や汗を掻きながらストレージから出したお茶をいで皆の前に置いた。



 エリアスがいたら相談できるけど、今はいないから自分で考えなきゃ。

 おじいちゃんはどうするつもりだろう。エンリケが一人掛けのソファに座ったので、私とホセはおじいちゃんの隣に腰を下ろした。



「で、カリスト大司教はどうしておじいちゃんを知ってるの?」



 カリスト大司教は私とおじいちゃんとホセを順番に見てから口を開いた。



「以前ビルデオを訪問した時に陛下が、城の警護をされていたチャルトリスキ伯爵を気にされていたのです。後で他の者に聞いたら側室だった方の父君だったとか」



 はい、アウトォー!!

 絶対ホセとおじいちゃんの関係バレてるよね、コレ。

 陛下が気にされてたって事は、ホセのお父さんの声を聞いた事あるだろうし。



 おじいちゃんがいなきゃ偶然声が似てると思うだけか、王様を思い出す事もなかったと思うけど。

 チラリとおじいちゃんの様子を伺うと、苦笑いを浮かべていた。



慧眼けいがんをお持ちと評判のカリスト大司教様ならば、もうお気付きになっているのでしょう? ですが、慧眼だけでなく思慮深いという事も存じております」



 ニコニコと微笑み合うおじいちゃんとカリスト大司教。

 よし、こうなったら腹をくくるしかない!

 私は一度大きく深呼吸すると、覚悟を決めて口を開く。



「カリスト大司教、色々気付いているだろうし言うね。これはカリスト大司教……ううん、四人の事信じてるからだから!」



「アイル様のお気持ちを裏切らないと誓いましょう」



 カリスト大司教の言葉に聖騎士の三人も頷く。



「……私の見た目、以前と違うでしょ? 女神様が私を女神の化身にしちゃったの、そのせいで見た目が少しかわっちゃったんだ。こんな話が広まっちゃったら冒険者なんて出来なくなっちゃうから、ホセの事もそうだけど秘密にしてほしいの」



 一気に話すと、ドキドキしながらカリスト大司教達の反応を待つ。

 カリスト大司教はお茶をひと口飲み、カップとソーサーをテーブルに戻すと、ふぅと息を吐いた。



「やはりそうでしたか。以前からウルスカを聖地に認定しようという話が出ていましたが、早急に決定すべきですね」



 カリスト大司教の言葉に、聖騎士の三人も頷いている。



「ちょっと待って!? 話が違うよ!? そんな事になったら……」



 慌てる私にカリスト大司教はそっと手を上げて制した。



「大丈夫ですよ。あくまで女神様が遣わされた賢者様が現れた町として、以前から出ていた話ですので。実際他の賢者様方が最初に姿を見せた町も聖地として認定されていますし。あ、そうそう。サブロー様が現れたのは五国大陸なのですが、そこで作られている物を手土産に持って来たのです」



 そう言ってカリスト大司教は前の旅でも持っていた魔法鞄マジックバッグから、四十センチくらいの包みを取り出した。

 受け取ると硬く、布に包まれた中身を確認するとそこには刃が付いた木箱。

 そして中に何か硬い物が入っているような音がした。



「これはカンナ……? 鰹節かつおぶしを削る用みたいな……って、まさか!?」



 刃の付いた箱の上部をスライドさせると、箱の中には鰹節の塊が入っていた。



「やっぱり鰹節だー!!」



 思わず鰹節をかかげ持って叫ぶ。



「やはりアイル様もご存じでしたか。どうも五国大陸内で全て消費されてしまうようで、他の大陸には輸出されていないそうです」



「そっかぁ、そういえばこっちの大陸で鰹は見た事なかったかも。獲れる海域じゃないと作れないもんね、まぐろでも作れるらしいけど、やっぱり別物みたいだからなぁ」



「喜んでいただけたようでなによりです」



「うん! 凄く嬉しい! ありがとう、カリスト大司教! ……って、そうじゃなくて!」



 鰹節に浮かれちゃったけど、我に返って話を戻す。



「あれだけ浮かれておいて今更だろ」



 ホセが呆れたように呟いたのが聞こえた、ホセのためにもちゃんと話さなきゃと思ってるのに!



「ふふ、先程も言いましたが、あくまでここを聖地とするのはアイル様が現れた町だからという事にしますのでご安心ください。本来なら女神様が祝福のために降臨なされた貧民街スラムの教会を改装して……と言いたいところですが、それはアイル様もマザーも望まないでしょうから、この町で一番大きな教会に私が……ではなく、適任を教会本部より派遣する事になるでしょう。そうなれば何かとお力になれる事も増えるでしょうからね」



 今……、私がって言った?

 思わず固まる私。



「ホセと私の事を黙っている条件が、今のを受け入れる事だと聞こえたのは私だけか?」



「いいや、オレにもそう聞こえたぜ」



 隣から聞こえてきたおじいちゃんとホセの会話に、私は項垂れるように頷くしかなかった。

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