第521話 カリスト大司教の目的
「私達は数日滞在しますが、巡礼の途中なのでタリファスにも足を延ばす予定です。メルチョル司教から『
「ごめんねカリスト大司教、アリリオの成長を見逃すと思うと、数年は泊まりがけの仕事は受けたくないの」
「ふふふ、アイル様が愛情深いお方だという事は知っていましたが、アリリオはそんなアイル様に大切にされて幸せですね。きっと素晴らしい子に成長するでしょう、こちらの事はお気になさらず。…………その内いつでも会えるようになるでしょうし(ポソ)」
「「……ッ!!」」
カリスト大司教が最後に何を言ったのか聞き取れなかったけど、ホセとおじいちゃんには聞こえたらしくビクッとしていた。
二人共何も言わないし、大した事じゃなかったのかな?
それにしても、やっぱりカリスト大司教は理解ある大人だなぁ。絶対無理強いしないから信用できるし。
「それじゃあ出発する日が決まったら教えて。護衛はしてあげられないけど、道中で食べられるお弁当作るね」
「おお! それはありがたいですね! こちらに来る道中でも何度もアイル様の料理の話になっていましたから」
「巡礼中に知り合って同行している二人がいるんですが、ついつい自慢してしまって凄く羨ましがられていたんですよ。お弁当をいただけるなら少しくらい分けてあげられますね」
オラシオが嬉しそうに言ってお茶に口をつけた。
「へぇ、その人達は皆の事大司教と聖騎士って知ってるの?」
「あ~…、はい、そうですね」
なぜか目を泳がせるオラシオ。
「普通なら大司教だって知ったら気おくれしちゃいそうなのにね。大物なのか、それともよっぽどカリスト大司教達の人柄が好きなのかな、あはは。それじゃあ、その二人も食べられるように多めに作るよ」
「おお! それはあの二人も喜びます。ありがとうございます、アイル様」
ニコニコと嬉しそうにお礼を言うカリスト大司教。きっと凄く仲良しになったんだろうな。
せっかくだから、もらった鰹節を使って何か作ってあげよう。
五国大陸に行けば手に入るって事がわかったのは大きな収穫だもんね。
「ううん、カリスト大司教は教会本部に行った時も色々便宜を図ってくれたでしょ? そのお陰で引き止められる事もなかったし、助かったからそのお礼だと思ってくれていいよ」
ふふふ、こう言っておけば今後も強引に事を進めようとはしないだろう。
あとは美味しいものを食べて機嫌よく過ごしてもらえば問題無いよね。
「あ、そうそう。せっかくウルスカに来たんなら、今話題のラーメンを食べに行くといいよ」
「ラーメンですか?」
メルチョル司教からラーメンの事は聞いてないらしく、首を傾げるカリスト大司教。
「うん。基本のレシピは私が教えたものだけど、研究して美味しくしたのは店主のバレリオっていう冒険者なんだ。本当は冬だけのつもりだったみたいだけど、町の人達からの要望が多過ぎてほとんど冒険者は引退状態になってるって言ってたよ。ラーメン以外のメニューは私が直接教えた女の子達が作ってるから、味は保証するよ!」
「ほほぅ、アイル様が直接指導されたのですか。それは期待できますねぇ。今は別行動している二人にも教えてあげないといけませんね、きっと喜ぶでしょう」
「そうそう、少し早めに行かないと店内が混んでいたら待たされちゃうよ、だけどラーメン以外なら注文だけして持ち帰る事もできるからね。冒険者が長居しないようにお酒は一杯しか注文できないようにしているみたいだけど、それでも毎日忙しいって言ってたから」
「カリスト大司教、今日の夕食は決まりですね! アイル様、素晴らしい情報をありがとうございます」
エクトルが目をキラキラさせてお礼を言った。
体育会系の彼らなら、きっとボリューミーな中華料理に満足することだろう。
「そういえばアイル様にひとつお願いしたい事があるのですが……」
そう言ってカリスト大司教はゆったりとしたズボンのポケットから、見覚えのある物を出してきた。
あれって確か教会で使ってる簡易通信魔導具だよね?
「それって簡易通信魔導具だよね? 前にマザーに渡してって頼まれた物と同じに見えるけど」
「そうです。メルチョル司教から聞いたのですが、ビビアナにアイル様が魔法を付与した通信魔導具を渡したそうですね」
「う、うん、それがどうしたの?」
ニコニコしながら話すカリスト大司教、真意が見えない。もしかして自分のも小型化したいから協力して欲しいとか?
だったら私だけじゃ無理だから、ガブリエルにもお願いしないと無理だよね。
「付与が出来るのであれば、この通信魔導具とアイル様が持っている通信魔導具が繋がるようにしていただきたいのです。ああ、もちろん緊急の時以外はこちらから連絡する事はありませんのでご安心ください。アイル様が何か困った時に、私が力になれる事があれば協力したいだけですので。ウリエル大司教の話によればこの表面に刻まれている魔法式の下の魔石の中に、アイル様なら魔法式を刻み込む事が可能との事でしたので」
「出来なくはないけど、でも……」
確かに魔導具職人と違って、付与魔法であれば魔石の表面でなく中に魔法式を刻み込める。
実際ビビアナに渡した物も間違っても魔法式の部分が欠けたりしないように、魔石の真ん中に刻まれているのだ。
ただ、これまで通り何かあったら
確かにカリスト大司教なら無用な連絡はしなさそうだけど、かと言って必要性も感じないんだよねぇ……。
そんな事を思っていたら、心を見透かしたようにカリスト大司教は口を開いた。
「ビビアナがまだ妊娠している時に、不遜な輩がお腹にいたアリリオを狙っていたそうですね。アリリオが成長してから万が一教会関係者を名乗る者や貴族が来た場合、通信魔導具を通して私が対応すればすぐに問題解決できるのはと思いまして。ビビアナの通信魔導具とも繋がるようにしておけば、今後アイル様が不在の時も少しは安心していただけ」「すぐにやろう」
ホセにビビアナが持っている通信魔導具を預かって来てもらい、すぐに私の物と合わせて接続可能にした。
いいように掌の上で転がされたと気付いたのは、ホクホク顔のカリスト大司教達が帰った後だった。
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