第418話 エルフの里

「ちょっと待って下さいね」



 1時間程歩いた後、ウリエルは立ち止まって木札を出した、あれはレミエルも持ってるエルフの身分証ってやつじゃないだろうか。

 そう思って見ていると、不可視の障壁が身分証に反応して淡い光と共に人が通れる程の穴を空けた。



「今のは…?」



「このエルフの身分証は世界樹の枝を削って作られているのですが、これが無いと世界樹を護る障壁の中には入れないのです。ここまで来れば里に到着したも同然ですよ」



 首を傾げるリカルドの言葉に、ウリエルは丁寧に説明してくれた。

 そして障壁の向こうに足を踏み入れると、鬱蒼とした森から爽やかな雰囲気に変わる。

 更に進むと大きなクレーターのど真ん中にあり得ない程大きな木があり、伸びた枝葉でクレーターの蓋をしている様に見えた。



 てっきり世界樹は遠くから見てもわかる大樹がドーンと立っているのかと思っていたが、クレーターの中にあるので遠くから見たら周りの木々と高さが同じになって一体化していたのだ。

 クレーターの中にもそれなりに立派な森があり、世界樹の根本にも巨木が生えていて、そこにツリーハウスが建てられている。



「凄い…、これが世界樹なんだね、こんなに大きな木の下なのに暗くないし森まで出来ているなんて」



 思わず漏れた言葉に皆も目を見開いたまま頷いている、こんなに大きな世界樹の下にもちゃんと太陽光も届いているのが不思議な感じだ。

 


「世界樹は全ての光を遮らない様に葉が薄く、しかも育って来ると時々自分で枝を落とすのですよ、長老達はそれを察知出来るので浮遊魔法を使って受け取りその枝は色んな物に加工されます。このエルフの身分証の様に」



 そう言って身分証が見える様に持ち上げてくれた。

 


「あ、だから身分証を見た時にルシオが驚いていたんだね、でも世界樹って一般には知られて無いのに何で驚いてたんだろ?」



 ちなみに私が世界樹を知っている事はレミエルが興奮気味にウリエルに報告したので既に知っている。



「門番をしている者にはエルフは特別な木で出来ている身分証を持っていると教えられているはずですよ。このエルフの森周辺はどこの国にも属してませんが、私が昔教会を通じて各国に通達したので。それまでは結構怪しまれていたらしくてあの時は結構感謝されましたよ」



 ウリエルが言う昔っていつなんだろう、100年や200年は前なんだろうなぁ。

 それから私達がツリーハウスのある場所に到着したのはすっかり暗くなった2時間後の事だった。



 レミエルの言う通り障壁から10分で里のあるクレーターに到着したが、そこから高さ300mはありそうな岩肌を人1人やっと通れそうな道を降りてから人が住んでいる所までの移動時間は入って無かった様だ。



 魔法の使える私とエンリケとエルフの3人なら問題無いが他のメンバーは落ちたら死ぬ高さを歩くので、いざとなれば助けて貰えるとわかっていても足がすくんでしまうのは仕方ない。



 実際浮遊魔法を使える私もあまりの高さに足が勝手に震えてウリエルに手を繋いでもらったし。

 ちなみに途中で追いついたガブリエルが道が折り返して踊り場みたいになってる所で友人を主張して手を繋ぐのを交代した。

 手を引いてくれるなら誰でも良いんだけどね。



「皆さんお疲れ様でした、それにしてもエンリケはあの高さの道も平気そうでしたね」



 他のメンバーがぐったりしているのに、エルフ以外で1人だけケロリとしているエンリケを見てウリエルが感心した。



「そりゃあエンリケは「ガブリエル? 冒険者は簡単に手の内を教えないものなんだよ、つまりは秘密なの」



「あ、ハイ…」



 にっこりと強めの笑顔でガブリエルを牽制した、今絶対「エンリケは竜人だし」とか言おうとしたよね!?

 全く、ガブリエルの口の軽さは油断も隙も無いよ!



「ふふ、どうやら冒険者ならではの秘密がある様ですね、それならば詮索は致しません」



「冒険者はいつ誰と敵対するかわからないから手の内を晒さないんだよ、ひとつ言うなら前に活動していたのが険しい山もある所だったって事かな」



「なるほど、高所に慣れているんですね」



 エンリケがさらりとフォローした、この辺りは年の功なのかもしれない。



「あら、ウリエル? レミエルとガブリエルまで、おかえりなさい。……その人間と獣人は何なの?」


 

 レミエルと同じ様な草木染めの服を身に付けたエルフ美女が3人を見てわずかに微笑んだ後、さげすむ様な目をこちらに向けた。



「ただいまラティエル、重大なしらせを持って来ました。こちらにいらっしゃる4人目の賢者アイル様が…アイル様、こちらにいらして下さい」



 仲間達に埋もれてウリエルから私の姿が見えなかったらしく呼ばれてしまった。

 ほぼ無表情の美女の蔑みの目が怖かったからあまり関わり合いたく無かったのに。

 仕方なく前に出るとラティエルと呼ばれた美女の表情が一転した。



「あらあらまぁまぁ、可愛らしいお嬢さんだこと、こんな小さい子を見るのなんて久しぶりだわ。今夜は私の家にお泊まりなさい、そこのガブリエルの実家だから安心でしょ?」



「えっ!? ガブリエルってお姉さんが居たの!?」



「あらぁ、本当に可愛らしいわね、私はガブリエルの母親よ、うふふふ」



「母さん! アイルを泊めるのは賛成だけどアイルは冒険者の仲間パーティと一緒に来たんだから勝手に決めちゃダメだよ」



 ガブリエルと同じくらいの年齢にしか見えない母親に、私達は開いた口が塞がらなかった、そりゃもう久々の子供扱いに怒る事すら忘れるくらいに。

 鑑定したら267歳でした、エルフの年齢当ての難易度が高すぎる…!

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