第317話 心を1つに

「やだもう、恥ずかしかった~!」



 ギルドからの帰り道、熱くなった頬を押さえてリカルドの隣を歩く。



「確かに獣化した大猩々ゴリラ獣人はあんな顔してたと思うが…ククッ、ホセも人型の時に狼みたいな顔してないんだから違うって気付かなかったのか?」



「あぁっ! 本当だ!!」



 リカルドの言葉に目から鱗だった、考えてみれば猫や狐の獣人で垂れ目の人だっているもんね。



「俺もちょっと大猩々獣人なのかなとは思ったがな」



「だよね!? この事皆には内緒にしようね、だって絶対笑われるもん」



「笑われるのはアイルだけだろうけどな」



「リカルドの意地悪!」



 軽くリカルドの二の腕をポカポカと叩く。



「ははは、身体強化したままだから痛いぞアイル。それじゃあ明日の昼食を照り焼きと半熟目玉焼きのサンドイッチにするという事で手を打とう」



「ぐぅ…っ、わかったよ…」



 道中で作り置き分の照り焼きと半熟卵のサンドイッチは品切れになっているので、厨房が使えるところに滞在して作り置きするか、その場で作らない限りウルスカに帰るまで食べられないと仲間達に通達してあったが、照り焼きが好きなリカルドは我慢出来なかったらしい。



 街道沿いにあるキャンプ場で作るのは問題無いが、ただその場で作るから時間が掛かるのと、大抵その場に居る他の冒険者や行商人が近付いて来るのだ。

 レシピは商業ギルドで手に入るけど、醤油の取り引きが無い国や地域だったり、レシピの存在自体知らない人がまだまだ多いせいかもしれない。



 その辺のお店でいつでも食べられる様になったら物珍しさに寄って来る人も居なくなるだろうから、早く広まって欲しい。

 広まるって事は商業ギルドの私の口座に契約料がたっぷり入るって事だもんね、そうしたらビルデオの色んなお酒をお取り寄せで買ったり出来ないかなぁ。



「うへへへへ」



「アイル!?」



「あ、ごめんごめん、ちょっと考え事してた」



「何を考えたらそんな笑い声が出るんだ…」



 呆れた目を向けられてしまったが、お酒の事なんて言ったら余計に呆れられてしまいそうなのでえへっと笑って誤魔化した。

 そして宿屋の部屋に戻るといきなり壁ドンされた、エリアスに。



「アイル? さすがに出掛ける前には治してくれるんだよねぇ? 僕あのたぐいの好奇の目を向けられながら食事したのは初めてだよ、あの後エンリケとビビアナが先に部屋に戻っちゃったから余計に…ね」



 怖い怖い、笑顔なのに凄く怒ってるよ、私が噛み付いた訳じゃないのにどうして私が怒られてるの!?

 しかしその状況は想像するとかなり面白いかも、こっそり陰から観察したかったなぁ。



「アイル?」



「わかったよぅ、治せばいいんでしょ。『治癒ヒール』」



 余計な事を考えたのを見透かした様に笑顔で凄まれたので素直に治すと、エリアスは安心した様にホッと息を吐いた。



「ありがと、これで堂々と外を歩けるよ」



「どういたしまして。ところでどうしてビビアナとエンリケは先に部屋に戻っちゃったの?」



「「食べ終わったから」よ」



 2人ともにっこりと笑顔で答えたが、その笑顔が面白いからだと物語っていた。

 きっと普段から余計な事をしているからお仕置きを兼ねての行動なのだろう、日頃の行いって大事だよね。



「とりあえず護衛依頼を受けて来たから明日は朝食後に伯爵家に行って、合流したらそのままウルスカへと向かう事になっているが、それまでは自由にしていいぞ。俺とアイルは今から食料の買い出しに行くが皆はどうする?」



 待ち構えていたエリアス以外はまったりとくつろいでいたのでリカルドが確認したが、結局全員で行く事になった。

 買い出しから戻るまでは用心の為に探索魔法と身体強化はそのままの方が良いよね。



 食材の買い出しで身体強化をかけたままにしておいて良かったと心の底から思った、大きいのだ、肉が。

 人族の国だと最大サイズはこの半分だぞ、と言いたくなるくらい肉の塊が大きいので、受け取る時に肉屋のおじさんが「持てるか?」と心配してくれる程だった。



 料金を払って鶏を10羽分骨が無い状態に解体してもらった、サンドイッチに使うなら骨があると困るからね。

 昨日は食料品市場じゃないお店ばかりの所に行っていたから気付かなかったけど、獣人の国なせいか野菜を売っているところより断然肉屋の方が多い。



 そして魔物肉の種類が豊富なので店によって色々買えるのである。

 やはりこの辺りも種族によって好みが分かれるからだろうか、幸い私は鑑定でどんな料理に向いてる肉かわかるので色々買っていく。



「おじさん、ここからここまで全種類ひとかたまりずつ下さいな」



「え…っ、嬢ちゃん、コレも買うのかい?」



 躊躇ためらいがちに豚獣人の店主が聞いて来た、どうしてそんな事を言うのだろうかと店主が指差した物を鑑定すると、それはオークの睾丸で獣人には精力剤としても使える新婚夫婦に人気の食材だった。

 ちなみに人族が食べると強すぎて鼻血を出すらしい。

 肉屋の店主は助けを求める様にホセ達を見たが、ホセ達も初見の食材だったらしくキョトンとしている。



「う~ん、それはいいや。それ以外を全部で」



「そうかい! すぐに用意するから待ってな」



 私が子供に見えるせいか店主はホッとして肉を包み始めた、端数の銅貨分もおまけして貰えたのでホクホクしながら次の店へと向かう。

 その後も大量に買うので色々とおまけをしてもらい、すぐに食べられる串焼きやパンも買い込んで帰路につく。



「いや~、買った買った」



「アイルの買い物見てると面白いくらい買うから気持ちいいよね。俺はずっと1人分しか買って来なかったから余計にそう思えるよ」



「そうでしょうそうでしょう、私もまとめ買いする時は楽しいもん。ただ今日モヤっとしてるのは…」



「あ、僕何が言いたいかわかっちゃった」



「あたしも」



「オレもわかるぜ」



「俺もずっと思ってた…」



「皆も思ってたんだね、俺もわかるよ、せ~ので言おうか。せ~の」



「「「「「「肉屋の店主が獣人」」」」」」



 その日、『希望エスペランサ』のメンバー全員が心が1つになった事を実感した。

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