第485話 おじいちゃんのファインセーブ!?

「さっき二人部屋は最後のひと部屋って言ってたよね。仕方ないから今夜はこの部屋に泊まるしかないね……って。あっ、ここシャワールームが付いてる! やったぁ! バスタブもあれば完璧だったけど、そこまで贅沢は言えないか」



「…………」



 初めての宿屋恒例の設備チェックをしつつ、室内をウロチョロする私。

 リカルドはそんな私を目で追いながらも、防具を外して柔らかそうなソファに座ると手入れを始めた。



 防具を綺麗にするだけなら洗浄魔法で一発なのだが、手入れをするとなるとそうはいかない。油を染み込ませた布で拭いたりと手間が掛かるのだ。

 食後すぐだし、シャワーを浴びるには早いので、私も一緒に防具の手入れをする事にした。



「アイル、いいのか?」



「ん? 何が?」



「いや……、ダブルベッドで寝るのはどうかと思ってな」



 リカルドが視線を鎧に向けたまま手入れをしつつ聞いてきた、確かにホセやエリアスが知ったら色々言いそうではある。



「二人用のテントで寝るより広いくらいだから問題無いと思うけど……。獣化してるから人型より小さいとはいえ、ホセとは一人用のベッドで一緒に寝てるから広々と寝られるくらいだし」



 テントは寝袋を使う前提の広さなので、二人用でも一人用ベッドより広い程度なのだ。



「……そうか、それもそうだな。それに同じベッドどころかアイルは寝た事も……ぶはっ、あるしな……クククッ」



 リカルドは納得したように頷き、私の黒歴史をほじくり返して吹き出した。

 この世界で初めてお酒を飲んだあの日の事は、できれば皆に忘れてもらいたいが、酔っ払いの話題になると高確率で誰かが口にする。



「うぐっ。い、一回だけだもん! あの時は皆が飲めって言ったせいなのに。リカルドだって飲み過ぎてグラス持ったまま寝ちゃって放さなかったりしてるじゃない、やらかしてるのは私だけじゃないもん……」



 胸当ての手入れが終わったので、今度はブーツを脱いで手入れを始めた。

 リカルドも脛当てグリーヴ鉄靴サバトンを外す。床に置くとゴトンと重そうな音がするので、いつも皮のブーツに装備を変えたら素早さが上がるだろうなと思っている。

 だけど噛みつかれたり蹴りで攻撃する時に皮だと心許こころもと無いから変える気は無いそうだ。



「確かにアイルが来るまではホセやビビアナを俺とエリアスが背負って帰るのは日常的ではあったな」



 リカルドがさりげなく自分を抜いて話した、ずるい。



「酒盛りの後に寝てるのは何度も見てるけど、ビビアナとエリアスが凄く酔っ払った姿って見た事無い気がする。どんな風になるの?」



「エリアスは金の管理をしていた事もあって酔わないように自分で気を付けているから、酔ってもほろ酔い程度で止めておけるんだ。アイルはできないみたいだけどな」



「う……っ、気持ちよくなったら気が大きくなってて、その状態になると自分で止められなくなってるんだもん」



「その気持ちは俺もわかる。ビビアナは飲むペースで酔うか酔わないか調節できるらしいぞ、酔うなら酒瓶数本空けるけどな。最終的にまともに歩けなくなって凄く絡んでくるんだ……、アイルが来てからはそれが無くなったから助かってる。家で飲むから運ぶ必要も無いのも大きい」



「確かに酔い潰れてそのまま寝ても大丈夫っていう安心感は大きいよね。なんだか早く家に帰りたくなってきちゃった」



 手入れが終わり、片付けをしていたらビビアナ用の通信魔導具が淡く光る。



『アイル、今話しても大丈夫かしら?』



「ビビアナ! うん、大丈夫だよ!」



『ふふ、元気そうね。今日は赤ちゃんが凄くお腹を蹴るからアイルが触りたいって言いそうだって話してたの。しばらく会って無いからあたしも会いたくなってきちゃった』



「うわぁ……! 行く! すぐ行く! リカルドも行く!?」



 なんだかんだとホセ達と別行動すると報告して以来連絡してなかったので、私もすぐに会いたくなってしまった。

 リカルドに聞くと、苦笑いを浮かべて首を振った。



「いや、俺はやめておこう。もし宿の者が部屋に来た時に誰もいなかったらおかしいだろう? なんなら朝になってから戻ってきてもいいぞ」



「あっ、そっか。そうすればダブルベッドで寝たとか言われなくて済むもんね」



「あっ、バカ……っ」



 リカルドが慌てて指を一本口の前に立てたが、既に遅かった。



『え? 何!? ホセ達がいない間になんでそんな面白そうな事になってるの!?』



『どういう事だ!?』



 明らかに面白がっているビビアナと、驚いているおじいちゃんの声。



「あっ、おじいちゃんも一緒に居るんだね。何も面白い事にはなってないから安心してよ。今からそっちに行くから……リカルド、行ってくるね」



「ああ、ゆっくりしてくるといい」



「おやすみ~、『転移メタスタシス』」



 おじいちゃんも一緒ならリビングだろうと見当をつけて転移すると、予想通り三人がいた。

 連絡はしてたけど、ガブリエル達がいたから会えなかったので久々だ。



「おかえり、アイル。久しぶりね」



「ただいま! 凄い、しばらく見ない間にすっかり妊婦さんだね! お腹が大きくなってる! おじいちゃんとセシリオも久しぶりだねぇ」



 ビビアナのお腹はすっかり妊婦らしく大きくなっていた、そんなお腹をセシリオは幸せそうな顔で撫でている。



「元気そうでよかった、それでダブルベッドでどうとか言ってなかったか!? 今はリカルドと二人だけなのだろう?」



 私もお腹を撫でようとしたら、挨拶もそこそこにおじいちゃんが私の両肩を掴んで聞いてきた。



「あ、うん。宿屋で二人部屋取ったらダブルベッドだったの。二人部屋が最後の一室だから仕方ないと思ってたけど、こっちに来ちゃった」



「そうかそうか、それなら今夜は獣化してやるから一緒に寝よう」



「わぁい! やったぁ!」



 こうしてこの夜はお腹越しに胎動を感じ、おじいちゃんをモフりながら眠るという幸せなひと時を過ごした。



◇◇◇


フォロワーさんが8000人を超えました!

ありがとうございます (*´▽`人)♡



咳止め水薬の副作用(眠くなる)で寝ぼけているのか、ちゃんと書けているか怪しくて申し訳ないです……。

頭がハッキリしたら修正するかも?

明後日でお薬無くなるのでそれからまた考えます。

( ˘ω˘ ) スヤァ…

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