第9話 小さいマザー

おすすめレビューをしていだきました!

とても嬉しくてニマニマしてしまいました、ありがとうございます!!


◇◇◇



「ゔっ、リビングは更に酷い臭い…」



 ビビアナはリビングに入るなり顔を顰めたが、そんな様子に気付く事も無くデロンとソファに寝そべるホセと、真っ赤な顔でニコニコしているエリアス、シャッキリしている様でどことなく目の焦点が合っていないリカルドがこちらを向いた。



「「「おかえり」」」



「あんた達! 何勝手に始めてんのよ! 今からアイルが食事を作ってくれるっていうのにベロベロに酔っ払って…、アイルも怒っていいのよ?」



 確かに私は怒っていた、森から帰って口にしたのはギルマスの部屋で飲んだお茶くらいで空きっ腹確実なのにアルコール摂取するなんて身体に悪いに決まってる。

 それなのに既にテーブルの上には空の瓶が数本横倒しになっていた。



「3人共…、何も食べずにお酒を飲んだの? 胃に負担が掛かるし酔いも回りやすくなるでしょう? 飲むならせめて屋台でツマミでも買って来れば良かったのに。特にホセ! 食事前に座っていられなくなる程飲むんじゃありません!」



「はい! マザーごめんなさい!」



 最後にピシャリと言うと、何故かホセが私の事をマザーと呼んだ。

 え? もしかしてホセってマザコンなの?

 そう思っていたらビビアナが笑い出し、続いてリカルドとエリアスも笑い出した。



「ふふっ、確かに今の怒り方はマザーに似てたわね。あたしとホセは孤児院の出身なの、ホセはしょっちゅうマザーに叱られてたから条件反射みたいなものよ。たまに今でも顔を出すからリカルドとエリアスもマザーを知ってるわ、その内アイルにも紹介するわね」



「うん、私も会ってみたいから楽しみにしてる」



 そう答えるとビビアナは嬉しそうに笑った。

 そうか、だから年齢当てる時に孤児院の話が出たんだ、一緒に育ったからあの時もビビアナが1番ホセを心配してた訳もわかる。



「先にちょっとだけおツマミ準備するから待っててね。ビビアナ、3人にお水飲ませてやってくれる? おツマミが出来たら一緒に飲んでていいから」



「わかったわ」



 2人目の賢者が恐らくドイツ人のアドルフ、何故ドイツ人かと思うのかは名前とその人が広めたソーセージとサラミがドイツ土産で貰った物と凄く似ていたからだ。

 ちなみにチーズの種類が増えたのもその頃らしい、買って来てないけどもしかしたらビールもあるかもしれない。



 サラミがあるから1種類は切るだけでオッケー、あとトマトとモッツァレラチーズ(本当の名前は違うかもしれないけどそう翻訳されてるからきっと同じもの)をスライスしてオリーブオイルと岩塩少々…っと、コレで2種類ね。



 サラダを出しても食べそうに無いけど、スティックサラダなら食べるかな?

 賢者アドルフが伝えたというマヨネーズ自体はあったけど、味見した結果残念ながら美味しいマヨネーズは無かったので手作り、あんな味の薄いマヨネーズはマヨラーとしては認められない。



 卵に『洗浄ウォッシュ』を掛けて鑑定でヤバい菌がついて無いかチェック。

 先に余る分の卵白に塩胡椒で白玉子焼きにチーズを包んで卵黄が無い分のコクをプラス。

 一旦これで凌いでもらおう、いっそおツマミ兼食事にしちゃおうか。

 トレイもカートも無いからお皿を手に持って行くと期待した目で全員が私を見た。



「所詮素人料理なんだからそんなに期待した目で見ないでよ…、プレッシャーじゃない」



 苦笑いをしつつテーブルにフォークと一緒にお皿を置くと、瞬く間に皆の胃袋へ消えて行く。



「うっそ…、あっという間に…。次は少し時間掛かるからね? サラミを追加ですぐ持って来るからゆっくり食べててくれる?」



 口に食べ物が入っているせいで4人は無言で頷いた。

 急いで切ったサラミだけ運んでマヨネーズ作りを急ぐ、大学時代の夏休みに手作りマヨネーズを作ったら卵の味が濃厚で一時期ハマっていたが、体重と直結するので作るのをやめたという苦い思い出。



 ここでなら皆で消費するから少しだけ食べるという事も可能だし、いざとなればストレージに収納して消費期限を気にせず置いておける!

 どうやらストレージは時間が経過しないらしく、解体場で腕熊の身体が死んだばかりの様に温かいとおじさん達が驚いていたのだ。



 マヨネーズを作る間にオーク肉(豚肉より安くて見た目ロース肉)を塩胡椒したら2つのフライパンで焼く。

 マヨネーズが出来てお肉をひっくり返して赤ワインでフランベしたら火を消して蓋を被せて蒸し焼きにしておいて野菜をスティック状にカット。



 お肉が焼けたら食べやすいサイズにカットして買ったパンと一緒に出し、野菜スティックもマヨネーズと共に並べるとビビアナが目を輝かせた。



「凄い、マヨネーズも手作りしちゃうだなんて、本当にマザーみたい! ん~、しかもマザーより美味しいわ! アイルが来てくれて良かった!」



「本当だ、スゲェなアイル! ちっさいマザーみたいだ!」



「ちっさいは余計よ!」



 楽しいからなのか、お酒で笑い上戸になっているのか皆が楽しそうに笑う声を聞きながら私は食事作りを再開する為にキッチンに向かった。



 魔導コンロのお陰で日本と変わりなく料理出来たが、異世界初日でこんなに料理する事になるとは思わなかった。

 しかし醤油と味噌と米は手に入れる事が出来たので私的には満足である。

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