第8話 拠点
ギルド登録してから道々摘み取った薬草も売れ、荷運び報酬と素材の売り上げから保証金の銀貨1枚を返すと手持ちは銀貨7枚と大銅貨8枚になった。
日本円に換算すると7万8千円なので日当と考えればかなり良い稼ぎと言えよう。
特に
私はこれから今夜の宿を探さなきゃいけないので別れを告げようと声を掛けた。
「私は宿を探しに行くからここで別れるね。また会う事があれば声掛けてくれたら嬉しいな。それじゃあね」
何だかんだとこの世界で初めて会った人達だし、良い人なのはもう知ってるからちょっと名残惜しい。
4人は黙って顔を見合わせて何も言わないので寂しく思いながらも歩き出そうとしたらホセが腕を捕まえてきた。
「ちょっと待った! なぁ、アイルは飯を作れるか?」
「は? そりゃあ…、一時期一人暮らししてた時も自炊してたし多少は…」
「なら決まりだな、なっ!?」
ホセは嬉しそうに尻尾を振りながら振り返ってパーティメンバーを見た。
皆ニコニコしながら頷いている、訳が分からず首を傾げているとリカルドが説明してくれた。
「宿代が勿体ないから俺達の家に来ないか? パーティで家を構えているんだ。 それで…宿代代わりに滞在期間は食事を作ってくれると嬉しい。情けない事に俺達皆料理が出来ないんだ。部屋は客室があるからそこを使えばいいし、いつまでいてくれてもいいぞ?」
とても嬉しい申し出だった、しかし仮にも初対面の人達の家に転がり込むのは躊躇われる。
「えっと…「ウチに住むなら時々獣化してやるから撫でてもいいぞ」
「行きます。……ハッ、つい!」
「わははは、決まりだな!」
迷って口籠った瞬間に出されたホセの
「そんな条件でいいの? 変わってるわねぇ…」
「最初に会った時にうっとりしながらオレの身体を撫で回していたからな、好きだろうと思ったんだ」
「人型の時にそんな事言わないで! 私が痴女みたいじゃない!」
「気にしたら負けよ、さ、食材と調味料と食器と調理道具を買いに行きましょ」
ビビアナが肩を組んで誘導した、そして買う物を聞いて全員本当に全く料理が出来ないんだと理解できてしまった。
「アイルが運んでくれたお陰で懐も暖かいからな、好きなだけ買っていいぞ!」
「あっ、家で飲むなら僕もたくさん飲んで良いよね!? いつも店から酔っ払いを運ぶ為に一杯で我慢してるけど!」
リカルドの気前の良い言葉にエリアスが反応した、そしてジト目をホセとビビアナに向ける。
その視線から逃れる様に2人は私の背中を押しながら足早に商店街へと向かった。
調理器具と食器とお酒を買った時点でリカルドとエリアスは荷物を持って先に家へと帰って行き、食材と調味料を買い終わるとホセが全て持って先に帰った。
他に何を買うのかとビビアナを見上げると、綺麗な唇がニンマリと弧を描いた。
「さ、ここからは女の子の時間よ! もう夕方になるから急がなくちゃ。まずは下着ね、あと部屋着と明日からの着替えも必要でしょ?」
バタバタしていてすっかり忘れていた、そういえば町への道中で荷物はストレージに入れてあるのか聞かれて何も持ってないって答えたんだっけ。
女性ならではの心遣いに涙が出そうになって思わず抱きついた。
「ビビアナ、ありがとう、大好き!」
「うふふ、私もアイルが大好きよ、見てて飽きないし可愛いもの」
少々微妙な評価な気もするが大好きと言われたから良しとしよう。
そして下着屋さんで私は2年前に亡くなったという三賢者の最後の1人に感謝した、なんとブラジャーがあったのだ。
金髪碧眼の女性だったという賢者はゴワゴワした下着から女性を解放し、機能的な服装を提案したのが最も有名なエピソードなんだとか。
賢者ソフィア、私もその名を胸に刻みます。
そんなこんなでビビアナと2人楽しく買い物をした、サイズの関係で子供用というのが納得いかなかったけど。
そして影が身長の2倍以上に伸びた頃に家に到着した、日本でそこそこ大きい一戸建ての3倍くらいありそうな立派な家だ。
「ふわぁ…、大きい家…」
「ふふっ、これでも私達はBランクパーティですからね…って、酒臭っ! あいつらもう飲んでるの!?」
玄関を開けた瞬間お酒の臭いがした、ドア越しの玄関ホールにまでこんな臭いがするなんて、どれだけ飲んでるんだろう。
結構な量買ってたから飲み干してるなんて事は無いと思うけど。
そして何と玄関で靴を脱ぐ土足厳禁スタイルだった!
ちゃんと下駄箱があってブーツを収納する為に開けたらエグい臭いがしたけれど。
今度炭でも探して来よう…、そう心に決めてリビングのドアを潜った。
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