第76話 対魔物指導(3日目)

「はい、コレで怪我しそうな衝撃受けそうになったら勝手に障壁が展開されるよ。流石に辺り一帯が吹っ飛ぶ様な衝撃だと1度しか保たないだろうけど」



「ありがとうガブリエル! これなら多少障壁魔法使っても鑑定の魔導具で調べさせたら言い訳が出来るわ」



「え~? そのまま付与した効果使えばいいのに」



「だって何度も使ったら負荷でネックレスが壊れちゃうんでしょ? 気に入ってるし、壊したくないもの」



「アイル…」



 僅かに目を潤ませて喜んでいるが、人からのプレゼントを壊して平然と出来る程私は図太く無い。

 今日は近場とはいえ遠征に行くのでトラブル回避の為にガブリエルがプレゼントしてくれたネックレスの魔石に障壁魔法を付与してもらったのだ。

 魔導期時代の鑑定魔導具を使えば付与した人までわかってしまうらしいのでガブリエルにお願いする事に。



「あらぁ、アイルったら、そういう時はガブリエルにつけてもらうべきよ? うふふふふ」



 ネックレスを受け取ってつけていたら出掛ける準備を済ませたビビアナが玄関に来た。

 昨日の帰りからずっと上機嫌なのだ、好みの男性が3人も見つかって、しかも食事の約束までしているみたいだし。



 昨夜一緒にお風呂に入ったから見てしまった、お風呂上がりにビビアナが身につけた紫の総レースという勝負下着を。

 寝る時はナイトブラなので見てないけど、きっと今はセットのブラをつけている事だろう。



 今日のビビアナの服装は白いシャツの上に皮の胸当て、下は黒い皮のパンツなので腰からお尻のラインがとても魅惑的だ。

 セクハラ親父が居たら無意識にお尻を撫でてしまうレベルだと思う。



 とは言っても上からコートを着るから隠れるんだけどね、きっとデートで上着を脱ぐというシチュエーションの為とみた。

 ちなみに私は愛用の皮の胸当てをしていない、障壁魔法の付与されたネックレスもあるし、ちょっと皮の胸当てがキツくなってきたしね!

 つるぺたフォルムが恥ずかしいとかじゃないから、本当に!!



 皆が集まり、遠征の為いつもとは違い馬に乗って移動する、もちろん私は定位置のホセの前だけど。

 街中なので馬車と同じ速度で進む為、いつもの様に騎士団の前でガブリエルを乗せた馬車に手を振り見送った。



 総勢81人の騎士団と合流して山へと移動し、普段活動する10人の小隊を作って山へと入る。

 馬は麓に待機でエリアスが見張りをしてくれる、後発の昼食係が到着したらそこで準備をしてくれるそうだ。

 山には私達に馴染みの深い角兎ホーンラビット赤猪レッドボアはどこにでも居るらしく何度か遭遇したので小隊の良い練習になった。



 経験者グループに入っていたヘルマンも角兎程度なら余裕らしく危なげ無く動けていた。

 全グループが小物を討伐経験したので下山しようとしたら私が初めて見る狂い猿マッドエイプという魔物に遭遇してしまった。



 狂い猿はその名の通り狂った様に群れで攻撃してくるのでかなり面倒な魔物だ。

 しかも人間を食料として見る為、涎をダラダラ垂らしながら襲ってくるから見た目も気持ち悪い。



 最初パニックを起こした騎士達だったが、リカルドの一喝で多少落ち着きを取り戻したので私達が指示を出しながら何とか殲滅出来た。

 コレ騎士だけで来てたらかなりの被害が出たと思う、弓使いはつがえて放つまでの間に襲われた者多数。

 ビビアナは瞬時に急所を射抜く腕があるので無傷だったけど。



 無手の者達はホセがフォローしたのと元々喧嘩慣れしている者が多かったのであまり問題無かった。

 槍使いは乱戦状態だったせいなのか、戦闘慣れしてないせいかわからないけど弓使いの次にボロボロだった。

 そしてリカルドのお陰で士気が高かった為か、剣で応戦した者は比較的楽に戦えていた様で殲滅後に自信を持てた様だ。



 まぁ、逃げ出した者が居なかっただけ良かったのかもしれない。

 私も弓使い達を助ける為に手持ちの投擲武器は全て使ってしまったので血塗れの棒手裏剣と投擲ナイフを探して回収していった。

 仲間だけならすぐに洗浄魔法で綺麗に出来るが、今回はそのままバッグ経由でストレージへ入れるしかない。



 ちなみに討伐した魔物は小隊長が持ってるマジックバッグに全て収納された。

 エリアスの待つ麓に戻ると美味しそうな食事が出来上がっていて、無傷な者や料理人と共に来た治癒師の手当てが終わった者から食事をしていった。



 幸い大怪我をした者は居なかったが、それなりに疲弊したということでこのまま戻り、明日の午後から訓練という予定に。

 その事でニンマリと笑ったのはビビアナだった。



 ガブリエルの屋敷に帰ってすぐ自室で投擲武器に洗浄魔法を掛けていたらスカート姿のビビアナが現れて洗浄魔法を掛けて欲しいと頼まれて実行する。

 洗浄魔法を掛けた時に気付いたが、シャツにほんのりピンク色が透けて見えた。

 冬服のシャツ越しに見えてピンクという事は赤い下着だろうか、どちらにしても気合いが入っている事は伝わって来た。

 ご機嫌なビビアナを見送り、私は武器の手入れを続けた。




[デート現場 side]



 ビビアナが指定した食堂兼酒場に体格の良い美丈夫が1人エールを煽っていた、「先に飲んで待ってて」そう言われて飲まずに待っていたが、緊張のせいかどうにも喉が乾いてつい飲んでしまったのだ。



 昨日食事に誘われたのに今日の遠征中は何事も無かったかの様にアッサリとした対応しかされず、誘われたのは何かの間違いだったのではと思っていたら帰りに艶やかな笑みと共に店を指定されて気が付いたら頷いていた。



「お待たせ、セシリオ」



 そう言ってコートを脱いだビビアナの姿に返事をするのも忘れて見惚れる。

 昼間はコートが翻る度に悩ましい腰のラインが見えていたが、今はどちらかというと清楚なシャツと長いスカート姿で可憐な印象だった。

 薄っすらと下着らしきものが透けて見える気がするが、それを指摘していいものかどうか迷いつつ思わず視線を逸らす。



「お腹空いたでしょ、食事を注文しましょ。私もエールを頼もうかしら」



 冒険者の割には粗野でも無く、食事の仕方も綺麗で時々唇についたソースを舐め取る赤い舌に目を奪われてしまう。

 ろくに面白い会話も出来ない無骨なセシリオとの会話でとても楽しそうに笑うビビアナに心惹かれるのに時間は掛からなかった。



 食事を済ませて店を出ると、滞在先である伯爵家に送りながら名残り惜しくて自然と歩みが遅くなる。

 その時ビビアナが少しフラつき、セシリオは咄嗟に腕を伸ばして支えた。

 その腕にふにゅりと当たる柔らかな感触に動揺していたらビビアナがポツリと寂しげに呟いた。



「もう少し…一緒に居たい…な。あ、そこの店で少し飲み直しましょ?」



 ビビアナが指差したのは2階が宿になっている酒場、しかもデートの定番で使われるという無骨なセシリオには縁の無かったしっとりした雰囲気の店である。



 雰囲気に飲まれ緊張で喉が乾いてしまい、気が付くとセシリオ1人でワインのボトルを1本空けていた。

 立ち上がって初めて足元が覚束ない事に気付いたが、ビビアナも酔っているのか楽しげに笑いながら部屋で休んでから帰ればいいと言うのでボヤけた頭で言う事に従った。



「あはは、あたしも酔ったみたい…、ちょっと座って休もうっと…あっ」



 薄暗い部屋に辿り着き、肩を貸していたビビアナがよろけた事によってセシリオがビビアナに覆い被さる形でベッドに倒れ込んでしまった。

 慌てて起きあがろうとしたがビビアナの両腕が首に回され、不意に唇に柔らかいものが触れる。

 酒が回って遅い思考が更に遅くなり、その間に2度、3度と柔らかいものが触れ、熱いものが唇をなぞった。




「うふふ、セシリオの唇…ワインの味がするわ…美味しい…」



 口付けを交わしたと理解するのと同時に口内に入り込んで来たビビアナの熱い舌に、セシリオは己の理性が切れる音を聞いた気がした。

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