第75話 対魔物指導(2日目)

 指導役2日目の朝、馬車の中でビビアナがシャツの3つめのボタンを留めたり外したりを繰り返していた。



「どうしたの? ビビアナ」



「う~ん、好みの男が居たのはいいんだけど、リカルドのグループに居るのよね~。だからアピールの為にも見せるべきか、訓練中は側に居ないから隠すべきか迷ってるの」



 そんなビビアナの言葉に男性陣は聞こえないフリをして目を合わせようとしない。



「ビビアナ、私の国にはチラリズムという言葉があるの。常に見えているものより一瞬だけチラリと見える方が惹きつけられる事らしいんだけど、例えるなら娼婦の露出度の高い姿より貞淑そうなキッチリした長いドレスが風に煽られて一瞬見える脹脛ふくらはぎの方が…ってやつ。あとは隠されると見たくなるっていう考えもあるし、隠しておいた方が興味を引けるかもよ?」



「なるほど…」



 そう呟いてビビアナはボタンを2つ留める。

 私が聞いたのは常に見えてるミニスカの太腿より浴衣姿の脹脛だったけど、わかりやすく異世界版の説明にしてみた。

 ボタンを留めるのを推奨したのは比べられるのが嫌とかじゃない、何故ならビビアナの胸はボタンを留めたくらいで隠せるボリュームでは無いから。



「そんな言葉、サブローから聞いた事ないなぁ。新しい言葉なのかな?」



「私が産まれる前からあったけど、賢者サブローが転移した後かも」



 さっきまで知らんぷりしていた男性陣は興味深そうにこちらを見ていた、とてもわかりやすい人達である。

 ガブリエルはただの興味っぽいけど。



 そうこうしている内に騎士団に着き、馬車を降りる前に身体強化を掛けてから受付をして訓練場へと向かう。

 そして挨拶の後各自移動してしまうと残される私と小隊長。



「隊長さん、私は何をしようか? 教えるって程の腕じゃないけどホセと同じ無手グループかな…」



「いやいや、アイル殿の昨日の模擬戦は素晴らしかった。チームでローテーションを組ませて是非ともまた魔物役をお願いしたい」



 ニコニコしながら言っているが、嫌がらせだよね?

 トレラーガでやり込められた腹いせに私を疲れさせて痛めつけようって魂胆でしょ。



「いえいえ、昨日も模擬戦をしていて思ったんだけど、魔物役をしても所詮は対人戦という事に変わらないから短期の遠征で訓練した方が良いかと…、うふふふ」



 お互いの背後に狐と狸の幻影が見えそうな白々しい遣り取りをしていたらリカルドが戻って来た。



「隊長殿、どうも魔物自体を見た事が無い者がそれなりの数居るせいか心構えというか色々足りない様だ。魔物をイメージしながら陣形を崩さない様に囲むとか次の行動に移る時の予測とか全く出来ていない、一度弱くてもいいから実際に魔物と戦わせた方が良いと思う」



「オレもそう思うぜ~!」



 リカルドの声が聞こえたのか離れた場所にいるホセも大声で同意した。

 話し合いの結果、翌日に魔物との戦闘経験者と未経験者のグループに分けて先に経験者グループが私達の指示を受けながら手本を見せて、次に未経験グループが実際に戦う事になった。



 王都から港町方面に馬で3時間程行くと魔物が出る山があるらしい。

 とりあえず黒い悪魔ヤツは出ないらしいので私は胸を撫で下ろした。



 そんな訳で急遽未経験グループを全員集め、1番詳しいエリアス先生の魔物講座が開かれる事になった。

 私が先生役をできれば良かったが、普段相対する魔物に関してはかなり詳しくなったけど知らない魔物もまだまだ居る様だ。



 そんな訳で経験者グループは明日の為に作戦会議をして、その後シミュレーションをする事になった。

 魔物役? 近い動きが出来るからと私とホセがやりましたけど何か?



 捻挫や打撲、擦り傷やちょっとした切り傷はポーションで治るらしく多少の怪我はさせても構わないと言われたので危機感を持って貰う為にも攻撃は武器を使わない代わりに手加減無しでやらせてもらった、ホセは思いっきり手加減してたけど。



 それでもそれなりに怪我人が出て治癒師が呼ばれた、治癒師は診断医に近い扱いらしい。

 怪我の度合いを見てどのランクのポーションを使うか決め、ポーションを必要としない程度であれば普通に手当するといった感じだ。



 ポーションは魔導期であればエリクサーと呼ばれる部位欠損も治す最上級の物や、瀕死であっても怪我を治す上級もあったが、今では内臓が傷付けば半々の確率で死んでしまう中級以下しか作れない。

 何故なら上級以上は治癒魔法と錬金術の両方必要なんだと以前ガブリエルに教えてもらった。

 中級以下であれば魔導具を使えば作れる。



 話が逸れたが模擬戦の時にビビアナが「体格のいい人は丈夫だからアイルならそんなに手加減しなくても大丈夫よ」と言ったので数人結構派手に吹っ飛ばしてしまった。

 たまにすぐに動けないくらいダメージを与えてしまったが、リカルドやビビアナが治癒師の所まで肩を貸して移動させてくれていた。



 そしてビビアナに目を付けられた人達とやらはすぐにわかった、なぜなら肩を貸す時に態と胸が触れる様に身を寄せるせいで顔が真っ赤に染まっているのだ。

 移動中なにやら会話していた様なので連絡先でも交換したのかな?



 そんな事を帰りの馬車で聞いたら明日、明後日、明々後日の3日連続で1人ずつ夕食を食べる約束をしたらしい。



「その3日間は夜帰って来なくても心配しなくていいからね」



 そう言って綺麗なウィンクをしたビビアナはとってもイキイキしていた。

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