第77話 ビビアナのデート報告

 明け方、お酒臭いビビアナが私のベッドに入り込んでムフフと笑いながら「朝食はいらないって伝えて」と言って眠ってしまった。

 そして朝食の後に庭を散歩して戻るとお肌がツヤツヤでニコニコのビビアナが待っていた。



「やっぱりあのルートにして正解だったわ、食事の後数分考える時間があってから酒場兼宿屋がある場所をちゃんと探して良かった!」



「態々事前に調べたの…?」



 クゥと可愛い音が聞こえたのでストレージから出したシンプルな塩おにぎりを手渡しながら聞くと、ビビアナはニンマリと笑った。



「当然よ、ちゃんと3人分ね! 同じ店使うと混同しちゃうかもしれないし、全部店ごとの名物があるところだから「一緒に行った店の名物なんだっけ?」って言えばどの店か忘れてもわかるでしょ?」



「計画的だねぇ」



「まぁね! それにしても下着を赤に変えて正解だったわ、昼間に戦闘で高揚した時に血を見ているせいかセシリオったら下着を見た途端凄く興奮しちゃって…!」



 いや、それは赤い下着だからとかじゃなくて刺激的なデザインの下着だからだと思うけど、それに服越しに微妙に透けてたものがハッキリ見えたというのもあるかも?



「しかも初めてなだけあって凄く辿々しい手つきで可愛くって! 下着を脱がす時なんて手が震えてたのよ! 堪らないわ~!」



「は、初めてだったの!? 20歳くらいだったよね!?」



 てっきり騎士だし娼館とか先輩に連れていかれたりするものだと思ってたから驚いた。



「セシリオったら身長伸びるのが早くて15歳の頃には今と変わらない2mになってたんですって、だから娼婦に怖がられるんじゃないかと思ったら娼館に行けなかったとか…っ、可愛過ぎると思わない!?」



「それはまた…繊細な人だね」



「でしょ? 全部初めてだからひとつひとつ手取り足取り腰取り優しく教えてあげたわよぅ、言われた事は素直にシてくれるし素敵な夜だった…。騎士って体力があるからちょっと大変だったけどね、うふふ」



 午前中はそんな感じでフワフワしていたビビアナだったが、騎士団で指導している時はいつものカッコ良いビビアナに戻っていた。

 そしてその日の訓練が終わり、そのまま約束の場所に向かうからと馬車の中で洗浄魔法を掛けあげると途中で降りて待ち合わせに向かった。



 日が沈み、私達もガブリエルの屋敷で夕食を済ませてリビングで談笑していたら不機嫌なビビアナが帰って来て、皆に一緒にお酒を飲んでと要求し、酒盛りが始まる。

 私以外がお酒に口をつけるとビビアナの不機嫌の理由が語られた。



「信じられる!? 婚約者が居るのに女と2人っきりで会うだけじゃなく、初夜で恥をかかない様に相手して欲しいだなんて! そんなの婚約者が知ったらどう思うのかなんて全く考えてないじゃない!」



「バカな奴もいるもんだなぁ、怒鳴りつけてやったのか? 筆下ろしなんざ娼館で済ませろってな、ははは」



「まさか、明日も会うのよ? 優しく微笑んでそんな事を婚約者が知ったら浮気だと思うから、そういう時は専門家である娼婦から学んだ方が良いわよって言ってあげたわ。その方が婚約者が知ったとしてもあくまで商売の関係しかないもの、私は人のモノに手を出す程飢えてないのよ!」



「ふっ、ビビアナはそういうところがハッキリしているから安心だな。誰かの様に修羅場に巻き込んでくる心配が無い」



 女慣れしてなくても女性に対してクズな男っているんだなぁなどと思っていたら、チラリと向けられた視線にエリアスが慌てる。



「ちょ…っ、リカルド!? アレは相手が恋人が居るって言わなかったせいだからね!? しかもあの男が勝手に僕とリカルドを間違えただけで…」



「人族ってよくそんな風に好きだの嫌いだの騒げるよねぇ…。その気持ちさっぱり理解出来ないよ」



 話を聞いていたガブリエルが呟いた言葉にラファエルも同意して頷いている。



「じゃあガブリエルもラファエルも初恋すらまだなの?」



 素朴な疑問をぶつけてみたら、2人は顔を見合わせてから頷いた。

 そりゃあいくら長生きな種族とはいえ数が減るわけだよ…。



「元々私がエルフの里を飛び出したのもまだ60歳だったのにいい加減に結婚しろとか子孫残せとか周りが煩く言って来たからなんだよね」



 60歳で「まだ」なんだ…、流石エルフ。

 結局ヤケ酒によりビビアナが寝落ちするまで酒盛りが続いたので、皆が寝たのは日付けが変わる頃だった。



 翌朝二日酔いのビビアナに解毒魔法を掛けて騎士団に向かった。

 そしてやはり騎士団では昨夜の事が嘘の様にいつものビビアナだった。

 訓練が終わり、またいそいそと馬車を途中下車して行ったが、私がお風呂から出てさぁ寝ようという時にガックリとして帰って来た。



 そしてビビアナに頼まれてお風呂を付き合う事に。

 脱衣所までコートを脱がなかったので不思議に思っていたら、中のシャツは破れてボタンもいくつか取れていた。

 ビビアナは何度もため息を吐きながら頭や身体を洗い終えると湯船に浸かってポツリポツリと話し出す。



「ってな感じで部屋へは自然に連れ込めたのよ、そしたらいきなり豹変しちゃって…あれは素人童貞ってやつね」



 妙に自信を持ってキッパリと言い切った。

 のぼせそうになり湯船の縁に腰掛けて話の続きを促す。



「どうしてそう思うの?」



「私が行きつけの店に娼館御用達の店があるのよ、そこの店主が色々聞いた話を面白可笑しく教えてくれるんだけど、部屋に入った途端お金払ってるからと何でも許されると勘違いした客が豹変する場合もあるんですって。そういう客は自分がやりたい事だけやって娼婦の言葉なんて聞いてくれない下手な奴ばかりらしいわ」



「よくそんな人相手に帰って来れたね、殴り倒して来たの?」



「んふっ、似た様なものね。怖がって暴れるフリして金的に一撃喰らわせてやったわ! シャツも破いた訳だし当然の報いね、娼館のオプションじゃあるまいし。蹲ってる間に「あたしそんなつもりじゃ無かったの…、なのに急にこんなの…怖かった…っ。今日の事は無かった事にするからもう話しかけないで」って言って復活する前に帰ってきたの」



 セリフを言っている間は悲しそうに口元を手で押さえる演技をしていたけど、蹲ってる間は見る余裕も無かったと思うな。

 しかも暗にバラされたくなければもう話しかけるなって言ってきたんだね。

 ひと通り愚痴ってスッキリしたのか、その日は1杯の寝酒だけですぐに寝室へと入って行った。

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