第161話 料理ストック

「姿見はあっちにあるからしっかり確認してくると良い」



 ブラス親方が親指で店の片隅にある姿見を差した。

 不思議な光沢で光の加減で色が違って見える、鑑定すると虹蛇レインボーパイソンという魔物らしい、そのまんまかーい!



 だけど何色の服にも合わせ易そうだし、今までのつるペタフォルムに比べたら女性らしいラインがわかって良い感じじゃない?

 身体を捻ったりして動き易さとシルエットを確認しながら鏡の前でクルクルしてたらホセに声を掛けられた。



「アイル、オレのブーツ出してくれ」



「はぁい」



 カミロは棒手裏剣製作の為に居ないので、隠す事無くストレージから店のカウンターの上にホセの靴を出した。



「むぅ、やっぱり靴底は交換だな、こいつは加工したらボロボロになっちまう。でもまぁ、5日もありゃ2人分出来上がるだろ。他に防具や武器は要らねぇか?」



「ホセはガントレットっていうか、籠手みたいなのは着けないの? 便利そうなのに」



 基本的にホセは防具も武器も必要としない、頑丈な身体が武器であり防具なのだ。




「ああ、前に試した事はあるんだけどよ、やっぱ自分の思った通りの動きじゃなくなっちまうんだよな。装備で締め付けられて腕というより筋肉の動きを阻害されるって感じだな、かと言って緩めにしたらズレるし邪魔くせぇんだよ」



「へぇ」



 普段は大蜘蛛ビッグスパイダーの素材で作られる服のフィット感に慣れてるから装備が動くのが許せないんだろうか。

 筋肉付いてるから冬でも私から見るとかなり薄着だし、何なら裸族スタイルでも世間が許せば実行してるのかもしれない。



 かく言う私も暗器使いという設定上、防具は最低限しか着けて無い。

 服も袖口も少しゆったりしたものを着ている、一応行きつけの服屋で小悪魔美女スタイルや腕に棒手裏剣を隠す時に使ってるという設定で大蜘蛛素材の伸縮性のバンドを作って貰ってストレージにいれてあるのだ。



 しかし袖に手を突っ込んで腕を撫で回したり、太腿を撫で回す様な人が居ない限りバレないので一応持っているだけになっているけど。

 持ち帰る分の装備はストレージに入れ、親方に材料分の前金と持ち帰る装備の代金を渡して工房を出た。



「さて、また家を空ける事になりそうだし、暫くは食材買い込んで料理のストック作らないと。ホセ、お手伝いよろしくね!」



「いいぜ、その代わり今日の夕食はボアの食べ比べな」



「わかった、やっぱりステーキにするのが1番違いがわかるかな…、それとも串焼きにしておけば出先でも食べやすいから大量に作っておくか…」



「串焼きの方が食い易くはあるな、ステーキだといちいち切り分けなきゃなんねぇし」



「じゃあ竹串も買い足そう、先に調理器具の店に行こうか。赤鎧茹でるのに更に大きい寸胴鍋も欲しかったし…ふひひひひ」



「お前…、赤鎧に関しては目付きがヤバくなるな、ちょっと怖ぇ」



「や、やだなぁ。そりゃ好物ではあるけどそんな事は無いで「あるっての」



 ジトリとしたホセの視線に私の目が勝手に逃げた。

 だってカニといえば高級食材って真っ先に考えちゃうから多少は仕方ないと思うの、しかも近いとはいえ海を渡った外国の期間限定の味覚と来たら…ねぇ?



 そのまま私達は迷惑にならない程度に食材を買い占め、ホクホク顔で家に帰った。

 夕食までは頑張って色々料理を作りまくる、夜寝る以外身体を休めて無いからちょっとキツいけど、今夜は部屋で飲むつもりだ。



 明日の朝はゆっくりする為、朝ごはんとお昼は各自で済ませてもらおう。

 リカルドとビビアナは出掛けていたので二日酔いから復活したエリアスを捕まえて調理を開始した。



 最近は皆BLTサンドマラソンに懲りたのか、消費が減っているので今回の遠征では作る予定は無い。

 唐揚げだけは不動の人気なので遠出する時は毎回作っているけど。



 とりあえず大丈夫だとは思うけど、万が一ホセに迷惑掛けた時の為にカボチャのコロッケを作っておこう。

 揚げ物カテゴリーで後は…ついでに普通のコロッケとメンチカツでしょ、フライドポテトもあった方が良いよね、あっ、今夜のおつまみに揚げパスタの塩コンソメ味も作らなきゃ。



 エリアスとホセには材料のカットを頼み、私はコロッケ作りを開始した。

 コロッケだけはしっかり水分飛ばしたり、タネを冷ましたりとコツを知っていないと揚げてる時に破裂するので毎回1人で作る。



 タネを冷ましている間にホセが切ってくれた食べ比べ用ボア肉を串に刺したり、エリアスが切ってくれた鶏肉に下味をつけておいた。

 肉を切り終わった2人には、コロッケとメンチカツのタネをバッター液に潜らせる係と衣係に任命して揚げ物マラソンが開催された。



 時々火の通りや味見という事で数個が消えたが、お手伝いの対価としてなので問題は無い。

 最後に揚げた唐揚げはストレージに収納する時に妙に少なくなっていた気がするけど。



 料理に夢中になっていたらいつの間にか帰っていたリカルドとビビアナが厨房を覗いていた。

 家の中に香りが充満していて我慢出来なくなったらしい。

 時間的にも丁度良かったので、ホセとエリアスにサラダ作りをお願いして今夜の主役である肉串を焼き始めた。



 夕食時には常に熱々が食べれる様に10本単位でストレージから出しながら食べてもらう。

 ホセは楽しみにしていた食べ比べだというのに、エリアスと共にあまり肉串を食べなかったのでジトリとした視線を向けると、2人はそっと目を逸らした。

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