第162話 独り酒

「じゃ、私は先にお風呂に入って部屋で独り酒と洒落込むから、食器類は明日片付けるからそのまま置いといてもいいからね」



 食事の延長で皆をお酒飲んでいたので、リビングにおつまみ系のおかずを残して片付けた。



「アイルもここで飲めばいいじゃない、1人で飲むなんてつまらないでしょ? あたしはアイルと飲むの楽しいから好きなのに~」



 既にほろ酔いのビビアナが隣に座れとばかりに絨毯を叩いた。



「私がいたら思い切り酔えないでしょ、たまには独りで飲むのもオツなものなんだよ?」



 さりげなく自分用のおつまみを小分けにして既に準備してあるのだ。

 食後すぐにお風呂に入るのはどうかと思うけど、飲みたいという気持ちが私の背中を押すのでそそくさとリビングを出た。



 今夜は日本を再現しつつ飲もうと決めていたので、お風呂上がりに敢えて濡れ髪のまま肩にタオルを掛けて自室に引き篭もる。

 自室で独り酒の何が良いって、完全に気を抜いたパジャマにノーブラで許されるって事だよね!

 大蜘蛛ビッグスパイダーの素材を使ったブラジャーを外して畳むと枕元に置いた、宿屋では許されない開放感。



 ローテーブルにグラスと氷とアイルコレクションのお酒を並べ、おつまみも各種出すと1m×50㎝くらいのテーブルが殆ど見えなくなった。

 ベッドを背もたれにしてまずは唐揚げとビールのマリアージュをば。



「……ンッ、ンッ、ンッ、ぷはぁっ。最高か! これでテレビがあれば完璧なのになぁ、それかスマホ。まぁ本を読みながらってのも好きだけど漫画は無いし、小説もこっちの世界のは地名とか名前が覚えにくいんだよね~」



 ブツブツと文句を言いつつビールを飲み干すと、新しいグラスにウィスキーをロックで準備、新品の瓶だと注ぐ時にトクトクと良い音がするから好き、これ合うのは砂肝かなぁ。

 晩酌の為に夕食は控えめにしたもんね、砂肝の塩胡椒炒めの独特な食感を楽しんでグラスを傾けると、アルコール度数が高いお酒の灼ける様な感覚を楽しむ。

 グラスをテーブルに置くと、溶け掛けた氷にヒビが入りパキリと心地良い音が鳴った。



「ヤバい…、幸せ…っ」



 間に揚げパスタをポリポリ、う~ん、やっぱり肉の方が合うかなぁ。

 これにはもうちょい甘めのお酒が良いかも、イタリアンレストランでビールとセットで出てきたヤツだからビールに合うのは間違い無いんだけど。

 炭酸系のお酒を飲むと量が飲めなくなるからなぁ、あ、もう無い、次は何飲もうかな。



「にゃははは、3杯以上飲んでも怒られにゃ~い、独り酒シャイコー! ヌゥ、このウィシュキーはちょっとヨードが強い…、好みじゃにゃいからしょっとリビングの共有コレクションに混じぇておこう。(3杯以上飲んでも怒られな〜い、独り酒最高ー! ヌゥ、このウィスキーはちょっとヨードが強い…、好みじゃないからそっとリビングの共有コレクションに混ぜておこう)ふぅ…ちょ~っと飲み過ぎたかなぁ、トイレトイレ~、おっと、結構足にキてるなぁ、冷酒と親の言う事は後から効くってね~、わらしのばぁいはむしろおばあちゃんらけろ…(私の場合は寧ろおばあちゃんだけど…)」



[リビング side]



「ふふっ、アイルが居ないからってホセったら酔い潰れてるじゃない。普段は心配で潰れてる場合じゃ無いからかしら?」



 パーティで最も酒に強いビビアナはブランデーのストレートを片手にソファで眠ってしまったホセを見て笑っている。

 アイルが作ってくれた氷は使い果たしてしまったので冷蔵庫に取りに行けば良いのだが、それぞれ酔いが回って動くのが億劫になっていた。



「あはは~、家の中だと喧嘩売られたり買ったりしないから安心して飲めるしね。でもアイルが居た方が楽しくて僕は好きだな」



 そう言うエリアスもアイルの観察をしてないせいかいつもより多めに飲んで赤い顔をしている。

 既に真っ直ぐ座っていられなくて、ホセの寝ているソファを背もたれにして不自然な程ニコニコと笑みを浮かべた違う事なき酔っ払いだ。



「結局どの肉が最高かは決着がつかなかったな。人の好みは千差万別というやつか…」



「あはは、リカルド、その話もう3回目だよ~? そう見えないけどかなり酔ってるよね?」



「ん? そうか? それじゃあそろそろ寝るとしよう、部屋に戻る。おやすみ」



「「おやすみ」」



 しっかり酔っているはずなのにフラつきもせず立ち上がってリビングを出て行くリカルド。

 階段を上がって自室へ向かおうとした時、視界の端に信じられないモノが見えた。



「アイル!?」



 廊下で倒れているアイルは、倒れている方向からすると自室に戻ろうとしていたというのはわかった。

 実際トイレに行った帰りに睡魔に負けてヘタり込んだまま眠ってしまったのだ。



 トイレの帰りなので少し体温が下がった分身体を丸めていただけなのだが、そんな事とは知らないリカルドは酔いが吹き飛ぶ程に驚き、アイルが倒れていた事を知らずに呑気に飲んでいた自分を責めた。

 早く浅い呼吸に赤い顔、冷静に考えればお酒を飲んでいたせいだとわかるのだが、酔いが吹き飛んだとはいえアルコールが完全に抜けた訳では無い。



 いつもより鈍い思考である事に本人は気付かず、慌てて抱き上げアイルの部屋に向かい、ベッドに寝かせた。

 が、寒くて縮こまっていたアイルからしたら熱源が離れて行く事を良しとせず、しっかりと抱きついて離れない。



「アイル? 離してくれないか? ちゃんと眠れないだろう?」



「やらぁ…、しゃむいもん…(やだぁ…、寒いもん)」



 寝惚けた状態のアイルをベッド降ろして腰を曲げた状態で暫し悩むリカルド、結局眠ったら離れるだろうと一緒にベッドに転がる。

 地元のシドニア領の宿屋でも一緒のベッドで寝たし、アイルも気にしないだろう、そう思って少しだけ目を閉じた。



 翌朝、腕の中に柔らかな人肌がある事に気付いたリカルドは、一瞬昨夜は娼館に来ただろうかと目を閉じたまま寝起きのぼんやりした頭で考えた。

 抱き締めている事で布越しに自身の身体に触れている双丘や身体の大きさが普段買っている娼婦にしては控えめな気がして目を開ける。



「……ッ!?」



 視界に入った黒髪で瞬時に昨夜の出来事を思い出した、娼館に居ると思い込んで朝から楽しもうなどと考えなくて良かったと心の底から安堵の息を吐く。

 アイルを起こさない様にそっと身体を離すと首元の隙間から日頃から本人が「まだ育つ」と主張しているモノが見えてしまった。



 ビビアナに比べたら可愛いものだが、確かにリカルドの服の中で涎を垂らして寝ていた頃に比べたら確実に成長している。

 そんな考えが過ったが頭を振って考えを追い出し、アイルの部屋から脱出した。

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