第407話 ホセって実は…
「僕はさぁ、自分の子供には幼い頃から苦労はさせたく無いんだよね…。僕が家を出たのだって家は狭いのに兄弟が増えるから口減らしのつもりだったしさ。まぁ元々冒険者に憧れてたってのもあるんだけど…」
エリアスが酔っている、いつもはかなり飲んでもほろ酔い程度なのに珍しい。
思ってるより精神的にショックを受けていたのかもしれない、落ち込んでる時にだけグダグダになっちゃう人っているもんね。
私はというと、おじいちゃんと一緒に寝る約束をしたのでネックレスをおじいちゃんに預けてウォッカとオレンジジュースで作ったスクリュードライバーをちびりちびりと飲んでいる。
「まぁ子供だけ作って放置したら子供もレミエルも可哀想だもんね。だからと言って結婚したいくらいレミエルが好きかって聞かれても知り合ったばかりだからすぐには答えられないよねぇ…」
「アイルわかってくれる!? 交際0日で結婚って、貴族じゃないんだからさぁ」
「貴族でも大抵婚約期間は1年程あるぞ」
「ビルデオではそこまで婚約期間は決まって無いが、胎に子が居ない事を確認する為に3ヶ月程相手の家で過ごすぞ」
「タリファスとビルデオだと文化が違うんだね、国も違うし3ヶ月もかかる距離があるから当たり前か」
「ほらぁ、貴族ですらしっかりお互いを知る期間があるじゃないか!」
リカルドとおじいちゃんの説明に頷いていたらエリアスが荒ぶり出した。
「エリアスって酔っ払うと駄々っ子みたいになるんだね」
「いつもアイルの方が先に酔っ払うから初めて見るんだね、俺ですら何回か見てるのに、あはは」
エンリケに笑われてしまった、確かにこの世界に来たばかりの時に酔い潰れてる姿は見た事あるけど、それ以降見た記憶が無いかも。
「へっ、どれだけ酔ったとしてもエリアスはお前よりはマシな酔い方だから問題ねぇよ」
ホセが鼻で笑ってブランデーを飲み干した、おじいちゃんに叱られたせいかやさぐれている様に見えるのは気のせいだろうか。
あれ? 褐色の肌でもハッキリわかるくらい赤くなってるって事は結構ホセも酔ってる?
「も~、エリアスが羨ましいなら娼館に行って美人に相手してもらえば良いでしょ」
「娼婦じゃねぇ女ってのが良いんじゃねぇか、それともお前が相手してくれるのか?」
「「「「ホセ!?」」」」
酔って口が滑ったのだろう、エリアスですら一瞬で酔いが覚めたのか皆と同時に驚きの声を上げた。
「ホセ…、酔ってるからって言って良い事と悪い事があるんだよ…? さぁ、目を瞑って歯を食いしばろうか『
私は立ち上がるとホセの胸ぐらを掴んで拳を握った。
「ア、アイル! そろそろ寝よう! 夏は体力を消耗するせいか眠くなるのが早くてな、それとも冬毛ではなくなった私と寝るのはやめておくか!?」
「そんな事ないよおじいちゃん! 冬毛じゃくてもおじいちゃんの毛並みは最高だからね!! 今寝よう、すぐ寝よう、これから寝よう!」
私はペイっとホセを放り出しておじいちゃんに抱きついた。
ベシャッと倒れたホセを振り返るとそのまま寝ていた、ブランデーの瓶が空になっているところを見るとかなり飲んだ様だ。
「リカルド、ここは頼んだぞ」
「わかった、おじいさんもアイルをよろしく、おやすみ」
「ああ、おやすみ」
何だか戦友が
しかしそんな事よりおじいちゃんのモフりタイムの方が大事だ、この為に2杯で我慢したのだから。
「皆おやすみ~」
私の部屋へ移動したので洗浄魔法で綺麗にした、リビングの男性陣はエンリケが洗浄魔法を掛けてくれるだろう。
「アイルは夜着に着替えておくといい、私も服を脱いで獣化してくるからドアは少し開けておいてくれるか?」
「うん、わかった!」
頭を撫でておじいちゃんは私の部屋を出て行った、ドアは獣化したおじいちゃんの前足が1本入る程度の隙間が残されている。
おじいちゃんと寝る時は夏でも長袖のパジャマだ、1度エドが最初にくれたパジャマで寝ようとしたら男の前でそんな肌を見せた姿で寝てはいけないと注意されたのだ。
誰かさんと違って本当に紳士だよね。
数分後、パタンとドアが閉まる音に振り向くと獣化したおじいちゃんが居た。
冬毛ではなくなっているけど、ホセの冬毛より毛が長いくらいなのでウチで暮らす様になって毛並みが良くなった分、触り心地も抜群なのだ。
そんなおじいちゃんの毛並みを堪能した翌朝、私はホセの言葉を思い出してムカつきながら朝食の準備をしていた。
孤児院の3人には私が居る間は9時くらいから来る様に言ってある、朝は大したもの作らないし。
ホセへの報復を考えていたらエリアスが台所に顔を出した。
その顔は昨日と打って変わって機嫌が良さそうである。
「おはようアイル」
「おはよう、何かいい事でもあったの?」
「いやぁ…、昨夜あれから途中でホセが起きてね、寝ぼけてる間に聞いちゃったんだ。コレを聞いたらアイルも昨夜のホセの発言を許せるかもしれないよ」
「えぇ~? 何を聞いたの?」
「それがね…ホセって娼婦以外相手にした事ないから僕が羨ましかったみたい、プクク」
それってホセは素人童て…。
「ぶふっ、…ククッ、そ、それなら羨ましくてやさぐれても仕方ないかもね…っ、あははははは」
そんな訳で私からホセへの報復は、『慈愛の微笑みを浮かべて生温かい眼差しで見守る刑』が執行された。
私が怒らなかったせいか妙に怯えていたけれど。
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