第413話 テントでおやすみ

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\( *ˊᗜˋ* )/


◇◇◇


 エルフの里までの移動中、何度かテントで夜を過ごした。

 3人用をリカルド、ホセ、エンリケが使い、2人用を私とおじいちゃんで1つ、もう1つの2人用はエリアスが1人で使っている。



 エルフの3人は各自で持っているテントを使っているが、時々ガブリエルが羨ましそうに3人用のテントを見ているのでウリエルと一緒にテントを使えば良いんじゃないかと提案したら捨てられた仔犬の様な顔をした。

 どうやらウリエルとではガブリエルが求める賑やかさにはならない様だ。



 しかしエリアスとレミエルが2人だけで話す時間を確保する為には組み合わせを変える訳にはいかない。

 これまでテントで夜は静かだったし、2人の時間を作っていたのかどうかもわからない。

 そして明日にはエルフの里に到着するという位置のキャンプ場に到着した。



 既に近くに村や町は無い、徒歩だとここから2日掛けて最寄りの村に到着するといったところか。

 既にエルフの里は見えているらしい、既に陽が傾き始めているのでこれ以上は進まないが、遠くに見える鬱蒼うっそうとした山と森のどこかにあるんだとか。



「そういえばエルフの里にはお風呂ってあるの?」



「長老達の家にしか無いね、基本的に洗浄魔法で済ませるから。暑い時は川や湖で水浴びするけど」



「!!」



 ガブリエルの言葉があっさりと私の希望を打ち砕いた。



「お前は風呂が好きだもんな、それよりコレ酒にも合いそうじゃねぇ?」



 ショックを受ける私を余所に、茄子と豚バラ肉の味噌炒めを白米と一緒にかき込みながらホセがサラリと流した。



「ふっ、コレはビールに合うに決まってるでしょう! …って、飲みたくなっちゃうじゃない、ホセのバカ!!」



「誰がバカだ! 飲みてぇなら依頼主に許可貰えばいいだけの話だろうが!!」



「ハッ、ホセ天才…!?」



「はいはい、茶番はいいから、1杯だけなら問題無いでしょ。ただこの辺りからは村が無い事でわかるだろうけど魔物がよく出るから障壁魔法は使った方が良いよ」



「えへへ、ありがとうガブリエル! 『障壁バリア』」



「こんな広範囲に一瞬で…さすがアイル様ですね」



 川やテントを囲む為に半径50m程の障壁魔法を展開すると、ウリエルが感心した様に呟いた。



「俺達からすると魔法は全て凄いものだから何が凄いのかよくわからないな、広範囲だとやはり難しいのか?」



 蟹玉甘酢餡かけを取り皿に乗せながらリカルドが聞いた。



「範囲が広がる分使う魔力も多くなるのでその分魔力操作も難しくなるんですよ。んぐ…はぁ…、段々夕方に吹く風が涼しくなってきましたね」



 ウリエルはそう答えると水餃子のスープを飲み干し、じんわり額に浮かんだ汗を拭いながら気持ち良さそうに目を閉じた。

 私はビールの小樽とジョッキを出して人数分注ぐと、いそいそとネックレスを外す。



「「「「「「「「「乾杯」」」」」」」」」



 全員ジョッキを掲げてからグイッと煽る。



「ぷはぁっ、冷えたエールって美味しいんですね、今度から冷やして飲む事にします」



「ウリエル、これはエールじゃなくてビールって言うんだよ。タリファスで飲まれてるお酒なんだ」



「道理で…、エールより苦味があって喉ごしのキレも段違いなのはお酒の種類自体が違うからでしたか」



 エンリケがウリエルに説明すると、感心した様に頷いている。



「そういえば聖職者でもお酒飲んでいのだな」



「はい、帰依きえするとこの身は女神様に捧げているという事で結婚はできませんが、人生を楽しむ事はとされるので飲酒は問題ありません」



「なるほど」



 ウリエルの説明に頷くおじいちゃん、私達はカリスト大司教達と旅している間にお酒を飲む姿を見ていたけど、おじいちゃんは知らなかったもんね。

 一方レミエルは凄い顔をしていた、どうやらビールは口に合わなかった様だ。



「あはは、どうやらビールが苦手みたいだね、残りは僕が飲むよ。アイル、代わりに甘いお酒出してあげてくれる?」



「わかった。えっと…、これで良いかな」



 エドに教えてもらったライチのお酒をグレープフルーツの果汁で割ったなんちゃって『楊貴妃』だ、ブルーキュラソーが無いからあの綺麗な色にならないけど仕方ない。

 手渡すとレミエルは匂いを嗅いでから恐る恐る口をつけた。



「ん…! 美味しい! こんなに美味しいお酒って初めてだわ!!」



 ふふふ、そうでしょうとも、私もお気に入りのカクテルだからね。



「あ、そうそう、使ってるお酒が結構強いから一気に飲まない様に気をつけてね」



 自分の席に戻ってから注意すると、そこには空のグラスを持つレミエル。



「アイル、ちょっと遅かったみたい。でも大丈夫よ、普段お酒なんて飲まないけど弱く無いはずだから」



 確かに話し方もちゃんとしてるし、1杯くらいなら平気な様だ。

 安心して味噌炒めをおツマミにしてビールを流し込む、夏はやっぱりキンキンに冷えたビールだよね!



「くはぁ…っ、美味し~い! この1杯の為に生きてるぅ~!」



「はは、大袈裟だな、しかしその気持ちはわかる。ビルデオに居た頃にはこんな風に旅をしながら酒を飲むなんて考えもしなかった、幸せな1杯だ」



 おじいちゃんがちょっとしんみりしている、しょんぼりしたケモ耳を見てしまっては今夜はおじいちゃんを慰めるしかない。

 食事の片付けが済むと早々にテントに入って獣化したおじいちゃんをブラッシングし、もふもふに埋もれて眠った。

 テントにも空調の魔導具があるからこそ夏でも全力でおじいちゃんをモフれるのだ。



 そして翌朝、朝食の準備をすべくテントを出た私は二度見した。

 エリアスのテントから出て来たレミエルを。

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