第412話 魔法鞄の製作難易度

「うわぁ…、引き返して正解だったね」



 巨木の下で土砂降りの雨を眺めながら誰に言うとも無しに呟いた。

 馬車から降りて身体を伸ばしていたら一気に大粒の雨が滝の様に降って来たのだ。

 夏だから葉が生い茂って屋根の代わりをしてくれているが、葉っぱの無い冬だったら障壁魔法無しじゃ馬が可哀想な事になるところだった。



 木の下に居るとはいえ、水飛沫しぶきや葉っぱの隙間から水滴が落ちて来るので、昼食は9人も居るからちょっと窮屈だけど馬車の中で食べる事にした。

 普段外で食べる時に使う椅子に飲み物を置いて簡単にサンドイッチで済ます。



 リカルドは久々の照り焼きチキンサンドでご機嫌だ、各自好きなサンドイッチをリクエストしてもらい、ストレージから出して取り皿に乗せていく。

 ウリエルとレミエルは初めてなので先に出された物を見てから選んでもらった。



「いやぁ、あの町で皆さんに会えて良かった、でなければ暑くてジメジメした中で携帯食を食べていたでしょうから。それがこんなに快適な馬車の中で美味しい食事が頂けるなんて」



 馬車が快適なのは王族仕様の空調魔導具付きで最高級の座席のお陰なんだけどね。

 レミエルも忙しそうに咀嚼そしゃくしながらコクコクと頷いている。



「携帯食じゃなくても時間停止機能のマジックバッグなら出来立ての食事が食べられるでしょ?」



「時間停止のマジックバッグですか…、確かに里にはありますが、持ち出したらすぐに破れてしまいそうな古い物ばかりなのです。大抵中に古い魔導具や宝物が収納されていますから持ち出せませんね。新たに作ろうにも魔導期の宮廷魔導師長レベルの魔力量と魔力操作でないと作れませんからね。………もしやアイル様は作る事が出来るのでしょうか?」



 あ…っ、この眼差し知ってる、カリスト大司教達が私を褒め称えてくれる時の目だ。

 やれるかやれないかと聞かれればやれる、確かにあの魔法式は女神様にインプットしてもらわなかったら一生掛かっても覚えきれないレベルの複雑さだもんね。



「女神様の恩恵で…ね、やろうと思えば出来るよ…たぶん」



 試した事は無いから絶対とは言わない方が良いよね、例えるなら凄く細かくて複雑な魔法陣が5層になってると言えばわかるだろうか、そこへ均一に大量の魔力を乗せなきゃいけないのだ。

 これは笛やトランペットみたいな楽器を30秒間一定の、尚且なおかつ大きな音で吹き続けるのに近い難易度かな。



 本当に女神様から貰ったチートが無いと無理なやつ。

 魔導期の人はそれを実力でやり遂げて時間停止機能のマジックバッグを作ったって言うんだから凄い。

 そりゃ魔導期終わってから国宝や家宝になるってものだよ。



「これまでの賢者様の中でアイル様が最も素晴らしいというカリスト大司教の言葉は本当ですね」



「え? でも他の賢者達も出来たでしょ?」



「前の御三方おさんかたは何と言いましょうか…、サブロー様は根はお優しいのですが口が悪く職人に多い頑固な方で、ソフィア様は自由奔放で気がとても強く、アドルフ様は優秀でいらしたのですが偏屈…いえ、自分の中で認めたくないモノは一切受け付けない方でしたので、アイル様が柔軟に物事を受け入れて話に耳を傾けて下さる方で本当に嬉しく思います」



「3人共凄く癖の強い人達だったのはわかったよ、大変だったんだねぇ…。私もそうだけど女神様が選んでこの世界に連れて来た訳じゃ無いから良い人とは限らないから」



「そうなのですか?」



 やはり私達が地球から来てる理由は教会本部でも知られていないらしい。

 女神様の立場が無くなっては困るからこれはやはり秘匿しておいた方が良さそうだ。



「だよね、アイルに問題が無いかって聞かれても無いとは答えられないし」



「「「「ぶふっ」」」」



 エリアスの言葉にエルフの3人以外が吹き出した。

 特にウリエルとレミエルは酔った私を見ていない事もあってキョトンとしている。

 さすがに会ったばかりの人に自分のみっともないところを見せようとは思わないからね。



「完璧な人なんて居ないって事だよ、誰しも弱点や欠点があるから仲間や家族と補い合うんでしょ」



「その通りですね、さすがアイル様です」



「へッ、お前の場合はそのネックレスで補ってんだろうが」



 私とウリエルが微笑み合っていると、ホセが鼻で笑った。



「そういえば気になっていたのです、そのネックレスの魔力はガブリエルのものでは?」



「気付いたかいウリエル、私が魔法を付与したんだ、なんせ私とアイルは友達だからね!」



 ウリエルの質問に私より先にガブリエルが胸を張って答えた。



「友達…ですか。レミエルはエリアスに心を寄せている様ですし、てっきりアイル様とガブリエルがお付き合いしているのかと思ったのですが違いましたか。ガブリエルは里から出るのが遅くなりそうですね」



「少なくとも俺達が見ている限りガブリエルとアイルの間に恋愛感情は無いな、…しかしどうしてガブリエルが里から出るのが遅くなるんだ?」



 エリアスの目が泳いでいる、リカルド達が見てないところでも私とガブリエルに恋愛感情なんて全く無いんだけどね。

 ウリエルの答えを待って視線が集まる。



「そりゃあ…、今回レミエルがガブリエルに会いに行ったのは子孫を残す為だったでしょう? 以前からそろそろガブリエルを連れ戻すという話が出ていましたから。レミエルはガブリエル以外の相手を見つけた様ですからガブリエルが新たな相手を選ぶまでは出してもらえないかと…。特にまた魔法が使える子供が産まれる様になったと知ったら余計でしょうね。私は聖職者なので免除されていますが、ガブリエルは…ね」



 連れ戻したとしても私以上に恋愛感情が死んでるガブリエルに結婚相手なんて見つかるのだろうか、まさか里から脱出する為の戦力として私達を連れて来たなんて事は無いよね!?

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