第411話 ウリエルのお説教
「大司教という立場上それなりに
翌朝、一緒にエルフの里まで行く事になったウリエルが手渡してきた小さな袋にはギッシリと金貨が詰まっていた。
「あ、いや、これは多過ぎるにも程があるよ」
「いえ、私にとってそのくらいの価値があるという事です。もし多くて受け取れないとおっしゃるのならば、旅先でお腹を空かせた人が居たら何か食べさせてあげて下さい」
そう言って慈愛の微笑みを浮かべたウリエルに、思わず手を合わせて拝みたくなった。
「お前何やってんだ?」
「ハッ! ウリエルのあまりの聖人っぷりについ本当に拝んじゃった」
呆れた視線を向けるホセの言葉に我に返る、どうやら無意識に手を合わせていた様だ。
何と言うか、昨日から思っていたけどウリエルって凄く…まともだと思う。
ウリエルが特別なのか、それともこれまで会ったエルフが特別なのか、エルフの里に行けば真実がわかるだろう。
そういえばエンリケは各地を転々としていたって言ってたけど、エルフの里には行った事が無いんだろうか。
今は御者をしているから聞けないけど、もし行った事あるなら顔見知りが居る可能性がある。
その場合おじいちゃん達にも竜人だってバレちゃうな…、だけどおじいちゃんならバレてもきっと大丈夫だよね。
ウリエルも大丈夫そうだけど、レミエルはどうだろう、外と殆ど交流の無いエルフの里に住んでるなら問題ないかな。
心配していたガブリエルも誰かに話したりしてないみたいだし、同じ長命種だからあまり気にしてないだけだったりして。
「そういえば気になってたんだが…、エルフといえば森のイメージのはずが、レミエルはなぜ森で迷子になってたんだ?」
リカルドがふと思い出した様に聞いた、私も気になってたんだよね。
「あはは…、あれは探索魔法で大きい町に行くには森を突っ切った方が早いって思ったから真っ直ぐ進んでたつもりだったんだけど、意外に大きい段差があったり魔物が多かったりで迂回してたらいつの間にか方向がズレちゃってたみたい」
「全く…、レミエルは相変わらず大雑把ですね」
「苦手なんだもの…」
ウリエルは呆れた様にため息を吐いた、どうやらレミエルが森で迷子になったのは初めてでは無い様だ。
「レミエルは魔力量はそれなりにあるから広範囲探索出来ますが、魔力操作がいつまで経っても上達しないんですよ、昔から細かい事が苦手で何度ガブリエルが尻拭いしてきたかわかりませんね」
ガブリエルにとってレミエルは手の掛かる妹的存在なのかな、それだと余計に恋愛感情なんて抱かないよね。
ちなみにレミエルはエリアスの隣をキープしている、今となってはガブリエルがレミエルに恋愛感情を持ってなくて良かったのかもしれない。
「魔力操作で魔法の効果が変わったりするのか?」
リカルドが前のめりになって聞いた、自分も魔法が使えるってわかってから以前より魔法に興味を示す様になったよね。
「そうだなぁ、例えば魔法式に魔力を乗せる時に均一に魔法式に乗せる事が出来れば良いけど、凸凹した状態で乗せてしまうと威力が落ちたり暴走したり不具合が起きるんだよ。生活魔法と言われる様な簡単な魔法式なら殆ど関係ないんだけどね」
私の説明にウリエルとレミエルが頷いて同意してくれた。
『ねぇ、ひと雨来そうだけど近場で休憩する? それともガブリエルに障壁魔法で雨除けしてもらってこのまま進む?』
御者席のエンリケが車内のリカルドに意見を聞いた。
「この辺りまで来るとこの時期に降る雨は結構激しいですから道がすぐに
「エンリケ、聞こえたか?」
『うん、じゃあ戻るね』
「頼む。ウリエルもありがとう、道に詳しい人がいてくれて助かった」
「どういたしまして」
ウリエルのアドバイス通りに数分程来た道を戻って休憩する事になった、そしてある事に気付く。
「ウリエルはこれまで何度もこの道を往復してるんだよね?」
「はい、もう何回通ったかわからない程に」
「私達と会った時は宿に居たけど、あの町まで乗り合い馬車にでも乗って来たの?」
「いえ、ウルスカからこちらの方には乗り合い馬車も出ていないので商人に同行させて貰うか貸し馬を使うのが普通なんです」
ん? 何か今の言い方引っかかる。
「ウリエルはどうやって来たの?」
ウリエルの旅装は大司教の衣装にショルダーバッグ1つ、鑑定したら
「そうですね、あの町までは大抵貸し馬を使って移動する事が多いですが、それ以降は身体強化で走って行く事が殆どです」
「そうそう、馬が居ると世話もしなきゃいけないけど、自分1人ならその方が楽だもの」
私達が驚きでポカンと口を開けていたら、当然と言わんばかりにレミエルが頷いた。
「ただ街道を走って移動すると他の人達を驚かせてしまいますから、人影が見えたら走らない様に気を付けないといけませんが」
「えっ!?」
「え?」
ウリエルの言葉にレミエルが驚いて声を上げ、そんなレミエルの反応にウリエルはレミエルを見た、その目が段々とジトリとしたものに変わっていく。
「まさか…、他の馬車や馬で移動している人達が居ても気にせず走り抜けたりしてませんよね? 走っている馬が驚いたら大変だと知っていますよね? 何も考えず走り抜けた…と?」
「ひ…っ、その、あぅ…、ご、ごめんなさい…!」
レミエルが顔面蒼白になりカタカタと小刻みに震えている。
「はぁ…、全く、いくつになっても相変わらず思慮深さとは無縁な行動をするんですから…レミエル」
『到着したよ、馬と馬車を一旦外すね』
「ああ、少し早いが昼食しようか」
本格的なお説教が始まる空気になった瞬間キャンプ場に到着した。
レミエルはあからさまにホッと胸を撫で下ろし、馬車からウリエルが降りたのを確認してコソッと
「ウリエルは普段凄く優しいけど、お説教を始めると時間の感覚がわからなくなるくらい何時間も平気で続けるの…! 怒鳴ったりせず静かに淡々と正論を言い続けて泣いて謝っても終わらないからお説教が始まると恐怖でしかないのよ」
それを聞いて仲間達とアイコンタクトをとった時、皆同じ事を考えたと確信した。
エルフって皆どこか変わってる人達ばかりだと。
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